表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
453/465

第441話 ノアとクロ2

「……そうですか」

「どういう反応よ」


 一周まわって冷静になる、という言葉があるが。

 今のわたしは、まさにそれだった。

 立て続けに起こる、1つ1つがわたしを困惑させるに足る出来事に、脳がオーバーヒートしかける。

 しかし防衛本能のように、頭に冷水をかけられたような感覚に陥ると共に、わたしの頭は再び回転を始めた。


「…………」

「なに黙りこくってるのよ。末長くよろしくお願いいたしますくらい言えないの?」

「いぇ……ちょっと……整理の時間をください」


 同時に、頭にノア様と過ごした日々が走馬灯のように蘇る。


 初めて出会った時。

 初めて怒った時。

 魅せられた時。

 笑った時。

 嘆いた時。

 諌めた時。


 15年以上、その後ろに付き従い続けた。

 何があっても、食らいついてきた。

 全てはわたしを救ってくれた恩人の夢を叶えるため。

 ……だが、その行き着く先が、こんな状況だなんて夢にも思わなかった。


 ノア様が、わたしを……好き?

 冗談にしては度が過ぎている。

 そもそもノア様は、こんな冗談を言うような御方ではない。

 ならば本当のことなんだろう。


 わたしは今。

 なんの誇張もなく。

 打算や計画でもなく。

 ただ純粋に、ノア様に告白されたのだ。


「…………」

「……口元緩んでるわよ」

「はっ」


 嬉しくない、わけがない。

 敬愛した御方が、わたしに、それ以上の感情を向けてくださっている。

 ニヤケもする。心が踊る。

 本当に、涙が出そうになるほどに、嬉しい。


 ……だが。



「……先程も、申し上げました」


 わたしじゃ、ダメだ。



「わたしなどでは、分不相応です」



 貴方の隣には、もっと相応しい人などいくらでもいる。

 あの日、貴方に見つけていただき、今までその1歩後ろを歩ませていただいた。それだけで奇跡だ。


 わたしが。わたしなんかが。

 それ以上を求めてはいけない。


 ノア様はわたしの顔から手を離し、だらんと下げた。

 諦めたの、だろうか。

 わたしはすぐに、ノア様から目をそらそうとして。


「はぁ……」

「えっ。ノア、様?」


 なんというか。

 心底呆れたかのようなため息に、わたしは思わず顔を戻した。


「……まさかあなたほどの子が、この私をまだ過小評価してるなんて。那由多の件でわたしと戦った時に吐いたふざけた台詞の次くらいに愚かなこと言ったわね」


 ノア様は続けて私の顔を、何か憐れなものを見るような顔で見つめてきた。

 たまらずわたしが目を逸らしても、再び無理やり顔を掴まれて戻される。しかも今度は、顔が至近距離まで近づいてきた。

 否が応でも、わたしもノア様を見つめ返さなければならないこの状況にようやく反応したのか、わたしの身体がまた少しづつ熱くなっていった。


「分不相応?馬鹿なのあなた。相応かどうかなんてこの私が決めるわ」

「え、あ……」

「私を誰だと思ってるの?15年以上、私の1番近くにいるあなたが、なぜ理解していないの?」


 言っていることは、分かる。

 この後世界の王となられるノア様に、身分的な意味で相応しくなる者などいない。

 だから相応かどうかはノア様次第、と。

 だがその基準だったとしても、わたしがそれを満たせるとはどうしても思えない。


 わたしは、従う者であるべきだ。

 それ以下になるつもりも毛頭ないが、それ以上になる気もない。

 そのはずだ。そのはずなのに。


「です、が」

「次に自分を卑下するようなこと言ったら、息吸えなくしてやるわよ」

「…………」


 そのはず、なのに。


「この。私が。世界で最も偉くなる女が。あなたが大好きなノア様が。あなたを選んでるの。お分かり?」



 ……なぜ、こんなに、どうしようもなく、ときめくんだ。


 あってはならない感情だ。

 なってはならない状況だ。

 それは、分かってる。誰よりも。

 だから、こんなことは思ってはならない。


「素直になりなさい。そして諦めなさい。私は、欲しいと思ったものに拒否権を与えるほど無欲じゃないわよ」

「……それは、無欲云々以前に強欲の極みなのでは」

「うるさい」


 その御顔が、何もかもを手に入れようとする強欲と傲慢が。

 初めて見る、少し赤くなって照れるような表情が。


 愛おしいだなんて。

 そんな、こと―――。



「私に相応しくない?じゃあ貴方以外に誰がいるのよ。私の右腕として誰よりも働いてきた貴方より、相応しいやつがこの世に?」

「それ、くらい……」

「断言してあげるわ。いないわよ。()()()()()()()()()()()()()()、クロみたいな子は」

「……!」


 いつの間にか、ノア様の手はわたしの肩に置かれていた。

 だけど、目はそらさなかった。


「私は、あなただから好きなの。身分もこれまでも関係ない。私の隣にいるのは、あなたであってほしい」


 その真剣な眼差しと、言葉。

 それが本気なのだと、わたしは確信した。

 ……なら、わたしも本気で答えなければ失礼にあたる。


「だから……結婚しましょう、クロ」


 再び言われたその告白とともに、わたしの心は決まった。



 ***




「申し訳ございません、ノア様」


 わたしの口から出た言葉が予想外だったのか、ノア様は一瞬驚き、そして、悲しそうな顔をされた。

 ……言う順序、間違えたかな。


()()()()―――そのお言葉に、お答えすることはできません」


 こんなにも百面相のノア様を見るのは人生で初めてだ。


「……今は?」

「はい」


 ノア様は少しの逡巡の後、ゆっくりと身体を起こされた。


「続けなさい」


 怒っている?

 いや、それはそうか。

 だが申し訳ないけど、これは必要なことだ。

 絶対に譲れない。


「わたしには、ノア様の野望を叶えるに辺り―――『最後の大仕事』が残っています」

「……なんですって?」

「その仕事が終わるまでは、ノア様のお気持ちにお応えすることは、できません」


 恐る恐る見ると、ノア様はどこか別のところを向いていた。

 まるで、何かを任せていたかと思い出すように。

 だが、あるわけがない。


 この仕事は、この生涯で唯一。

 ……「自分で自分に与えたもの」なのだから。


「なんなの。その仕事って」

「話せばきっと、貴方は止めます」

「内容次第よ」

「申せません」

「私の命令よ?」

「私の理念は、ノア様を支え、お守りすること。闇雲にご命令を受けることではありません」

「…………」


 しばらくの、睨み合いがあった。


「その仕事が、無事に成功すれば……改めて、貴方様の元にお伺いいたします」

「……つまりなに?あなたは、この私の告白を『保留』するっていうの?」

「状況を鑑みれば、そうなってしまいます」


 ……自分でも、やばいことを言っているとは思う。

 世界で最も尊ばれるべき御方への返事を、先延ばしにするなんて。

 だが、これだけは。

 ノア様とともに、今後生きていくためにも、必要なことだ。


「……本気?」

「本気、です」


 ノア様は本日2度目の深いため息をつかれてしまった。

 罪悪感といたたまれなさがわたしの胸中をぐるぐると渦巻く。


「……仕方ないわね」

「!も、申し訳―――」

「ただし、条件があるわ」


 条件?

 なんだろう、過酷な仕事とかだろうか。

 だが仕方がない。それで許されるなら奇跡というくらいの不敬なのだから。


「わたしにできることならなんでもっ―――むぅっ……!?」


 ―――突如、わたしの視界が金色になった。

 それが、ノア様の髪だと認識した瞬間には。


「な……な……!」


 いや、今。

 口、に……!


「な、何を……!?」

「よ・や・く♪」


 ぶわぁっ!と、身体中から汗が出るのを感じた。

 顔に血がめぐり、かつてないくらい、心臓がうるさくなった。


「このノア様を待たせようって言うんだから、これくらいの条件は当然でしょう?」

「い、いや……!何事にも、限度というものが……そもそも、わたし……は、はじ……!」

「でしょうね。……ふふっ、私好みの可愛い反応するじゃない」


 そう言って目を細めるノア様の御顔は、驚くほど妖艶で。

 身体が燃えるように熱くなり、思わず飛び退こうとした、その瞬間。



 ―――ガッシャアアアアアン!!



「きゃあっ!?」

「ちょっと、何事……あ」


 真っ暗だった部屋に、突然光が差し込んだ。

 ノア様の寝室の扉が吹き飛び、廊下の電気が入り込むという形で。


「……いつも、決まった時間に睡眠を取る久音が……やけに遅いから、まさかと思って来てみれば……」


 そこに幽鬼の如く立っていたのは、特徴的な白い髪と愛らしい顔をした、しかし今は鬼の形相のわたしの親友で―――。


「な、那由多!?違うんです、これは……!」

「何が違うのよ、ちゃんとキスしたじゃない」

「ちょっと!」


 どこから見ていたのか、少なくとも最後のアレは目撃されてしまっているらしく……。


「……なにか言い残すことはあるかコソ泥クソ女」

「そうねぇ……ご馳走様♡」

「殺す!!!」


 那由多は背中から物騒な―――巨大な筒のような武器―――を抜き、ノア様に向けて引き金を引いた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
乱入那由多タイミングが完璧ですねwいろいろ終わってから乱入させるのわかってらっしゃりますね
浮気見つかったみたいになってて笑うw
好きすぎる…………良すぎる…………サラサラ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ