第383話 親友vs親友
―――永久化復活まで、あと1分47秒。
那由多の魔力は既に400を切っていた。
あと約2分、一切魔法を使わずに温存すればギリギリ最低限である300は残せるが、あと1発でも闇魔法が直撃すればそれも出来なくなるほどの弱体化。
過去最大の危機。那由多は脳の血管を飛ばす覚悟で頭を回し、全力で闇だけは回避し続ける。
(この空間そのものに削られる分は仕方ないとして、永和の闇人形と久音の闇は絶対に読み切る!掠る程度ならあと2発くらい耐えられるが、当たれば久音の闇でも致命傷になる!)
だが闇の回避に力を注ぐと、そこにリンクの拳が差し込まれる。
直接的に魔力に害は及ぼされないが、掴まれれば押さえつけられてそこに闇を食らってしまう。
未だ技の引き出しを出し切っていないリンクの柔術は、那由多でも初見では対応しきれないため、絶対に掴まれないように立ち回ざるを得ない。
「くっ……!」
魔法だけならまだしも、無理やり出力を上げた脳も普段の性能に及んでおらず、先読みが不完全になったまま。
9割9分勝てると踏んでいた那由多の勝率は、今やほぼ五分五分となっていた。
「《時間遅延》《闇包む消却》」
「おいリンク合わせろ!」
「誰に命令してんのよ!《範囲拡大》!」
闇魔法の発動までのラグを時間魔法で不規則に調整することで、いつ発動するか分からない爆弾を設置して那由多の行動範囲を絞り、そこに闇人形をけしかける。更にリンクの魔法でどちらの魔法も影響範囲が引き伸ばされ、広範囲への攻撃が可能となった。
「んのっ!」
緩急をつけた特殊な歩法で間一髪離脱するが、すぐにそこに《縮地》でリンクが追い付いてくる。
「でやあっ!」
「ちいっ!」
鞭のようにしなるリンクの蹴りを腕であえて受け、わざと吹っ飛んで壁際まで退避、更に壁を蹴って闇人形もかわした。
「《闇纏い》」
「?!」
だが、そこに闇魔法を直接身体に纏ったクロが接近し、触れようとしてくる。
(さっきまでは使っていなかった魔法……!スイピアの記憶からハルの闇魔法を覗いて……それだけじゃ説明がつかない習得速度だ、時間魔法で何かしたな!)
スイは仮死の直前、クロにハルと出会ってからのすべての記憶を譲渡していた。
今までもスイは少しずつ記憶を流してはいたものの、それは少しずつ、クロの習熟度に合わせたものだった。
何故ならハルの闇魔法はあまりに卓越しすぎてたため、最初からその最上を目指せば逆にクロの習得ペースが乱れ、結果的に成長が遅れてしまう可能性を孕んでいたから。
だがクロは記憶の中ではなく、間近でノアの闇魔法を観察し、その感覚を僅かながら掴んだ。今ならば大丈夫だと踏んで、スイは一か八か全記憶の譲渡を決めた。
記憶の中でノアが使った闇魔法と、自分が魔導書で読んではいたものの未だ習得に達していなかったいくつかの魔法。それらを組み合わせてゆっくりでも術式を構築。そこに時間加速を付与することで構築から発動までの時間を極限まで短縮し、疑似的かつ激しい魔力損耗を考慮しても数分ならば問題なく戦い続けられるレベルにまで昇華させた。
今のクロは更にそこに時間魔法を組み込むことで、一時的ではあるがリーフを上回るほどの魔法技術を再現している。
「《平行の未来》《消却の黒連射》《乱数時間》《影縫い》!」
「う、おっ……!」
那由多はこの世に存在するほぼ全ての魔法を記憶し、理解し、その構築のメカニズムを把握している。それこそ術師本人以外には理解不可能と言われている闇魔法ですらも。
だが時間魔法だけは圧倒的にサンプルが足りず、全てを知るには至っていない。そのため初見の魔法や不規則な動作に対応しきれず、クロの先読みが難しくなっていた。
「クソッ……クソッ!」
那由多は歯ぎしりし、唸り、苛立った。
自分が積み上げてきたものにヒビが入っていくような感覚に苛まれて。
「なんでだ……なんでなんだよ……!?1500年だぞ!君達2人にもう一度会うためだけに、私は努力し続けてきたんだ!」
「……っ」
「那由、多……」
「ああ、ここに至るまでにこの世界を随分と荒らしたさ!12399人殺して、その10倍以上の人を不幸に陥れた!……それほどの非道をやってでも会いたかった!また3人で遊びたかった!それだけなのに!なんでこうも上手くいかない!?」
那由多の心からの叫びに、久音と永和は一瞬手を止めてしまった。
その一瞬でリンクは一歩踏み出してしまったため、孤立してしまう。
「ばっ……」
「もう、邪魔だ!!」
リンクの柔術を応用した緩急、かつての世界で習得した拳法、この世界で会得した掌打術。
全てを重ね合わせた那由多の拳が鳩尾に突き刺さり、リンクは吐血と共に壁まで吹き飛んだ。
あまりの速度に受け身すらマトモにとれず、そのままリンクは倒れ伏す。
「リンク!」
「なんでだ……?なんで私の努力は、これほどに報われない!人を殺めた天罰だとでもいうつもりか!?ふざけるなよ!!」
那由多は頭を抱え、フラフラとしながらも、すべてを憎むような目を地に向けながら叫び続けた。
「たった2人……たった2人なんだ……!私を本当に理解し、愛してくれたのは……!私は、その2人と一緒に3人で生きたいだけだ!そのために無限にも思える時を生きて、叶える寸前まで行ったのに!本当はやり直しすらしたくないのに!どうしてこうも邪魔される!私がなにかをする時代には、こうも邪魔な存在が生まれるんだ!!」
クロとホルンは、手を緩めない。
だが、その表情は―――。
「……そうか。これも試練だとでもいうんだな?」
やがて那由多は目に少し涙を溜めながらも、決意したような顔になり。
「ぐえっ!?」
「がっ……」
飛び掛かった2人の間をすり抜けるように躱し、2人の脇腹を穿った。
リンクに打ったのとは違う、出来る限り優しい手つき。
しかし、たしかに力が込められたその拳は、2人を吹き飛ばした。
「……なら乗り越えてやる。神だろうが上位存在だろうが知ったことか。私に与えられる罰も試練も、全てねじ伏せて望みを叶えてやる」
―――永久化復活まで、あと55秒。




