第395話 希少魔術師の弾圧
「という流れがありました」
「今、どういう気持ちで話してんの?」
淡々と自分が行った爆弾行動を自分で説明するケーラに、永和の声低めのツッコミが飛んだ。
その場の全員絶句し、その場を静寂が包む。チラリと見ると、那由多すら「ええ……」とでも言いたそうな顔をしていた。
ルクシアに至ってはメロッタに裏切られている事実を忘れ、ポカーンという擬音を擬人化したらこんなことになるんだろうな、という顔で固まっている。
「どういう気持ちと言われましても。ここまで胸に秘めてきましたが、言葉にしてしまった以上皆様方に漏れるのは確実ですから、ならば自分で話してしまった方がいいかと」
「恥じらいって言葉知ってる?……え、ねえ、なに?ケーラ、メロッタのこと好きだったん?いつから?」
「いつから、なんでしょうね。気づいたら好きだったので自分でも具体的な時期は把握しておりません。一時期ノアマリー様方の御屋敷へと正体を偽って滞在していましたが、それ以前であることは確実です」
「ああ、そう……」
まあ人を好きになるのに理由はいらないと言うし、別に誰が誰を好きであろうがわたしにとってはどうでもいいこと、なのだが。
「ま、まあ、別にケーラが好きな人がいるのは構わないんだけど。それでワタシを裏切った分のツケを軽くしてくれ、なんて流石に言わないわよね?」
「さすがにそこまでは思っておりません。どうぞルクシア様の御随意に、メロッタの処罰をお決めください」
問題はそれだろう。
理由はどうあれ裏切り者である以上、ルクシアはメロッタを裁く権利がある。
これを手加減しようものなら、裏切りという大きな罪を犯したとしても大した罰を与えられないという前例を作ってしまうことになり、それは上に立つ者として最もやってはいけないことの1つだ。
罪には罰を。残酷な話かもしれないが、それはこの世の真理と言える。
「ええ」
ルクシアは膝をついているメロッタの方を向き、口を手で覆って考え込むような体勢をとった。
「……はっ、貴方が私に罰か」
それを遮ったのはほかならぬメロッタだった。
先程までケーラの強火な告白に翻弄されていた女とは到底思えない、底冷えした声だ。
「確かに私は罪深いことを行った。仲間と慕った者たちを誑かし、そのうち1人は直接怪我をさせ、主君すらも裏切った。……だがそれらは全て、我ら希少魔術師の悲運の過去を断ち切り、未来を変えていくためだ」
「言い訳?」
「言い訳、だと?」
立ち上がった彼女は、軽く会っただけでも感じ取れた主人への忠誠心が、すべて怒りや猜疑心へと変わっていた。
「それをいうならばあなたがしてみろ、言い訳を。我々を絶望へと追いやったことに関する弁明だ!」
「は……?あなたたちを、絶望へと?」
本当に心当たりが無さそうなルクシアの表情に、メロッタの顔が歪む。
「分からないのか!貴方が―――お前が!希少魔術師の書を焼かなければ、我々はここまで虐げられることはなかったのだぞ!!」
「あっ……」
メロッタの叫びに、わたしも心当たりがある。
ルクシアは1000年近く前、自身が使用する光魔法を除くほぼすべての希少魔術師についての書物、文献を焼き払った。その結果1000年前は重宝されていた希少魔術師が時の流れとともに忘れ去られ、人数はどんどん減っていき、終いには今の世界が示すように劣等髪と呼ばれ虐げられる存在へと希少魔術師はなり下がってしまった。
「私が裁かれるのは仕方がないことだ。主人と慕った者に対して刃を向けたのだからな。……だがその前に教えろ!なぜ希少魔術師にとって有益な書物を、ほぼすべて歴史から消した!?それがなければ助かっていた命は無数にある!」
「う……あ……」
「知識の独占?強者が生まれてくることの阻止?違うな、かつての思い人しか眼中にないお前がそれをするメリットがない。なのになぜだ!?何故そんなことをした!答えろ!答えてくれ!」
その疑問の答えには、わたしも興味があった。
わたしは幸運だ。ノア様に見初めて頂き、着実に強くなる方法を教えて頂いた。
だが、そうじゃない希少魔術師候補たちは違う。人と髪色が違う、ただそれだけなのに虐げられ、嘲笑われ、使われる。
「それ……は……」
ステアに貰った1周目の記憶で、ルクシアは言っていた。希少魔術師の書を全て消失させたのは自分だと。
だがルクシアが最大にして最悪の敵だったからこそその言葉に対した疑問は覚えなかったが、よく考えてみるとおかしい。メロッタの言う通り、メリットがない。
思い人であったハルを見つけやすくするためかと思ったが、予想に反して光魔術師として転生してきたノア様が、ハルであると一目で見抜けたこの女だ。そんなことをわざわざする必要はない。
「ルクシア様……」
「……そ」
ルクシアはどこか辛そうな表情で口を開こうとして。
「ああ、ごめん。それ私だ」
その前に、わたしの横から発された声がそれを遮った。
当然それは聞き覚えのある声。
「ナユタ、様?」
「希少魔法について書かれた文献を焼き払ったヤツでしょ。そっちのイカレ病み女じゃない。私」
「どう、いう、ことですか?」
「だから、それを指示したのは私だってこと」
「はあ!?」
叫び声をあげたのは、メロッタではなくルクシアだった。
「どういうこと!」
「あの頃の時点で私は出来る限りのことは終わって、後は久音と永和の転生を待つだけだった。その時ふと頭によぎった。ハルとルーチェというイレギュラー、そして自分を封印した複数の魔法の存在が」
那由多は何でもないことのように淡々と語る。
「どの世界でもそうなんだなと思ったよ。何の前触れもなく、突然変異のように出鱈目な才能を持った人間が時折生まれてくる。ハル、ルーチェ、スイピア、ルシアス、ステア、リーフ、メロッタ。他にも見てきた。転生者を除いてもこれだけの強者が現れてきてしまう。しかもそいつらはリーフを除いて全員が先天的な希少魔術師だ」
言葉が続く。
「そんなイレギュラーに私はまんまと封印された。その失敗を繰り返したくなかった。だからアマラのやつの禁術による広範囲を利用し、低位の扇動を施したんだ。そこから数十年かけ、希少魔術師は危険だという思想を世界中に流布した。後は簡単だ、何もしなくとも必要な書物を焚書にしてくれる。当時のその女が希少魔術師の書を焼いたと言っていたのは、あくまでその決断を下したというだけのこと。そいつの本意じゃない」
唐突に放り込まれた真実に、メロッタは震えていた。




