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第156話 側近vsノワール

 何を言っているのかと一瞬考え、結論に辿り着いた。

 つまり、ノワールは自らの最大の駒であるウェントゥス・リュズギャルが習得した禁術を使わせているということだ。

 成長しない死体人形でも、生前のスペックすべてを引き出せるなら、禁術を使えたって不思議じゃない。


「というかノア様、そもそも禁術ってなんですか、聞いたことありませんが」

「まあ、教えてないし。そもそも教える必要がないと思ってたんだもの」

「と言いますと?」

「禁術っていうのは要するに、何かを代償にして魔法の威力を引き上げるっていうものよ。いわば魔法のブーストね。そしてそれは、禁術を重ねるごとに威力と代償となるものの質、量が増えていく。しかも一度発動してしまうと、その全能感と多幸感から何度も撃っちゃうのよね」


 麻薬か。


「やり方にもよるけど、例えば最初は爪、次に声、指、血、最後には寿命を、みたいな感じにね。ああ、男だとアレを代償にするとすんごい威力になるんだったかしら」


 近くにいたオウランがキュッと股間を抑え、ルシアスも顔を少し青くした。


「見た感じ、あの男は寿命もギリギリまで禁術に吸い尽くされたところをリーフに殺されたのね」

「肯定、誰も手が付けられない強さになり、正気も失ったあの男だったけど、最後の最後で力尽きたように止まったからその隙に殺した。正直、あれがなかったらウチは大怪我を負っていたと思う」

「あ、軽傷で禁術耐えきったんですね」


 禁術の呪いで化け物になった父を殺す、素で化け物の実娘かあ………。


「しかしお嬢様、あの男は今何を代償に禁術を使っているんでしょう?もう死んでいるんですから寿命の何もないはずですわよね」

「魂でしょ」

「魂?」

「さすがさすが、ご慧眼ですねえ」


 ノワールはケラケラと笑いながら肯定した。

 なるほど。つまり、この女が作り出した疑似魂を代償にして禁術を使っているのか。


「魂は禁術で、男の股間に付いてるアレを上回る高出力を出せる重要な最終手段よ。使い捨ての紛い物とはいえ、それを再現して使ってて、しかも補充可能となれば思っていたより厄介ね」

「あのー、ノアマリー様。あんまりその、痛い話は………」

「禁術であれを取ると、取ったところからすんごい勢いで血が吹き出して………」

「「ひいいいっ!」」

「ノア様、やめてあげてください」

「お嬢、かわいそう」


 男二人が涙目になりかけるのを面白そうに見るサディストなノア様を諌め、上空を見る。

 上空では、未だウェントゥスが浮かびながら次弾の用意をしている。

 おそらく、次は先の二発よりも高威力のものが来るんだろう。


「仕方ないわね。リーフ、ちょっと手貸しなさい」

「承諾、考えていることは同じ」


 わたしがなんとかする方法はないかと頭を巡らせていると、不意にノア様とリーフが前に出た。


「あの男は私とリーフが相手するわ。あなたたちはそこにいるノワールをなんとかしなさい。最悪殺していいけど、その場合は肉体を消してね」

「よろしいんですか?」

「言ったでしょう?本体は別の所にあるんだから、あれを壊したって大した意味は無いわ。リーフだって人形を壊すだけじゃ不服でしょう?だったらあれ壊して、なんとかして居場所を特定して、彼女の御主人様とやらの情報も全部吐かせて命乞いさせてから魂ごと破壊した方が楽しそうじゃない」

「あのー、全部聞こえてんすけど」

「聞こえるように言ったからね」


 ノア様はニタリと笑みを浮かべ、見上げているのにどこか見下すような目でノワールを見た。


「黒幕面してこの私にたてついた娘、どうしてあげようかしらねえ?足を舐めさせる?人権を手放させて弄んでから壊す?どれも楽しそうね、ふふふふ…………!」

「怖い怖い怖い!ちょっ、ご主人様が言ってた百倍くらいヤバイ女じゃん!ぶっちゃけ二度と関わりたくないんだけど!?」


 さすがのわたしもドン引きレベルの危ない発言をしだしたノア様。

 なんとかならないだろうかこのドS。


「は、ああ…………!羨ましい!私だってお嬢様の足舐めたい!人権を手放して奴隷にでもペットにでもなりたい!弄んで壊されたい!おのれノワール、ぽっと出の分際で私からお嬢様のご褒美を奪おうなど万死に値しますわ!」

「側近もやべえ女だったよ!類は友を呼びすぎだろ!」

「やべえ女って、こんな特殊な事例と、わたしとステアを一緒にしないでください」

「名誉棄損」

「そこまで言います!?」


 この変態は兎も角、ノワールを仕留めろというのがノア様の御命令だ。

 なら、本腰を入れてやらなくてはならない。


「ルクシアさん、ケーラさん、下がっててください」

「あんたらに何かあったら、姫さんの責任問題になりかねねえからな」

「はい、かしこまりましたー」

「ご武運を」


 ルクシアさんが一歩下がり、水魔法の結界を展開したのを確認してから、わたしたちはノワールを見据えた。


「じゃあ、始めましょうか」

「いいけどね、アタシを倒せるかな?アタシの魔法はその性質上、闇魔法、精神魔法、毒劇魔法の天敵と言っても過言じゃないよ?」


 死人を殺すことは出来ない。

 死人には精神なんて存在していない。

 死人に毒は効かない。


 対生物に重点が置かれているわたしたち女性サイドの魔法は、たしかに効果が薄いかもしれない。


「アタシは安全なところからゆっくり見物と行きますかね。一番厄介な二人はウェントゥスが禁術でちゃんと押さえててくれてるみたいだし。一人くらい殺して、今後の作戦をやりやすくしてから、アタシはトンズラさせてもらおうかなっとあっぶなあああっ!?」


 しかし。

 いくらなんでも、わたしたちを舐めすぎじゃないだろうか。

 確かに最近はノア様とリーフが強すぎて印象薄かったかもしれないけど。

 それでも、こちとら最強の魔術師に見初められた、精鋭ぞろいだってことを忘れないでもらいたい。


 オウランの容赦のない矢が、ノワールの頬を掠める。

 それを反射的に躱してしまい、バランスを崩すノワール。


「どらあああっ!」

「うわっとお!?《幽体変化(ゴーストモード)》!」


 そこにすかさずルシアスが転移し、剣を振り下ろす。

 しかしノワールは服こそ切れたけど、肉体は無傷。


「なんだ、手ごたえがなかったぞ!」

「死霊魔法って言うくらいなんですから、死体を操れるだけじゃなくて霊そのものも操るんでしょう。自分の体を幽体にすれば、攻撃は届きません」

「なんだよそれ、無敵じゃないか」

「そうでもなさそうですよ。さきほどルシアスにカウンターを返さなかったということは、おそらく幽体となっている時はあっちもこちらに干渉できないのでしょう。ただの防御と大差ありません」

「なるほどな。つまりそれを使い切るくらいの猛攻で魔力を消費させりゃいいんだな?」

「そういうことです」


 ノワールの死霊魔法の最も恐ろしい点は、自分より強い人間も死体であれば操れるという点。

 だけど虎の子のウェントゥスはノア様に抑えられ、ランドもバラバラ。

 彼女が何体同時に操れるのかは知らないけど、魂と言う不可思議なものを作り出す以上、恐らくそこまで多くを同時に操作できるわけではない。


「愚かですね。わたしたちを侮り、ノア様とリーフばかりを警戒していたのが運の付きです」

「あははは、かもねー。そっかー、そうだよね。五人で一万人の帝国兵殺しつくす化け物どもが、弱いわけないよなー」


 ノワールは乾いた笑いを漏らし、ため息をついた。


「ま、んなことは分かってるけどね」

「はあ?」

「アタシ一人であんたらバケモン五人に敵うなんて思ってないよ。希少魔術師っていうアドバンテージも潰されてて、しかも全員油断しないと来たもんだ。あーヤダヤダ、ご主人様の命令じゃなかったらとっくに逃げ出してるっての」

「そのご主人様とやらの情報を吐けば、その肉体は壊さないでおいてあげますが?」

「いやー勘弁。ご主人様はサプライズ好きだからさ、自分で登場して名乗る前に話しちゃったら絶対拗ねちゃう。だからさあ―――」


 ………?


「メロッタアアアア!!助けてヘルプーーーーーー!!」


 いきなりノワールが大声を出した。


「………増援くらいいいよね?」

「増援って―――」


 わたしが辺りを警戒し始めたその直後。

 天から無数の刃が降り注いだ。


「うおおおっ!?」

「なんですか、これ」


 ステアは瞬時にわたしの元に近づき、くっついてきた。

 それを受けてわたしは闇魔法で傘のように防御。

 他の皆も個々の方法で全弾防いでいた。


「誰が………」


「無事か、ホルン!」

「サンキュ、助かったわ。あと一応まだ任務中だから、ノワールって呼んでね」


 刃と共に、一人の美女も上空から降ってきた。

 シ〇タだったらどれほどよかったことか。


 降ってきたのは。

 まさに女騎士といった風貌の。

 薄い紫色の髪をした女だった。

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