第438話 支配宣言
『テス、テス。クロ、聞こえる?』
「聞こえますね。問題なさそうです」
脳内に直接響く可愛らしい声に、わたしはOKマークを作って返した。
「最終チェック終了です。ノア様、いつでもいけます」
「ええ、ありがと」
ハイラント全神国の最奥で、意識を失ったアマラにステアが触れながら集中している。
わたしたちにとって最強のジョーカーであるこの子すら集中が必要というのが、今彼女がやっている事の難しさを示していた。
「ステア、どれくらい持つ?」
「んーーーー……4分、くらい?」
「あら、自信なさそう。やっぱりアマラを介するから?」
「私だけなら、3日くらい、いけるけど。こいつ、弱すぎ」
「凡人の脆弱さは貴方に理解出来なくて当然よ。その未知は、貴方が天才である証拠だわ」
「ん。私、すごい」
ステアはノア様に撫でられ、クルル…と猫のような声を喉から出した。
もう22歳と18歳のはずなのだが、この2人は変わらないな。特にステアが、身長があまり伸びなかったのが大きい。
「まあ4分あれば全然余裕でしょう。スイ、測っておいて」
「かしこまりました」
「クロ、リーフとフロムにこのことは伝えてないわね?」
「はい。それと、念の為リーフには少々遠方の仕事を依頼し、フロムさんとも引き離しておきました。彼女の性格上、仮にこの場を察しても、フロムさんの命令以外でこちらを止めに来ることはないかと」
「断言はできないわ。仮に来たら護りなさい」
「ご安心を、ルシアスが表に出ています。彼ならリーフ相手でも十分に足止めが可能です」
「良い手際よ」
ノア様はふっと笑い、くるりと半回転し。
「じゃあさっさと始めましょうか。よろしくねステア」
「おけまる」
ステアはいつもと変わらないような、しかし何処か険しくも見える表情で、アマラから手を離す。
今度はノア様がアマラに触れ、1つ咳払いをした。
「あー、聞こえてるわね全人類。こんにちは。今、この私の言葉は全世界の人間の脳に直接届けているわ」
一見すると、ノア様の一人言のように聞こえる。
しかし今の声は、この場にいる者除く、世界中のほぼ全人類に聞こえているのだ。
意識を失ったアマラを乗っ取り、ステアの念話を代行させる。受信を切ることで外部からの刺激をなくして脳への負担を軽減、更にステアはアマラの超広範囲を利用し、数ヶ月前から世界中の人間を辿り続け、世界中のほぼ全員にマーキングをしてある。
後はそのマーキングの対象に、ノア様の声を一斉送信すればいい。言うがやすしというか、ステアだからこそ出来る無茶苦茶な力技のアナウンス。
「今、この声を聞いている者の多くは、ディオティリオ帝国の進撃によって併合され、辟易としている者が多いでしょう。私もその非道には心を痛めている……と、言いたいところだけど。ごめんなさいね、それ、私たちの仕業なの」
ノア様の悪すぎる声に、隣の阿呆が真顔でプシュッと鼻血を流した。
わたし自身、このモードのノア様は久しぶりで、感じるものも無くはない。
「私は亡国、エードラム王国の聖女。そしてディオティリオ帝国の懐刀、ノアマリー・ティアライト。近日中に、この世界を統べる者よ」
……顔、悪っ。
「何をふざけたことを、と思うかもしれないけど。あなたたちの記憶に新しいであろう、帝国の人型兵器や造船技術は、私たちがもたらしたものである、と言ったらどう?」
「ロボットはお前じゃないだろう、私1人の功績だ。何を奪ってくれてる、おいクソ女」
「那由多、那由多、後でわたしの作ったケーキ、ステアと永和も呼んで4人で食べましょう。だから我慢です」
「何味?」
「葡萄と桃です」
「1番好き」
ふぅ、危ない。
「事実こうして、貴方たちにとっては未知の伝達方法で話をしている。それも世界中を繋げるほど大規模のね。少しは話を聞く気になったでしょう」
それはステアありきだが、まあ突っ込むまい。
側近の力も立派なノア様の力だ。
「このまま、世界の秘密とかについて説いてあげたいところだけど……生憎時間が無いのよね。だから要点だけ伝えるわよ。帝国に代わり、この世界を支配するのは―――この私」
リーフとフロムをこの場に呼ばなかった理由が、これを言うためだ。
世界中この話で混乱するだろうが、最もそれが大きいのは帝国だろうから。
帝国で粉骨砕身働いてきた連中にとっては、こんな話聞いてないと困惑は必至。だからこそここまでノア様は黙ってきた。
だがその実、帝国の力を借りて併合した国はともかく、最も大事な技術の根幹である那由多、スギノキ、アルスシール、ついでにハイラントはわたしたちの手にある。
そろそろ手の切り時。ノア様はそう判断された。
「悪いけど、帝国にその王座を渡すつもりはない。この私が世界を支配する」
ノア様は一瞬手を離し、ステアに頷く。
それを合図に、ステアはマーキング対象にある情報を一斉送信した。
流石に全員への送信はステアでも無理だったので、できるだけ脳の容量が大きい人間に絞って発動することにしたとのこと。
「今、10人に1人くらいの割合で、ある情報を送ったわ。私が―――いえ、私たちの過去の行動の一部を教えてあげた。送られた選ばれし者はおめでとう。その情報を多くの人に伝えてくれると嬉しいわね」
その情報さえあれば、わたしたちの今までの行動や強さが浮かぶだろう。
勿論、わたしたちの魔法や那由多のことなど、色々とぼかしたところ、嘘をついたところもある。だが、ノア様のことを知らしめるにはこれで十分だ。
「私たちはこれから、大々的に動く。与えた情報とこれからの未来を見て、考えなさい。誰につくか。誰を世界の王として崇めるのが懸命か」
そこでステアが、指を1本立てた。
あと1分か。
「……そしてこれを聞いているであろう、リーフ、フロム。悪いわね、私たちの同盟はここまでよ。まあ心配せずともすぐに会えるわ。少なくとも、最後の決戦の時にはね」
欲しかったものを全て手に入れた以上、帝国は用済み。だが帝国は、何を失おうとリーフさえ残れば、わたしたち以外の脅威などどうにでもなる。
だからこそ、最後に世界の覇権をかけての争いに、間違いなく参入してくるだろう。
「……そして、ルクシア」
最後にノア様は、宿敵の名を呼んだ。
受信しないはずのあの女の声が、頭に響いたような気がした。
「首洗って待ってろ。……1000年前のリベンジ。勝つのは、私よ」
―――アハハ。待ってるよ、ノアちゃん♡
ノア様の言葉を最後に、ステアがバツ印をつくった。




