第200話 犬猿
最近、ケンカップル百合がマイブームです。
「で、ご主人様と二人で特訓とかいうアタシ得の状況かと思ったのに……」
アタシは、バレンタイン邸があるフィーラ共和国連邦首都・クアドラブルからかなり離れた国立公園のど真ん中にいた。
そして、アタシの隣にいるのはご主人様ではなく!
「……なんっで、お前なんだよぉ!!」
「リンクに言うんじゃないわよ、お姉様に言われたんだから仕方ないでしょ!?リンクだって死ぬほどイヤよ!」
「じゃあそのまま嫌がって死ね!」
「お前が死ね!!」
なんでだ。
何でコイツなんだ!
いや、なんとなくは分かる。
ご主人様は、あれで非常に多忙な御方だ。
ノアマリーが裏から操っているエードラム王国、アタシが死体人形を使って操っていたディオティリオ帝国とは違い、ご主人様はこのフィーラ共和国連邦を支配しているわけじゃない。
『ノアマリーと添い遂げる』以外の野心がないご主人様にとって、共和国連邦の支配は何の意味もない行動だからだ。
仮に操ったとしても、共和国連邦はかつての世界でいうところの永世中立国、戦争なんてしようとすれば国民から袋叩きにされる。つまり操るメリットがない。
だからご主人様は、表向きは普通に共和国連邦重鎮の娘として、そして共和国連邦随一の水魔術師としてこの国に貢献している。
完全に人任せにしているノアマリー側と違って、仕事をちゃんとしているのだ。
そしてケーラは染色魔法で髪を赤に偽装しつつ、ご主人様のメイドとして常に傍にいるし、メロッタはまだ側近になって日が浅く、アタシほど魔法が使えない。
だから、アタシと互角の強さを持っていて、かつアタシと同じく表の顔を持たない完全な裏のご主人様の配下であるリンクが、アタシの特訓相手として最適なのは理解できる。
ああ、理解できるさ。
だけど。
それはそれとして!
「おいなんだよ、あのテント一式は!ここに泊まれってか!お前と二人で!!」
「リンクだって反抗したわよ!でもケーラ先輩が『これを機に少しでも親睦を深めてきなさい』とか言って押し付けてきたのよ!」
「うっそだろケーラ!嫌だあああ、この女と二人きりなんて!お前は伸縮魔法があるんだから、帰ればいいじゃん!」
「そうしたいけど、先輩の封印魔法であと一回しか長距離移動が使えないのよ!全部終わって戻る時しか使えないように!」
「ケーラ勘弁してよ、この女とは一生相容れないんだって!」
アタシとリンクの仲がクソ悪いのをケーラが危惧してたのは知ってるけど、まさかここまでやるとは!
しかもテントがめっちゃ小さいのが一つしかないんだが、まさかコイツと肩並べて添い寝しろっての?
なにそれ?拷問?
アタシが頭を抱えていると、リンクはアタシの予想を超えるとんでもないことを言い出した。
「こうなったら仕方ないわ、お姉様の命令だしあんたの特訓に付き合ってあげる。だからテントはリンクが使うからね」
「あん?」
コイツ今なんつった?
「……お前まさか、一人でテント使う気?」
「当たり前じゃない、あんたと密着して寝るなんて死んでも御免よ」
「それについては激しく同意見だけど、じゃあアタシはどうしろっての」
「寝袋はあるわよ」
「で?」
「外で寝ればいいじゃない」
………。
よし。
コイツ殺そ。
「《魂魄衝波》」
「ぎゃぶえ!?」
適合しない疑似魂をぶつけて衝撃波を作り出す魔法でリンクを勢いよく吹っ飛ばし、さらに追い打ちでもう五発ほど撃ちこんでやった。
すっきりしたので今夜の寝床を作ろうとテントに向かおうと―――
「どうりゃああ!」
不吉な勘が働いて後ろを向くと、遠くまで吹っ飛んだリンクが、近くにあった顔面くらいある岩をぶん投げた。
本来ならただすぐそばに落ちるだけの岩、しかしアイツは伸縮魔術師。
投げられた瞬間、アタシの目前まで岩は迫っていた!
「どおおあっぶなあああ!?」
マト〇ックスのような体制で危機一髪で躱し、そのまま地面に倒れた。
しまったと思うが時遅し、魔法による縮地で差を詰めて来たリンクがアタシに覆いかぶさった。
「あはははは、ブザマねホルン!死体人形もないあんたなんかリンクの敵じゃないわ!よくもリンクのご尊顔に衝撃波なんてぶっ放したわね、あんたには寝袋すらくれてやるもんか!」
「あの程度の不意打ちも気づけないボンクラが調子に乗りやがって!上等だよこの女、こうなりゃ特訓開始だ!その無駄に綺麗な顔痣だらけにしてやるよ!」
「やってみなさいよ、そっちこそ血まみれにしてやるわ!」
アタシはリンクを蹴り上げて脱出し、互いに魔法をぶつけ合った!
***
「……お前もうちょいそっちいけるだろ」
「無理に決まってるでしょ、テントに体くっついてんのよ!」
その日の夜、アタシとリンクは一つのテントを使って寝る羽目になっていた。
「痛あっ!あんた動くんじゃないわよ!」
「ちょっと身じろぎしただけだろうっさいな!」
「大体なんでこんな狭いのよ、こんなんじゃ寝られないじゃない!」
「それはケーラに言ってよ!アタシの知ったこっちゃないわ、いいから寝ろよ!」
三時間にわたる激闘。
最初は不快なことにリンクに圧倒されていたが、ここは幸い国立公園。
生息していた魔獣の類いを殺して死体人形に変えて操り、途中から互角の戦いを繰り広げた。
最終的に互いにボロボロになって疲労困憊で戦いが続けられなくなったので、仕方がないから引き分けってことになり。
もう喧嘩する余力もなかったので、不愉快極まりないけれども、リンクと一緒にこのクソ狭いテントで寝ることになってしまった。
「あーもー、お風呂も入れないし隣はホルンだし狭いし体は痛いしホルンだし最悪!」
「文句ばっかり言うなコイツ……お前待て、今アタシの大事な名前を否定の言葉みたいに使いやがったな!やっぱお前外で寝ろ!」
「いたたたた!ほっぺたつねらないでよ、可愛い顔が台無しになるじゃない!」
「うっさい、どうせ泥だらけで見れたもんじゃないわ!」
「なんですって、やっぱりあんたこそ外で寝なさいよ!というか追い出してやる!」
「やってみろツインテ!いや、今はツインテじゃないのか。自分から唯一のアイデンティティを手放すとはね」
「言ったわねあんた、リンクにはツインテールしかないっての!?」
狭いテント内で手から上が寝袋で封じられている状態で取っ組み合いを始めた。
しかし、元々の疲労もあるのに長時間そんなことできるわけもなく。
「ぜー……ぜー……き、今日はこんなところで許してやろうじゃん」
「はー……はー……それはリンクの、セリフよ……」
無駄な体力を消費したせいか、瞼が重くなってきた。
リンクの顔が横にあること以外は、気持ちよく眠れそうだ。
クソッ、自分の言う通り顔だけは良いのがマジで腹立つな。
「ホルン、寝た?」
「……起きてるよ。なに」
「……お姉様、大丈夫かしら」
寝ようとしたとこに話しかけられてまたイラっとしたけど、らしくない不安そうな声をしていたので仕方なく再び目を開けた。
リンクが気にしているのは、ご主人様がノアマリーを手に入れられなかったことを、内心まだ気にしていることだろう。
「大丈夫でしょ。アタシがスイピアっていう時間魔術師を捕まえられれば、ご主人様一人で勝てるんだし。一度は敗けたけど、有利なのはこっちだよ」
「……うん」
「なんだよ、調子狂うな。それともなに、まだご主人様がノアマリーにご執心なのを気にしてるの?」
「なっ……そ、そんなわけないじゃない!そんなわけ……」
リンクは黙った。
コイツはご主人様のことを大好きだから、ご主人様がノアマリーを愛している点について複雑な感情を抱いてる。
これはケーラ先輩も同じか。
アタシとメロッタは完全に忠誠心で動いてるからその辺はないけど、まあご主人様は素敵な人だからそこについては理解できなくもない。
「まあ、頑張って割り切りなよ」
「……あんたは出来てるわけ?」
「出来てるもなにも、アタシは人を好きになったことなんてないし」
「前世でも?」
「だから、前世のことはあんま覚えてないんだって。名前すら思い出せないし、大まかなこと、しか……」
あれ?
今、何か思い出しそうだったような。
「……っ」
「ホルン?」
「なんでもない」
気のせいだと思っとこう。
もう永遠に行くことのできない世界に想いを馳せたって仕方がない。
「いいから寝なよ、明日も早くから特訓しなきゃいけないんだから」
「……そうだったわ、リンクはあんたに付き合わされてるんだった」
「はいはい、悪かったよ。帰ったらケーキくらい奢るから」
「ススキ屋のホールケーキね」
「は?あのバカみたいに高いやつ?アホか」
「あれを食べたら他のケーキなんて食べられないわ。まあバカ舌のホルンには分からないだろうけど」
「ちょっといいもん食って上流階級ぶってるバカそのものよりはマシだと思うけどね」
「………」
「………」
この後めちゃくちゃ喧嘩した。
※スイはクロの体に完全に宿ってるので、魂だけで浮いてるってことはもうありません。
要するにホルンは骨折り損です。




