第133話 裏切者たち
実働部隊をわたしとステアが殲滅。
陽動部隊をオトハとオウランが蹂躙。
暗部組織カメレオンの構成員を、ルシアスが阻止。
ノア様の命じた特攻も大した意味をなさず、普通にノア様を狙ってきた帝国兵たちを、わたしたちはしっかりと返り討ちにして、一夜が明けた。
「帝国兵たちは撤退を始めてるっぽいです」
「マジか?連中のことだから、もっと攻めてくるもんかと思ったぜ」
「さすがにわたしたちのことを脅威に感じたのでしょうか」
「どうかしらね。それは勿論でしょうけれど、なんとなく引っかかるわ。何か他の目論見がありそうね」
ノア様は少し怪しんでいる様子で物思いにふけるような顔を一瞬した。
そして次の瞬間にはいつもの不敵な笑顔に戻った。
何か思いついたようだ。
「あなたたち、帰るわよ」
「え?ティアライト邸にですか?」
「ええ、ここにいたってもう意味ないわ。こっちは軍そのものが陽動だったってこと」
「どういうことですか?」
「説明してる暇はないわ、急いで帰るわよ。ルシアス、あなた『マーキング』してあるわよね?」
「ああ、あそこならな」
マーキングというのは、ルシアスの空間中位魔法《一点転移》の力のことだ。
簡単に言えば、術者があらかじめ決めた場所に、たとえ星の裏側にいても超長距離転移が可能という強力なもの。
難点は一か所しかマーキングできないため、一度使えばここに戻ることはできないこと。
「一応、姫さんの実家がマーキングポイントだが。本当にいいのか?」
「こういう時のためにあなたに傭兵を集めさせたのよ。彼らなら残党がいたって問題ないでしょう、いいから早くお願い」
「お、おうわかった。じゃあ行くぜ」
ルシアスが足をドンと床にたたきつけたかと思うと、魔法陣が展開され、わたしたちの足元に広がる。
直後、視界が切り替わって、見慣れた庭が見えた。
「おお、本当に一瞬で帰ってこれるんですね」
「お前らに比べりゃ、魔法はまだまだだけどな」
転移した先は、ティアライト家の庭園。
一方通行とはいえ、半日の道のりを一瞬とは、空間魔法は凄まじい。
「ノアさん!」
「あら、ルクシア」
「お帰りなさい、心配していました。ケガなどされていませんか?」
「ええ、大丈夫」
なんだかやっぱり、ここ半年くらいノア様がルクシアさんに対してよそよそしい。
何かあったんだろうか。
「ルクシア様こそ、なにか変わったこと等ございませんでしたか?」
「四傑のフェリに襲われたこと以外は、至って普通でしたよ」
「そうですか、それは良かったです。今なんて?」
気のせいか、凄く聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。
「フェリ・ワーテルがここまで来ていまして。丁度このお庭をお借りして、少々荒っぽい真似を。お恥ずかしいです」
「庭くらいはいくらでも治せるから構わないわ。それでフェリは?」
「捕らえるのは難しいと判断しましたので、ケーラと一緒にブスリと―――」
「あー、了解」
マジかこの人、二人がかりとはいえ四傑を殺したのか。
強い強いとは思ってたけど、ここまでとは。
「それでルクシア」
「はい、把握しています。義父様、じゃなかった、ご当主様のことですよね?」
「ええ。この家にいるかしら?」
「ノアさんが帰ってくるなど毛ほども思ってないのでしょう、普通に滞在しています」
「そう、こういう時には無能っていうのは助かるわね」
ノア様はそれを聞いてくるりと方向転換して、御父上の部屋に向かった。
当然、わたしたちもそれに続く。
階段を上り、一番大きな部屋の前に辿り着く。
「ねえルシアス」
「んあ?」
「あなたの自慢の腕力で、この扉吹っ飛ばしてくれない?景気づけにドカーンと」
「姫さん、割とそういうの大事にするよなあ。まあいいけどよ」
ルシアスは強度を確かめるように扉を数度撫でるように叩き、力を込めて。
思いっきり、扉を薙ぎ払うように殴った。
二枚の扉は台風に巻き込まれたかのように吹っ飛び、ひしゃげて反対方向の窓ガラスをぶち破っていった。
中にいた十数人のこの屋敷の召使や御父上の愛人、そして御父上本人は口と目をこれでもかと開いてこっちを見ている。
「ご機嫌麗しゅうお父様。最近の調子はいかがかしら?」
「な、なん、なんっ………!?」
そりゃー驚くだろう。
自軍の兵と敵兵、合わせて三万以上の兵士に囲まれ、生きて帰ってこれないだろうと半ば確信していた娘が傷一つなく帰ってきているのだから。
「まったく、もうちょっと賢い人間だと思っていたのだけれどねえ。下手打ったわね、お父様。いえ、ゴードン・ティアライト伯爵?」
「な、なんの、話だ………?」
「一応ね、あなたに対しては多少の情はあったのよ。この時代での生みの親ではあるわけだし、十年以上私の言うこと聞いてくれてたんだもの。このまま私に協力して生きていくようなら、ちゃんといい思いさせてあげようと思ってたわ」
ノア様は笑顔を崩さないまま、少しずつにじり寄るように、御父上との距離を縮めていった。
「馬鹿なこと考えたわね。このまま私のお人形でいれば生かしてあげたのに。私があなた如きの策略で死ぬと思った?たかだか数万の兵で、私の自慢の希少魔術師たちをどうこうできると、本気で思っていたのかしら?」
「ぬぅっ………!」
御父上は憤怒の表情で、ノア様をにらんでいた。
だけどノア様は逆に、まったく興味関心のない、石ころを見るような目をしていた。
「ステア」
「ん」
「この部屋にいる人間の記憶を読んで、私の暗殺に関与した人間を全員炙り出して」
「わかった」
ステアが周囲を見渡しながら一回転し、全員の数日の記憶を抽出した。
「そこの人と、そっちの、おじさん、あっちの、メイドさん。………それ以外、全員」
「「「「!?」」」」
「へぇ?」
「おいおい………姫さん、どんだけ人望ねえんだよ」
「ちょっと勘違いしないでちょうだい、こいつらが度を越して愚かなだけよ」
「お嬢、ここに、いない人も、覗く?」
「そうね、でも後で良いわ。まずはいろいろとやることをやってしまわないとね」
ノア様は御父上から目線を外し、ステアににこりと笑いかけた。
知らない人間が見れば一瞬で恋に落ちるような可愛らしい笑顔だったけど、わたしにはわかる。
あれは凶悪とかそのレベルを超えた、ノア様が一番ダメなモードの時の笑顔だ。
「時間も無いことだし、さっさと終わらせましょう。ステア、この連中から有益な情報だけ抜き取りなさい」
「もう、終わった」
「仕事が早い」
「さすがステアね、素晴らしいわ。じゃあ次よ」
ノア様は親指を立て、それを首の近くでスライドさせた。
首を掻っ切るようなその仕草。ノア様がそれをやるの、久しぶりに見た。
「クロ、殺しなさい」




