第453話 第1決戦・ステア&スイvs那由多3
「思ったより縛り多めで来たね」
私の作ったルールを強制されたこの状況を意に介さず、ナユタは自分の手のひらを見つめた。
―――バチバチッ。
「!」
「解明しているとわたしが認識していれば、如何なる魔法を使用可能……落雷魔法が心配だったけど、杞憂か」
瞬時に置かれた状況に即座に適応し、対応する。
この力があったからこそ、彼女はかつて史上最強の魔術師と呼ばれてきた。
だからこそ、私がやらなきゃいけない。私がこいつを―――。
「……ぶっ潰す」
「ははっ」
勘違いだったら申し訳ないけど、ナユタの目はまるで子供と対戦ゲームをする時の大人みたいだった。
「ぶっ潰す、か。やっぱり君は面白い。久音と永和以外で、私がここまで興味を持った人間は初めてだよ。……だからこそ、本気で応えよう。君の無謀に」
笑いながらそう言ったナユタは、軽く指を振り、妙なものを生み出した。組成から恐らく《金属魔法》の応用。だけど、この形、は……!?
「はい、ぼーん」
気だるげな擬音が響いた直後、それをかき消す轟音と共に。
周囲が文字通り、消し飛んだ。
***
「あーあー……これはえげつないな。こんなもの生み出す時だけ、私の想像を超えかけるよ。人間って生き物はね」
……咄嗟に何重にも張った《結界魔法》の防御が、一瞬で全て破壊された。
「そう思わない?君らもさ」
「同意見」
あれが何か気づくのがあと0.3秒遅ければ。
そしてスイにそれを伝えるのがあと0.09秒遅ければ、間違いなく今のでゲームオーバーだった。
「……ナイス、スイ」
恐らく私の人生で、最も高威力な暴力。多分、事前準備をした状態のクロでも防げない。
それを防ぎきったスイに対して、思いつく限りの賞賛を送ってあげたいくらいだ。
「いや、そりゃ……このルールなら、ボクも多少は役に立つけどさ……!」
イメージで魔法を構築する世界。
それを構想してから、真っ先に考えたのがスイの存在だった。
2000年に1人しかその使い手が現れない究極の希少魔法。当然、魔導書や教師などいない。
けどスイは1000年前、その状況でオリジナルの時間魔法を確立してみせた。
それどころか、歴史上でも片手で数える程しかいない、オリジナルの最高位魔法すらも成立させている。
それは、時間という最も身近な概念に向き合い続けた、スイの努力と天性のイマジネーション力によって生まれたもの。
「スイの想像力。そこだけは、お嬢より上、だと思う。だから、スイの力、必要だった」
「なるほどね。たしかに魔力制限がないなら、ボクでもやれることは多そうだ。うん、そう思うよ。……けどさ」
ちゃんと褒めたのに、何故かスイは苦い顔をしていた。
「なに?」
「なにって、今のナユタの攻撃が『なに?』なんだけど。どういう攻撃?だって、いや、これ……!」
すっ、と辺りを見てみると、そこは見るも無惨。
私が丹精込めて作り上げたホットケーキタワー、ホットケーキマンション、ホットケーキ第3ビルは全て塵1つ残さず消し飛び、ゴラミ、ゴラタロウ、ゴラヒコ、ゴラリー、ゴラット、ゴラランボウ、その他のみんなもいなくなっていた。
「……頑張って、作ったのに。ひどい。悲しい」
「そうじゃなくて!……いやそれもまあそうなんだけど!注目すべきはあの威力の方だって!」
威力?
……ああ、さっきのか。人が心を込めて頑張ったことを一瞬で無に変えた、あの……あの……!
「炎魔法にしても威力がおかしいよ、どういう原理でっ!」
「……《毒劇魔法》《破壊魔法》《金属魔法》の、応用」
「……え?炎魔法は?」
「使って、ない」
……知っていてよかった。知らなかったら絶対に反応できなかった。これは私に教えたナユタのミスだ。
「……水素爆弾」
「仮に反応できても、回避手段がないと思ったから選んだんだけどね。君の成長を織り込みきれなかったか」
……めちゃくちゃだ。
水素爆弾―――クロたちの前の世界で、最悪と呼ばれた兵器の再現。
けど、その再現自体は驚かない。ナユタならそれくらいやる。
問題は、その方法だ。
やりやすいように金属魔法で筒を作る。ここはまあいい。
そこから、毒劇魔法で必要な原子を生成。生み出したウランを、破壊魔法で強制的に分裂させる。
その核分裂による連鎖反応で爆発を起こし、同じく毒劇魔法で生み出した重水素と三重水素を、その爆発で核融合させ、より恐ろしい大爆発を引き起こす。
……やっぱりおかしい。まず、毒劇魔法で原子を生み出す時点でイカれている。
初めての魔法属性で、ナノ単位の魔法を同時に成立させ、そこに寸分違わず極小の破壊魔法を当てる?
断言しよう。不可能だ。私でも無理。
この才能の化け物以外は、古今東西誰にもできない神業。
「……スイ。全部、戻せる?」
「あー……やってみようか」
「お願い」
けどその莫大な力も、この世界では対処可能だ。
緻密すぎる魔法とおぞましい爆弾で戦意を削ぐつもりだったんだろうけど、この程度じゃ私たちは揺らがない。
「《世界逆行》」
スイがそう唱えた瞬間、足元の僅かな瓦礫や粒子化した物質が次々と1つになっていった。
「へぇ」
その光景に、ナユタすら感心したような声を漏らしている。
その間にも、みるみる私の努力の結晶は再生していった。
ほんの30秒ほどで、私のホットケーキタワー、ホットケーキ(以下略)も全て元通り!
「お、おおおお……構想はあったけど、魔力が足りなすぎて諦めたボクの理想が……こんな簡単に!」
「少し君を過小評価していたか。イメージ世界とはいえ、こんなに正確に戻されるとはね」
感動に打ち震えた私は、そのまま流れるように魔法を展開。
《模倣魔法》で、たった今の水素爆弾を無理やり模倣、それを《収束魔法》でナユタの周囲にのみ集中させる。
「!」
「吹っ飛べ」
失明しないよう《闇魔法》で防御。
本来なら国1つを文字通り“崩壊”させる威力を持つ兵器の力を、半径5メートル以内にのみ影響を及ぼすよう収束。
さらに外側を《結界魔法》で覆い、《空間魔法》で転移を封じて《耐性魔法》で強度を底上げする!
「お、おお……!?」
これだけ、やれば!
―――フッ。
「!?」
「なっ……」
「危ない危ない。恐ろしいこと考えるよ」
その私の全霊を、ナユタはたった1度の闇魔法で消し去った。
「けど残念。私の《闇魔法》への信頼は、この程度じゃ破壊できない。なにせかつては世界で最も嫌いな女が、今は世界で最も愛する子が使う魔法だよ?何よりも研究したに決まっている」
あれほどの力、しかも複数の魔法を併用した超超高エネルギーを、一瞬で。
……でも、まだまだ。作戦は何万通りもある。
「スイ」
「……な、なに?」
「時間魔法に、集中して。他は、私が、やるから」
「……了解」
絶望的……だけど、不思議だ。
どこか、楽しんでる自分がいる。
※那由多がおかしいだけで、ステアも十分イカれてます。
ステア(那由多……おかしい)
スイ(うわぁ……どっちもおかしい……ナニコレぇ……)
作者(うわぁ……こいつら六眼でも持ってんのか……?)




