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第89話 タイプ別

 大書庫に戻ると、ノア様が足を組み、身長の半分ほどはありそうな巨大な魔導書を読んでいた。


「ノア様、少しお話が」

「あら、なに?」

「実はですね」


 わたしはルシアスがオウランの才能を見抜き、オウランには弓の方が合っているという旨を説明した。


「というわけでして」

「なるほどね。才能を生かすのはわたしとしても願ったり叶ったりよ。オウラン、ちゃんと精進しなさい」

「かしこまりました。………それでノアマリー様、一つご質問してもよろしいでしょうか」

「なにかしら」

「あなたに文字通り尻に敷かれている僕の姉は、一体なにをしているんでしょう」


 オウランはノア様の座っている椅子、正式名称オトハを冷めた目で見ながら質問した。

 つっこんだら負けな案件かと思って放っておいたんだけど、我慢できなかったらしい。


「見ての通り、お仕置き中よ」

「ハァッ、ハアッ、ハフーッ、お、お嬢様の愛らしいお尻で潰していただけるなんてっ、私は前世でどのような善行を積んだのでしょうか………!」

「喜んでるように見えるんですが」

「もうほとんどご褒美ですね」

「意外と座り心地良いのよねぇ」


 ノア様のサドな一面に火が付いてしまわれたらしい。

 だけどオトハのマゾが火事を起こしているので、そろそろやめてほしい。

 ちょっと人様に見せられない顔をしていて、オトハの実像をまだよく知らない後ろのルシアスが引き倒している。


「じゃあやめるわ」

「ああっ、そんなご無体な!?もう少し、もう少しだけ!」

「一ミリもお仕置きになってないじゃないすか」

「完全にただのご褒美ですよそれ」

「このおあずけがお仕置きだから大丈夫よ」


『おあずけがお仕置き』ってなんだろう。


「こ、これが噂に聞く放置プレイっ………嗚呼、お嬢様におあずけされていると思うと、ゾクゾクしますわっ………!」

「それもご褒美になったみたいですね」

「もうヤダこの馬鹿姉」

「やっぱりドМってある意味無敵の生物よね」

「………お前らいつもこんなことやってんのか?」


 あまりのオトハの痴態にドン引きしているルシアスだった。

 こればかりは仕方がないので慣れるしかない。


「大丈夫ですルシアス、これに引いてくれるということはあなたは比較的常識人です」

「ああ、ステアと同じチームだな」

「なんだよチームって」

「わたしとオウランが『常識人タイプ』。ノア様とオトハの『イカレタイプ』。そしてあなたとステアの『傍観タイプ』です」

「ちょっと待ってくださいな、私はクロさんが常識人だなんて思えませんわよっ!」

「ちょっと待ちなさい、なんで私がこの変態と同じ区分なのよ」

「はぅんっ!?も、もっと罵ってくださいませぇ………」

「頭のネジがどこか外れているという視点で見れば十分同類です」


 ノア様に『変態』と言われて悶え始めた変態(オトハ)とノア様を見比べながらわたしは断言した。


「しかしまあ、オトハの言う通りよ。クロ、あなただってこっち側でしょう。常識人は主人に命令されたからって理由で表情一つ変えずに人を殺したりできないわよ」

「わたしの区分分けは日常生活における区分です。戦闘になったらこの場の全員イカレタイプでしょう」


 傲慢で強欲で怠惰で、世界征服を目論む悪の権化で、目的のためなら人の命なんて雑草のように踏み潰すノア様を筆頭に。

 少なくともここにいる全員、仲間以外の人間を殺して罪悪感を抱いたりするタイプではない。

 わたしだって今まで何十人、何百人殺したかわからないけど、すべてがノア様のためであり、「ノア様のお役に立てた」くらいにしか思ったことは無い。


 そもそも頭がおかしい主人に自ら忠誠を誓っている時点で、わたしたちがおかしいのは当たり前のことだ。


「まあ、私に仕えている時点であなたたちどこかおかしいのは確定よね」

「自分で言っちゃうんですねそれ」

「自覚がないよりはいいでしょう?」


 それはそうだけども。


「って、こんなゆるい話している場合じゃないのよ」

「ゆるかったか、今………?」


 ルシアスのツッコミを華麗に無視して、ノア様は机の上にあった書類をわたしに渡してきた。


「これは?」

「帝国と内通している、あるいはその可能性がある貴族、または商人のリストね。完全に敵対している帝国だけど、勝ち目がないと考えて向こうに寝返りそうな貴族も入ってるわ」

「ざっと五十人弱ですか。多いですね」

「内通が確定している連中は全員消してきて」

「かしこまりました」

「可能性段階の場合はステアに任せるわ。記憶を覗いて、黒なら殺しなさい。ただし一人か二人は生かして、帝国に流す情報はこちらで操れるように記憶を改竄するのよ」

「ラジャー」

「寝返りそうな連中に関してはオトハ、お願いね」

「服毒死させて証拠を捏造して、お嬢様が邪魔に思っている貴族連中の仕業に見せかければよろしいので?」

「はい正解」


 わたしが問答無用の殺害担当。

 ステアが調査と殺人、スパイ作り担当。

 オトハが戦争後に生き残る貴族の選抜担当か。


「オウランはオトハと一緒に行きなさい、証拠捏造の時にあなたの器用さは役に立つし、耐性魔法ならオトハの毒の影響も無効化できるわ」

「はい」

「ルシアス、あなたはステアについて行って。この子の完璧な仕事ぶりは今後の参考になるわ」

「えっへん」

「おう、わかった」


 わたしだけが単独の仕事か。

 別に寂しいとかではないけど。


「愚問を承知でお聞きしますが、ノア様は」

「面倒くさいから行かないわよ」

「ですよね」


 資料に目を通すと、改めて既に戦争が始まっているんだな、という思考が頭をよぎる。

 王国の切り札であるノア様はまだ呼ばれていないけど、王都から強制収集がかかるのも時間の問題だろう。

 そうなるとわたしたちも行かないといけないし、自然と自由に動ける時間も限られてくる。

 やれることは早めにやるに越したことは無い。


「全員、一ヶ月以内にね。出来るでしょう?」

「三週間でもおつりがきます」

「ん、らくしょー」

「この程度はお嬢様の覇道のほんの切れ端程度、時間などかけていられませんわ!」

「与えられた仕事は完ぺきにこなして見せます」

「何気に俺はこういう仕事を振られるのは初めてか。ま、これで俺の有用さを決めてくれや」


 ノア様は満足そうに笑っている。

 随分とお気に召したようで何よりだ。


「では、ちょっと行ってきます」

「んあ?もう行くのか?」

「殺しのリストに載っている連中、半分以上が明日まで隣の領で会談を行っているんです。会談と言うのは名目で、本当は裏切者同士で徒党組んで色々企んでるんでしょう、一網打尽にするには今から出ないと」

「そういうのって普通は極秘にされるもんじゃねえの?何で知ってるんだよそんなこと」

「その集まりに、ノア様の忠犬が紛れてるんですよ」


 ノア様があらゆる手段を使って傀儡にした多数の周辺貴族たち。

 その総数はもはや、王国貴族の一割がノア様の奴隷だと言っても過言ではない。


「ああクロ、その紛れてるアウルム子爵なんだけど。絞れるだけ絞りつくして利用価値がもうないから、一緒に殺しちゃっていいわよ」

「かしこまりました」

「人の形をした悪魔だなあんたら。ま、俺としちゃあ別に悪魔だろうが天使だろうがどっちでもいいんだけどよ」

「あっちだって庶民から多額の税金を絞ってたんだから、絞られる覚悟はあるでしょう」


 そんな覚悟はあっちもしてないと思うけど、わたしも自業自得だとは思うので何も言わない。


「じゃあお先に。一丸となって頑張りましょう」

「「「おー」」」

「急にスポーツマンみたいなことを言い出したが、やることがえげつなすぎるだろ」


 まだここに馴染み切れていないらしいルシアスのことはステアに任せるとして。

 わたしはわたしの仕事をしなければ。

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