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五宝剣物語  作者: 水原渉
第4章
43/57

4-1

 周囲は冷たい風が轟々と吹いているというのに、その一角だけは暖かい空気で満たされていた。

 ふと目を遣ると雪に覆われた山々がその頂を連ねているが、足元には緑の草が生い茂っている。

「冬は、寒いのが普通なんだよ?」

 わずかにしゃがれた声でそう言ったのは、そろそろ中年の域すら出ようという婦人だった。

 話しかけた相手はニィエルと同じくらいの歳の青年だ。短い銀髪の美貌だが、近付き難い雰囲気を醸し出している。

 青年はつまらなそうに言った。

「魔法で暖かくできるのに、何もわざわざ寒さに凍えることもないだろう。使えるものを使わない道理はない」

 彼らの立つ空間は、魔法によって作り出されたものだった。地面に巨大な魔法陣が描かれ、その端を境に雪が積もっている。

 婦人は呆れたように笑ったが、反論はしなかった。むしろ彼の返事に満足げですらある。

「ところでウェルザ。セフィン王女が生き返ったというのは本当か?」

 不意に青年が瞳を鋭く光らせた。セフィンを敵視するようでもあり、尊敬するようでもある。

 ウェルザはゆっくりと頷いた。

「ジレアスを殺し、『青宝剣』を奪っていった奴らが復活させたようだ。まったく、余計なことをしてくれた」

 ユアリか誰かが聞いていたら、顔を真っ赤にして怒りそうな台詞だったが、生憎その場には「奴ら」の味方はいなかった。

「ジレアスが殺されたと聞いたときは、『青宝剣』がなくなったことに悲しんだものだが、まったくそれどころじゃなくなったってわけだな?」

 銀髪の青年は深く溜め息を吐いた。

 セフィンは恐ろしい能力を秘めた女性だ。真正面から戦って勝てる相手ではない。

 かと言って、放っておけばいつかここを突き止めてやってくるだろう。

「ふーむ。まあティランも、まさかこんなことになるとは思ってなかったろうからな。蘇生の魔法など、存在も知らなかった」

「私もだ。どうにかしてセフィンを懐柔できんもんかのぉ」

 苦しげに呟いた婦人に、青年は笑って言った。

「無理だな。それよりは、如何にして殺すかを考えた方がいい」

「セフィンを殺すか……。容易ではないぞ?」

「懐柔するよりは楽だ。彼女は世間知らずだし、こっちにはまだ『緑宝剣』と『紫宝剣』がある。どっちにしろあれを奪わないといけないしな」

 青年の顔は自信に漲っていた。失敗することなどまったく考えていない。

 ウェルザは頼もしそうに笑った。

「私はそういうのは苦手だ。パレンに良い考えがあるなら任せるよ」

 青年は口元を釣り上げて笑った。

「セフィンは問題ない。後は……例のジレアスを殺した連中。ちょっと腹立たしいな」

「殺すか?」

 ウェルザがにんまりと笑う。歪んでいるのは顔だけではないらしい。いや、むしろ内面の歪みが顔に出ていると言うべきか。

 パレンは事も無げに頷いた。

「そうだな。リスターとかいうのは魔法使いなんだろ? 魔法使いのくせに僕たちに対抗しようってのが腹立たしい。そいつもセフィンも、まとめて屠ってやる」

 まるで小さな子供が蟻の触覚でもむしり取るかのように、パレンは残酷な笑みを浮かべて言った。

「奴らは今?」

「エルボーニに向かっているみたいだな」

「エルボーニ!」

 パレンは目を大きく見開いた。

「それは好都合だな……。そろそろ動くときなのか……」

 ぼそりと呟いたパレンに、ウェルザが真剣な瞳を向けた。

「いいのか? 一度動き出したら80年前同様、後戻りはできんぞ?」

「わかっている……」

 パレンは深く目を閉じた。

 魔法使いの一斉蜂起。パレンは過去に何度もその選択を考えたが、実行には移さなかった。

 何故なら、戦争が避けられないからだ。現状ではまだ魔法使い側が不利だ。確かに魔法使いの敵となる『五宝剣』は押さえたが、魔法使いの能力、全体数、団結力、すべてにおいて80年前を下回った。

 下手に表立って動いては、王国が全国的に魔法使い狩りを行うかも知れない。そのためにパレンは、今まで慎重に行動してきた。

 けれど、バリャエンでの一件に引き続き、アルボイの魔法使い狩りを発端にして、王子であるニィエルが自分たちの動きを知ってしまった。

 ぐずぐずしていたら後手に回るかも知れない。

「セフィンを殺せば最後の宝石も手に入る。エルボーニから順番に準備を進めて、あれの発動と同時に蜂起しよう」

 青年の決定に口出しする気はないらしく、ウェルザは静かに頷いただけで何も言わなかった。

 パレンはじっと遠くの山々を見つめていた。まるで、80年前を振り返るような遠い瞳で。

「まさか、ナリアの血を引いた僕たちが、セフィンと争うことになるとはな……。運命は不思議だ……」

 独り言のようにそう呟いたパレンに、ウェルザはやはり無言で頷くだけだった。


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