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第433話 報酬

「んんっ……?」


ボーっとする頭をなんとか回す。

わたしは確か、ダレカと戦い、殺し、ルシアスに連絡して、それから記憶がない。


「……気絶したか」


傷と疲労は治したとはいえ、フル回転させ続けていた脳は治していなかった。

後天的に獲得した時間魔法は、わたしに使用の権利はあるが、その特性や成長性はスイから継がれていない。

だから脳を治すと、わたしの記憶まで戻ってしまうので、それだけは出来なかった。


「あら、起きた?」

「!」


起き上がろうとすると、身体をそっと、だが力強く抑え込まれた。

頭を少し上げると、金髪碧眼の、世界で最も美しい御顔が目に飛び込んでくる。


「……ノア様?」

「そうよ」

「てことは、ここは……」


少しだけ首を持ち上げて辺りを見れば、そこは見慣れた大書庫。

気絶している間に、ルシアスに運び込まれたらしい。

面倒をかけてしまったな。


「具合はどう?」

「少々頭が痛い程度です」

「ならもう少し寝てなさい。今は私以外出払っているし、静かでしょう?」

「そう、ですね。最近はあまりない静かさです」


ノア様もこう言っていることだし、お言葉に甘えようか。

わたしは丁度いい高さの柔らかい枕に身を任せ―――。


………。


「あの、ノア様」

「なに?」

「1点、確認させていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「なにかしら」

「……何故、わたしは貴方様に膝枕されているのでしょう?」


間一髪、主人の膝枕という滅茶苦茶な状況に気付かずに入眠という大失態を逃れたわたしは、今の状況について問うてみた。

そう、わたしは膝枕されていた。

柔らかくて心地いい、寝具売り場にあったら多少高くても買ってしまいそうな枕が敷かれているな、と思ったら、主人の御御足だった。

え、ちょ、なんだこれ。起き上がろうにも抑えられてるし。


「何故と言われてもねぇ」

「なんでそこで困るんですか」


努めて冷静に理由を聞いてみたが、ノア様はキョトンとした顔をするばかり。

このままはまずい。主人の膝で寝るとかいうとんでもない行為をするのはステアだけで十分だ。あと単純に、気づいてしまった以上寝られるわけがない。


「あの、とりあえず放してもらえませんでしょうか」

「いや」

「いやって」

「久しぶりにクロと2人きりだもの。ちょっとくらい、わたしの我儘に付き合いなさい」

「2人きりじゃなかろうと、24時間365日、あなたの我儘には付き合わされていますが」

「……相変わらず言うことはばっさり言うわねあなた」


何故か高鳴る心臓の音を、なんとか血流を操作して止められないかと試行錯誤しながらも、わたしを覗き込むノア様の御顔を見つめるしかないこの状況。

わたしですらこれだ。世の男たちやオトハだったら、きっと死んでいる。


「まあ冗談は置いといて。これは貴方へのねぎらいよ」

「ねぎらい?」

「そう」


黒めの位置を動かさずに目を逸らす方法はないかと探りながらノア様の御話を聞くと、予想外の言葉が出てきた。


「ダレカを倒した件でしょうか」

「そうよ。クロ、よくやったわ。おかげで彼女を討伐するために必要だった、物資や犠牲を一切消耗せずに済んだ。本当に素晴らしい働きよ」

「きょ、恐縮です」

「戦闘記録はもう、ステアが見せてくれてる。あれほどの強敵、しかも転生特典の持ち主を正面から倒すなんて、並大抵の実績じゃないわ。流石、この私が右腕にしている子ね」

「勿体ないお言葉です……」


ノア様に褒められることは、わたしにとって最上の幸福だ。

とても嬉しい。目を逸らすのは諦めて、にやけないように全量を注ぐ程度にはテンションが上がった。

……しかし、疑問は残る。


「あの、それで何故膝枕を?」

「だからねぎらいよ。この私の膝枕なんて、世界最高の報酬だと思わない?」

「流石はノア様。そのどこから湧いて来るのか見当もつかない自信、感服いたします」

「褒めるように刺すのやめなさい。ならやめていいの?」

「それは勿論、側近のわたしが貴方様の膝で……」


ようやく起き上がれるのか、とほっとしていると、ノア様はぐいっと顔を近づけて……本当に凄く近づけてきた。

3センチあるかないかまで寄せられた顔に、ようやくわたしは自分の顔を逸らすことに成功した。


「本当に?」

「え?いや、その……」

「本当にやめていいのね?」


………。

自分には正直になろう。

いやだ。


一生に一度、あるかないかの経験だ。

普段は諫める立場だが、この世で最も尊ぶノア様に膝枕していただける。

しかもいつもは周りにいる、他の皆の姿もない。

ものすごく寝やすいし、いい匂いもする。

こんなに安らいだのは久しぶりだ。わたしに安らぎを与えてくれない御方がそれをもたらしたというのが皮肉すぎるが。


「……も、もう少しだけ、なら……」

「よろしい」


ご機嫌な顔で、ノア様は御顔を戻し、あろうことか頭を撫でてくる。

何か言おうとしたが、ここ最近の疲れが一気に氷解する感じがして、どっと来た眠気と共に何も言えなくなってしまった。


「んう……」

「ほら、寝ておきなさい。大丈夫、あいつらはあと半日は来ないから」

「いえ……ノア様の、御御足……痺れて、しまいます、ので……」

「大丈夫よ、わたしがどれだけステアを膝にのせていると思ってるの。華奢なあなたをのっけとくぐらい、わけないわ」

「ですが……」

「いいから寝る。私の命令が聞けないの?」

「うう……」


それを言われると、何も言えない。

……いいか。わたし、最近頑張ったし。

無我夢中で働いて、仲間の阿呆をひっぱたき、関係各所と色々話を詰めて、終いには最大の障害を単独で殺害。

本当に色々やったのだ。これくらいの褒美があっても、いいだろう。


あ……良い匂いする。

やばいな、これ……限界かも……。


「おやすみ、クロ」


夢なんじゃないかと思うほどの安眠に、わたしは身を任せるしかなかった。

【おまけ】

「(……今だけはその子のために邪魔しないでやるが、いつか絶対になにかしらの痛い目を与えるからな、私の大事な大事な大事な久音をたぶらかしやがってあのクソ女ァ……!)」


こうなることを予測して、自分が親友を癒すために向かったが、思った以上に親友が自分の嫌いな女に絆されていて怒り心頭の那由多氏。

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― 新着の感想 ―
うおぉ待ち望んでたシーン来たコレ!!!!!
あの那由多が親友のことで遅れをとった、だと?! クロがノア様に甘えるなんて、マジで疲れただろうな。 もう少し理性が保ったなら那由多に癒されるコース。 これは起きた後羞恥と不甲斐なさでうち震えそう……
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