第422話 制圧、狂気、告白
「はぁ……」
首都内部、多数集められた高位の魔術師。その死体を眺めながら、ため息をつかざるを得なかった。
「疑念、何故不服そうにしている?」
既に首都の主要な人物は懐柔もしくは暗殺終了。最後にここに集められた、巨大防壁を築いていた者たちを殺したのだが。
殺してから気づいた。世界では優秀な魔術師の部類に入る高位魔法の使い手を、こうも容易く屠ってよいものだったのかと。
仕事が早く終わったのはいい。わたしとリーフが揃っていればこんなものだ。後は帝国兵を送り込めばここは陥落、貿易の要所たるここを抑えた挙句に各国から集められたこの魔術師たちがいないとなれば、この周辺の国は堕としたも同然だ。あとはわたしがいなくても何とかなるだろう。
ただ問題は、帰ったとてまた別の仕事があるであろうことだ。
「予測、思ったより手ごたえが無くて戦り応えがなかった?」
「貴方じゃあるまいし、むしろちゃっちゃと仕事が終わって喜ばしいくらいです……が」
もし彼らを上手くこちらに取り込むことが出来れば、きっと戦力になったことだろう。わたしやリーフの足元にも及ばないとはいえ、高位魔術師はそうするだけの価値がある。そして戦場に投入できれば、わたしの仕事が1つ減ったかもしれない。
それなのに、連日のブラック労働でどうやら過激思考になってしまっているらしく、普通に殺してしまった。ここはリーフを見せつけて心を折るとか、色々と方法はあったかもしれないのに。
「あ~、休みたい……1日ベッドから動かず、何の勉強にもならないワクワクドキドキするだけの冒険物語とか読んで過ごしたい……」
「……同情、あなたほどの真面目な女がそういうこと言う辺り、色々と察する」
完全オフの日は、今や遠い昔のこと。
最短でノア様の野望を成就させるためとはいえ、この過重労働は流石のわたしも随分とこたえているらしい。
「提案、1日ここで休んでは?向こうはこちらの状況を知らないはず、誤魔化せる」
「……ダメです」
「なぜ」
「わたしと貴方が揃っていて、この程度のことに丸1日かかったなんて不自然すぎます。空白の24時間を報告書にどう書けばいいんですか」
リーフは言わずもがな、わたしも今じゃそれなりの魔術師だ。大抵の事はこなせるし、フロムやノア様もそれを知っている。こんな些事に時間をかけたとは思ってくれないだろう。
「……謝罪、呼びつけてなんかごめん」
「いえ……困っていたのは本当のようですから……」
まあ、報告を数時間遅らせるくらいは誤魔化せるだろう。
ここから戻って、休める保証は無いのだ。ちょっとした休憩くらいはさせてもらいたい。
「とりあえず、少し寝たいですね」
「名案、それがいい。貴方に死なれては困る」
「そうですか?貴方にとっては好都合な気がしますが。将来の敵が1人減りますよ」
頭を抑えながらそう言って、わたしはしまったと後悔した。
わざわざそんな煽るような言い方する必要がない。やはり荒みは人を狂わせる。
しかしわたしの心配に反し、リーフはキョトンとした顔で。
「肯定。だから、死なれては困る」
「はい?」
「解説。ウチはノアを殺す予定。もし仮に彼女を殺したら、君は絶対にウチを許さない」
「当然です」
リーフのことは嫌いじゃない。むしろ人間としては好きな方だ。いや、決してフロムが言ったような意味ではなく。
だがノア様の命を奪おうというなら、わたしも情け容赦を捨てなければならない。
「……愉悦。ウチは、その君に会いたい」
「は?」
「ノアを殺され、怒りと悲しみで無茶苦茶になった君は、どれほど強い?どれほどウチに殺意を向けてくれる?……それを叩き潰した時、どれほど楽しい?」
えー……。
「願望。だから、それまで死んでもらっては困る」
ドン引きのわたしを他所に、リーフは心底楽しそうに話した。
「……狂いすぎです」
「首肯。自覚はある」
戦闘狂も度を超えるとここまでになるのか。
ルシアスでもここまで過激な思考にはならないだろう。本当に頭がおかしい。
なんであんな痛くて苦しいことが好きなのか、まったくもって理解できない。まあそれは今更だが。
「まあ、安心しました。そんな未来は絶対に起きませんから」
「否定、君らしくない言葉。物事に絶対なんてない」
一応今は仲間のわけだが、情とかないんだろうか。
いや、ありはするんだろうな。それに闘争欲が勝ってしまうだけで。
「フロムには貴方と結婚してくれないかとか言われ、貴方には殺すまで死ぬなと言われ……帝国軍人組は本当に訳が分かりません」
「?疑問、君とウチが?」
「そうですよ。貴方が最初のきっかけを作ったんじゃないですか。フロムに変なこと言って」
「ああー」
リーフは拳をポンと叩き、なにかを熟考し始めた。
数秒後、目を開けてわたしに近づき。
「提案、ウチは別に君なら構わない」
「殺す予定の人と結婚ってどういう神経ですか」
「ふむ……その時は、生かす?」
「馬鹿なんですか?貴方を殺すまで襲いかかりますよ、わたし」
「……!」
とち狂ったことを言い始めたリーフに顔を引きつらせながら受け答えていると、リーフははっとした表情となった。
そして再び、何かを考え込み。
「ノアを殺して……クロを生かす……旧世界の王の側近を妻に……威を示す手段としてはあり……するとクロは……何度もウチを殺しに……その度に、死合……お、おおおお……」
……恐ろしいことを言い始めた。
閃いては行けないことを閃かせた気がする。
「告白。クロ、結婚しよう」
「絶対に嫌です!!」




