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第325話 ナユタの過去2

 転生特典とは何か?

 仮説の話になるが、私は“未練の具現化”だと思っている。かつての世界に残した強い未練が、独自の能力として現れるのではないかという読みだ。


 私に寿命の引き延ばしを要求した男―――二コラ・テスラは、科学の高みを目指したことで“自身の死後100年分のあらゆる科学知識”を。

 この世界で太陽の悪魔と呼ばれるに至った女傑ジャンヌ・ダルクは、自らを火刑に処した者たちへの復讐心から“先天的な太陽魔法の覚醒”を。

 この神殿を作り上げた天才建築家アントニオ・ガウディは、サクラダファミリアを自らの手で完成させれなかった無念から“何かを建造している時に限り、周囲の時間の流れが1000分の1になる能力”を。


 かつての自らの果たせなかった野望、あるいはそれに付随した物事が、能力の付与に影響しているのではないか。

 私の能力もまた、その例に漏れないものだ。

 自覚したのは、魔法の使い方を把握して間もない頃だった。なんとなく、自分の頭に『出来る』と浮かんだのだ。


 私の転生特典は“永久化”。ごく簡単に言えば、『自分が起こしたあらゆる魔法現象を、意識的に解除しない限り恒久的に持続させることが出来る』という能力だ。


 私の言霊魔法は非常に便利だが、帳尻合わせのように弱点も存在する。その1つに、生物に対して恒久的効果がないというものがある。

 例えば《死ね》と命令して相手を殺害したとしよう。しかしそれは、あくまで仮死状態にとどまり、一定時間が経過すると何事も無かったかのように復活してしまう。勿論仮死状態の時に心臓辺りをぶち抜いて本当に殺した場合は別だが。

 しかしこの永久化によって、私はこのデメリットを踏み倒せる。私の魔力が一瞬で底をつくような強力な言霊を使っても、それが自分の魔力を介さずに持続するため、何度も使う必要がない。

 実際、非常に便利な能力だ。自分の身体に対して《保て》と命令するだけで、私の身体は現在の状態を()()続ける。私はこれによって、現在に至るまで17歳の状態を保っている。老いることもないし病気に罹ることもない。細胞が劣化しない故の実質的な不老不死。過去にいた転生者にも、これほどに生まれ持った魔法と相性がいい転生特典を持った者はいなかっただろう。


 だが、それだけだ。私に永久の時間が与えられようと、その隣に永和と久音がいなければ意味がない。

 過去にいた転生者の生まれ時期から、この世界と向こうの世界の時間の流れは、不規則に変化するということが判明していた。

 つまり、私が研究を終えた時には向こうの世界では1万年経っていた、ということも理論上有り得る話だった。その時間の流れを確かめる術がない以上、私はこちらの世界の時間の流れが早くなっていることを祈り続けながら、延々と研究に没頭するしかなかった。

 テスラからの協力によって改造魔法を使った実験とデータを全て取り、更に効率的に実験が出来るように周囲を改造してもらったおかげで、作業効率は上がった。だが、その先も長い長い研究と、希少魔術師を探すだけの日々が40年続いた。


 研究開始から120年。改造魔法をどうこねくり回しても、あくまで必要最低限の1パーツにしかならないことが分かり、期待が大きかっただけに私は絶望した。

 だがそれと同時に、1つの仮説を打ち立てた。

 転生の疑似再現魔法に必要な魔法は―――《闇魔法》《空間魔法》《強化魔法》《改造魔法》。

 そして、当時はまだサンプリングが出来ていなかったために不確定要素ではあったが、《死霊魔法》も重要なパーツであることはかなり高い精度で予想できた。

 だが、まだもう1つ、パーツが足りない。それが何なのか分からなかった。

 この時点での私の目標は2つ。最後のパーツが何なのかの捜索と、魔法出力の確保。

 それから3年かけて世界中を渡り歩き、目的の物を探し回り。

 そして見つけた。

 当時世界第1位の強国だった大国家、クロノアルファ王国。その石碑に記されていた魔法を解読して、私は確信した。


「時間……魔法……!!」


 間違いない。最後のパーツはこれだ。

 だがその時の歓喜は、すぐに焦燥へと変わった。《時間魔法》の使い手は過去に調査した希少魔術師の中でも類を見ないほど珍しく、そのスパンは2000年に1人。前回の登場年がいくら調べても出て来ず、いつ現れるかが分からなかったのだ。


「クソッ……クソッ、クソッ!」


 研究開始から120年経ってしまい、既に永和と久音はあちらの世界で死んでしまった可能性も高くなってきてしまっていた。

 あの時ばかりは、時間という概念に理不尽な怒りを抱いた。

 だがどうあがいたって、時間魔術師が現れるまでは待つしかない。

 いくら私とて、他人の髪色を変えたりすることは出来ないから。


 欠かさず書いていた日記もほとんどただのノートと化し、折れかける心を何度も奮い立たせ、世界中を旅した。出力の問題を解決するために。

 その糸口を掴んだのは、時間魔法について知ってから1年後。現在はディオティリオ帝国と呼ばれているあの大陸に栄えていた国にいた、死霊魔術師に会った時だった。

 私はヤツに近づき、転生魔法に必要という自らの説が正しいことを裏付ける情報と共に、ある情報を手にした。


「魂を操る、か。本当に実在するの、魂って」

「する。この両の目は、しっかりと君の魂も捉えているよ。信念の強さ、狡猾さ……何より、その気になれば世界を滅ぼせるとすら思える力をな」

「………」

「お前に協力した理由はただ1つ、死にたくないからだ。だから協力は惜しまない。その代わり、命だけは助けてくれ」


 そんなことを言われたが、まったく興味が無かった。それよりも私の意識は“魂”というものに注がれていた。


 私は研究開始から120年以上生きて、その間に奇妙な話を聞くことがあった。

 曰く、極限まで追い詰められた無能と呼ばれていた魔術師が突如として高位魔法級の力を発揮したが、数日後に突如神経系に致命的なダメージを負った。

 曰く、農民の男が家族を災害から守るために使った魔法が、家族を農村ごと守ったが男自身は死んだ。

 かつての世界でも“火事場の馬鹿力”という言葉があったように、私はこれを脳のリミッターが解除される現象の1つだと思っていた。

 脳、魔力、魂の関係は現代にいたるまでブラックボックスで、私でも解明できていない。いや、必要な部分以外は興味がないから解明していないと言うのが正解か。

 いずれにしろ不明な点は多いが、あの時私の頭に、ちょっとした仮説がよぎった。

 話に出てきた者たちはもしかすると―――無意識のうちに自分の身の何かを犠牲にすることで、高い能力を一時的に得ていたんじゃないか。

 もしそうだとすると、自分にとって重要なものを捨てると、魔法の出力を底上げできるのではないか?

 そう、例えば――魂とか。


(……はっ。馬鹿らしい)


 だけどこの時の私は、根拠も何もない自分の思考を恥じて、この考えを脳の隅へと追いやった。

 その後数年、研究開始から130年が経とうかというその頃まで、私は別の方法で出力を上げる手を模索した。

 しかし、どれだけ研究を重ねようと、想定まで出力を上昇させることは出来なかった。精々が必要最低限の2割が関の山で、私は自分の不甲斐なさと不安で何度も涙を流し、鬱にもなった。

 最後に残されたのは、かつて馬鹿らしいと一笑に付した、あの研究のみ。

 もし仮に、それが実を結ばなければ本当にもうなすすべがないという段階まで来ていた、あの頃の私の精神はすでに限界に近づいていた。


「これでもし、ダメだったら……」


 もう、死のう。

 希望が見いだせないこんな状況で足掻いても無駄だ。

 潔く死んで、死後の世界か何かで永和と久音に会えることを望む方が、まだ建設的にすら思えていた。

 全てを諦める直前。私は最後の研究に手を伸ばし。

 それが後に“禁術”と名付けた、私にとっての福音となった。

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