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五宝剣物語  作者: 水原渉
第4章
50/57

4-8

 セフィンがヨキに宝石を奪われた2日後、リスターたちもまたユロパナームにいた。

 こちらはセフィンよりもずっと確実に、パレンのいる場所に向かっている。道案内がいるからだ。

 三人はエルボーニで出会った魔法使いの少女、リューナを伴っていた。

 元々パレンのことはセフィンに任せるつもりだったのだが、彼らを裏切ることを決意したリューナが、どうしても直接彼らの野望を阻止したいと言い出したのだ。

 聞くと、リューナは『五宝剣』の宝石に込められた魔法を発動した後、エルボーニの街を滅ぼすよう命じられていたらしい。

 つまりパレンは、セフィンから『赤宝剣』の宝石を奪う自信があるということだ。

 そのため、本来であればリューナを止めるであろうリスターも、リューナの申し出を承諾した。

 リスターの防御魔法で寒さを風と雪を防ぎ、リューナの魔法で距離を稼ぐと、やがて山間の大地に小さな村が見えてきた。

 いや、村というのもおこがましい小さなものだ。数軒の家が、山肌と森の間にひっそりと立っている。

 その森の向こう側に、ドーム状の魔法の光が見えた。もちろん光だけでそれが何の魔法陣かを言い当てる術はないが、恐らく寒さを防ぐ結界魔法だろう。

「あれが魔法使いたちの拠点です。パレンの仲間の魔法使いはたくさんいるけど、ほとんどが私みたいに各地に散らばってるから、あそこにはそんなにたくさんいないと思います」

 遠くに映る家々を指差して、リューナが神妙な顔つきで言った。

 それを睨みつけるように目を細めて、ルシアが問いかける。

「具体的には? 10人くらいか? 20人か?」

 あからさまに刺のある口調だ。ルシアはいきなり攻撃を仕掛けてきたリューナをあまり好いていなかった。

 それはリューナにしても同じだった。

 初めは悪いことをしてしまったのだからと我慢していたが、ここまで明確な敵意を向けられては我慢のしようもない。

「知っていたら初めから言うわ。別に何人いたって、どうせ全員倒すんだから一緒でしょ」

「数が把握できなかったら戦略も変わってくるだろう」

「私がいてもいなくてもどうせわからないんだから、八つ当たりされても困るわ」

 ルシアはむっとなったが、言い返す言葉がなく黙り込んだ。

 エリシアはやれやれという顔でリスターを見上げ、彼はただ一言だけ注意した。

「二人とも、ケンカしたい気持ちはわかるが、戦闘中は仲違いするなよ」

 リューナは渋々承諾したが、ルシアは唇を尖らせたまま何も言わなかった。

「まあ、こういう子だから……」

 困ったようにエリシアがリューナに説明して、ルシアはますます不機嫌になった。

 村の家々の形状がはっきりと見えてきた頃、不意に強い敵意を魔力を感じてエリシアが足を止めた。

「みんな、気を付けて。敵は私たちを待ち構えているわ」

「じゃあもう、臨戦体勢に入っておいた方がいいな」

 そう言ってルシアが『青宝剣』を抜いたのが戦闘の合図となった。

 恐らく自分たちのことを気付かれたとわかったのだろう。森から一斉に魔法が放たれる。

 リスターは一瞬リューナを見て頷くと、すぐに防護壁を張った。その隣でリューナも同じように障壁を作り上げる。

 パレンの仲間たちの魔法は、四人に凄まじい衝撃を与えたが、実ダメージは一切与えられなかった。

「お返しだっ!」

 ルシアが声を張り上げながら『青宝剣』を思い切り振り下ろす。

 同時に、より相手に近付くために駆け出した。

 敵は同じように魔法を放ってくるが、それらはルシアの後に続く二人の魔法使いがことごとく受け止めた。

 替わりに、森に潜んでいた魔法使いたちが、ルシアの放つ剣の力に次々と倒されていく。

 もはやどちらが悪なのかわからないような殺戮だったが、少なくともルシアの胸が痛むことはなかった。

 エリシアもそうだったかも知れない。敵の中には姉妹の村を襲った者も混ざっていたのだ。

 元々は味方だったリューナは複雑な顔をしていたが、エルボーニにいた時に本当に大切なものを見出した彼女もまた、彼らに同情することはなかった。

 やがて、10分も戦闘を繰り広げると、敵の魔法が止んだ。

 エリシアが「村からも魔力を感じない」と言ったので、恐らく壊滅させることに成功したのだろう。

 ルシアはそう思って喜んだが、それはすぐに否定された。

「パレンもウェルザもいないわ。彼らは向こうにいる」

 リューナの言葉が言い終わらない内に、エリシアが厳しく眉をひそめた。

「そのようね。向こう側で魔力がどんどん魔力が膨れ上がってる……」

 思わず頭を抱えたエリシアを、リスターが抱き寄せるようにして支えた。

「やつら、セフィンから宝石を奪ったのか……?」

 彼の言葉に、ルシアが蒼白になった。

 もちろん、宝石が奪われ、彼らが王国に対して何かの魔法を使おうとしていることにではない。何よりの友であるセフィンの身を案じたからだ。

 無意識の内にルシアは駆け出していた。すでに宝石を奪ったのだとしたら、今さら慌てても仕方ないのだが、感情が抑えられないのだ。

「あ、ちょっと! 戦略はどうしたのよ!」

 あまりにも無謀な突撃に、リューナが批難の声を上げる。

 そんな少女の背を軽く叩いて、リスターが笑った。

「走り出してしまったもんはしょうがない。それに、どっちみち急がないとな」

「リューナ。ルシアの口から戦略なんて言葉が出た方が例外なのよ」

 明るくそう言って、エリシアがルシアを追って走り出す。

 リューナは憮然となったが、大人の二人にまでそう言われては従わざるを得ない。

 身軽なルシアに追いつくのは少々骨が折れたが、どうにか森を出るまでには合流することができた。

「ルシア。気持ちはわかるけど、後先も考えずに突撃するのは良くないわ」

 息を切らせながらエリシアがたしなめる。

 リューナは先程と言っていることが違うと、驚いたように目を丸くしたが、当のルシアはまるで聞いてはいなかった。

 睨みつけるような相貌。ルシアの瞳に映っているのは、この冬の山岳地帯にあるまじき、緑に覆われた楽園のような景色だった。

「結界だな……。中に入っても大丈夫だ」

 神妙な顔つきで、リスターがその中に足を踏み入れる。途端に暖かい空気が彼を包み込み、完全防備の服のせいで額に汗が滲んだ。

 もっとも、彼が汗をかいたのはそのせいだけではない。

 急速に膨れ上がっていく魔力。元々感受能力の強いエリシアは、あまりの魔力に頭を抱えて膝をついた。

「姉貴!」

「だ、大丈夫……」

 蒼白な顔でエリシアは笑って見せた。

 魔力の発信源は、この何もない空間においてすぐに見つけ出すことができた。

 リスターたちの立っている場所から数百メートルのところ。そこに3つの人影があった。

「パレン!」

 リューナが叫ぶような声を出し、半ば反射的に駆け出した。恐らくそれは、この膨れ上がる魔力を止めるためではなく、自らの心を束縛しているパレンを殺し、その束縛から逃げ出したい思いが爆発したからだろう。

「さっきと言ってることが違うじゃねーか!」

 文句を言いながら、すぐにルシアも走り出し、あっという間に少女を追い抜いて彼らの許へ辿り着いた。

 そこにいたのは、銀髪の青年パレンと、その母親であるウェルザ。そして藍色の髪をした青年をした青年。

「ヨキっ!」

 ルシアが出した声に、バリャエンで出会った魔法使いは驚いた顔をした。

「ああ、そういえば君はセフィンではなかったんだな。ルシアだっけ?」

「ヨキ! セフィンをどうしたんだ!?」

 飛びかかりたい気持ちをぐっと堪えて叫んだ。今飛び出したら、パレンに殺されると本能的にわかったのだ。

 ヨキは深く目を閉じて小さく首を振った。

「セフィンがどうこう言う問題はともかく、彼女の持っていた『赤宝剣』の宝石はここにある。それが答えじゃダメかい?」

「ヨキっ!」

 ルシアは思わず歯を食い縛った。手の平に爪が食い込み、肩が怒りに震えている。

 そんな少女の肩をグッとつかんで、リスターがパレンを睨め付けた。

「お前の仲間はすべて殺した。後はお前たちだけだ」

 凍りつくような低い声だったが、パレンはまるで気にすることなく、平然と笑った。

「お前が殺したのはたったの十数人だが、僕はこれから万単位の人を殺す」

「そう簡単に行くと思うなよ」

 言いながら、リスターは右手に魔力を込めた。

 ルシアも剣を抜き放ち、リューナもまた彼の隣で戦闘の構えを取る。

 そんな憤る3人に、パレンは手を伸ばしてそれを止める素振りをした。

「すでに魔法は使った後だ。お前たちの到着は遅かった」

「何っ!?」

「そんなに死に急ぐこともないだろう。それよりも、あれを見てみなよ」

 まるで楽しみを見つけた子供のような声でそう言って、パレンはすっと彼方の空を指差した。

 4人はつられるようにその方角を向き、思わず息を飲む。

 首都ライザレスのある方向。その空がまるで闇に包まれたような真っ黒な雲に覆われていた。

「あ、あれは……」

「70年前の魔法使いたちの呪いだ」

「呪い?」

 リスターの問いかけに、パレンはまるで切り札でも出すように、得意げに笑った。

「そうだ。70年前、王国は魔法使いを滅ぼすために、捕えた魔法使いたちに『五宝剣』を作らせた。彼らは王国を恨み、剣にある力を込めた」

「それが、その魔法か……」

 パレンが大きく頷く。

「彼らは持てる限りの力を振り絞って、ライザレスを一撃で滅ぼす魔法を宝石に込めた。そして今、僕はその魔法を使った。王国は終わりだ。首都が吹っ飛ぶ瞬間を、お前たちも一緒に見ようじゃないか!」

 語尾を吊り上げて言うと、パレンは素早く呪文を唱えた。

 それはいつかリスターが、王城でニィエルに使って見せたものと同じものだ。

 地面に描かれていた魔法陣が輝き、そこに王都の様子が映し出される。

「こ、これは……」

 思わずエリシアが息を飲んだ。

 夜のような闇に覆われた街には、混乱した人々が溢れ、暴徒と化して城に集まっていた。

 何かを叫んでいるようだが、魔法陣は声までは届けない。けれど、内容は容易に察しがついた。

「今からこいつらが一撃で死ぬ。楽しいだろう」

 笑ったパレンを、リスターは静かに睨みつけた。もちろん、だからと言って彼に為す術はない。

 魔法陣の向こうで、凄まじい稲光が轟いた。

 4人は青ざめたまま息を飲んだ。


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