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五宝剣物語  作者: 水原渉
第3章
32/57

3-4

 夜までの間に、さらにもう二人の男女が連れられてきた。夫婦だという。

 二人とも30過ぎくらいだ。魔力は女の方にだけあるようだが、一人で行かせるわけにはいかないと、夫も同行を申し出たらしい。

 リスターは呆れたように溜め息を吐いた。魔法使いでない、単に魔力だけを持った人間など、この国にはたくさんいるはずだ。

 確かに魔法使いの血は減少する一方である。それは、魔力を持つ者は、やはり魔力を持つ者とでないと子供に恵まれにくいからだ。

 魔力が関係しているらしいが、詳しいことはわかっていない。ただ、統計的に確実なデータである。

 それでも、完全に生まれないわけではない。今ここにいる3人のように、自分が魔力を持っていると知らない者も多々ある現状、魔力を持つ者の完全排除など無理なのだ。

 夫婦は先程まで絶望に泣き濡れていたが、今はリスターのことを知り、安心して眠っている。

 あれだけ魔法使いを嫌っていた一般人が、いざこういう状況に立たされるとその力に頼り、感謝する。

 もちろん、それを醜いとは思わない。もしくは、人間はすべて醜い生物なのだ。

「それじゃあ、行って来ることにするが、くれぐれも俺がいなくなったことに気付かれんようにな。なに、夜の内には戻ってくる。大人しくしていればバレんよ」

 リスターが明るい声を出すと、グネスはこくりと頷いた。

 キーケッドは今は起きていたが、虚ろな目で二人を見つめていた。まだショックが大きいらしい。

 話だと、今回の魔法使い狩りの発端は、彼が盗みを働いたことだという。

 貧しい家庭に生まれたキーケッドは、他人から盗む金品で家計を助けていた。

 けれど、4日前にとうとう捕まってしまったらしい。

 この国では罪人はまず真っ先に魔力検査を施される。そして彼は、偶然にも魔力を持っていた。

 彼は咄嗟に流れ者だと嘘を吐いたために、両親は捕縛されずに済んだ。

 グネスの場合は別で、両親からは魔力が検出されなかったという。遺伝の関係でそういうことも有り得ることをリスターは知っていたが、グネスは自分が実の子ではないのだとひがんだそうだ。

 リスターは牢の下に穴を空けて外に出ると、再びその穴を埋めた。

 グネスが、彼がもう二度と戻ってこないのではないかと、不安げな顔をする。

 リスターは苦笑しながら、「大丈夫だ」と言い聞かせた。

 音を立てないように階段を上ると、二人の兵士が立っていた。幸いまだリスターに気が付いてないようである。

 彼は不審を煽らないよう、10分ほどの時間をかけてじわじわと二人を眠らせた。そして二人の間を擦り抜ける。

 城内は静まり返っていた。もう夜遅くだ。当然だろう。

 浮遊の魔法は苦手だったが、姿を消す魔法はもっと苦手だったので、リスターはふわりと床から足を離すと、そのまま高い天井にへばりつくように浮かび上がった。

 足音さえ立てなければ、やすやすとは見つかるまい。逆に相手の足音はこの静まり返った通路によく響くので、リスターが先に見つかる心配はまずない。

 彼は周囲に細心の注意を払いながら、迷うことなく先に進んだ。

 長い通路を抜け、角を折れ、何度か階段を上ると、やがて彼は一つの扉の前に辿り着いた。

 静かにその前に降り立つと、開錠の魔法をかけて中に入る。

 そこは、王国の第一王子ニィエルの寝室だった。白いヴェールに囲まれたベッドで、今年24歳になる金髪の青年が横たわっている。

 彼が、リスターが城へ潜り込んだ二つ目の理由だった。

「ニィエル王子」

 彼の側まで歩いていき、リスターはなるべく穏やかな声で彼を起こした。

 何度か呼びかけると、王子は目を開き、勢い良く半身を起こして油断なく構えた。

「何者だ」

 ベッドから起き上がり、護身用の剣を取る。気迫は十分だったが、リスターは平然としていた。

「魔法使いのリスターと言います。噂に聞く王子と少し話をしたくてやってきました」

 魔法使いと聞いて、ニィエルの目がスッと細まった。

 けれど、警戒は解いたらしい。剣を台の上に戻しながら口を開いた。

「噂とは、どんな噂だ?」

「少々変わっている、という噂です。剣は良かったのですか?」

 からかうようにそう言うと、ニィエルは軽く手を振った。

「殺す気なら簡単に殺せただろう。しかし、君はそんなつもりはなかったようだが、その気になれば魔法使いどもは、いつでも私を殺しに来れるということだな」

 投げ遣りにそう言った王子に、青年は首を振って答えた。

「いや、どうですかね」

「何故だ?」

「まず第一に、城に入るのはそれなりの努力が必要です。俺は今アルボイで行われている魔法使い狩りで狩られて、牢に入れられてましたから」

「アルボイ?」

 リスターの言葉に、王子は怪訝な顔をした。どうやら魔法使い狩りのことは、王子の耳に届いてないらしい。恐らく将軍格の者が、わざわざ王子の耳に入れるほどのことでもないと判断したのだろう。

「それについてはまた話します」

 リスターはやや不愉快そうな顔になった王子にそう言ってから、話を続けた。

「2つ目に、魔力の大きさと魔法の上手さですね。よほどの者でないと無理でしょう」

「なるほど。君はその『よほどの者』なわけだ」

 楽しそうに笑った王子に、リスターは不敵な笑みを返した。

「3つ目は、この場所です。初めから部屋を知っていないと、すんなり来るのは難しいでしょう」

 ニィエルはすっと目を細めた。

「つまり君は、初めからこの部屋の場所を知っていたと? どうやって知った?」

 凄みを帯びた声だったが、リスターは何事もなかったように返した。

「ある場所にはあるということです。地図や情報くらい、いくらでも」

「なるほどな」

 ニィエルはその回答に満足したのか、深く息を吐いて表情を和らげた。

「私は世間知らずだ。それに君は並みの人間より世間に詳しいらしい。ここは一つ、君の持ってきた話を素直に聞くことにしよう」

 そう言って、彼は明かりを点けて椅子に腰かけた。

 リスターは軽く頭を下げてから、勧められた椅子を引いた。

「噂通り、少し変わった人で助かりました。こうもあっさり話を聞いてくれるとは、さすがの俺も思ってませんでしたね」

 ニィエルは脚を組んで肩をすくめた。

「話を聞くことと信じることは別問題だ。ましてや、その後に何らかのアクションを起こすとなると、もはや別次元の話だと思ってくれていい」

 もっとも、言葉の割に彼の顔にはあきらかな好奇心が芽生えていた。話次第では大掛かりな行動も辞さないつもりらしい。

「率直に言うと、魔法使いのことです」

 リスターは態度を改めてそう切り出した。

「王子は、今世間で言われている『魔法使い』を、どれくらい見たことがありますか?」

「君が初めてだ」

 ニィエルは首を横に振りながら、そっけなく答えた。

 リスターは満足げに頷いて席を立った。

「それなら、今この城の牢に、魔法使いと呼ばれている人間が4人入っています。少し見ていただきましょう」

 彼は言いながら、袋からチョークを取り出して床に魔法陣を書き始めた。

 ニィエルが興味深そうに覗き込む。

「そこに映し出せるのか?」

「少し時間がかかりますが。王子に牢まで足を運ばせるわけにも行きませんから」

「私は別に構わなかったが……」

 ニィエルの言葉に、リスターは苦笑した。やはり噂に違わぬ変な王子だ。

「俺が見てきたものを投影する魔法です」

「魔法はそんなこともできるのか」

「『よほどの者』なら」

 リスターがそう言うと、ニィエルは楽しそうに笑った。

 床に人が3人ほど入れそうな円を描き、その周りに遥か古代に使われていた記号のような文字を書き込んでいく。

 内部にさらに円を描き、それを繰り返していく内に、やがて魔法陣が完成した。

「それでは、魔法使い狩りで捕まり、これから法に基づいて殺されなければならない4人を見てもらいましょう」

 リスターは無表情でそう言って、早口に魔法を唱えた。

 ぼんやりと光り出した魔法陣の向こう側に、リスターがしばらく前に見ていた4人の姿が浮かび始めた。


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