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第106話 ルクシアvsルシアス

 王都から戻ってきたわたしたちは早速、魔法の修行に戻った。

 あの大書庫でやるべきなんだろうけど、ルクシアさんとケーラがいる以上、この手は使えない。

 わたし個人としては教えてもいいんじゃないかと思うんだけど、ステアが反対したのとノア様が用心深いことが重なり、保留となっている。

 というわけで今いるのは庭だ。


「ステア、国王にかけた精神操作は上手く機能してる?」

「ん、大丈夫。ちゃんと、見えてる」

「私たちの出陣は一年遅らせるってちゃんと言ったわよね」

「問題なし」

「ありがとう、お利口ね」

「んふー」


 ステアは国王にだけは、認識操作だけではなくもう一つ魔法を仕掛けている。

 《共通精神(コモンスピリット)》という魔法で、かけた相手の五感情報や記憶などを、たとえ星の裏側にいても知ることが出来るという高位魔法。

 それでステアは王都の情報をいくらでも知ることが出来るようになっているし、国王の精神を遠隔操作して自在に操ることも可能だ。


「クロ、あなたの方は調子どうなの?」

「そこそこです。ただ、一年以内に最高位魔法を一つは習得したいと考えています」

「闇魔法なら私が教えてあげられるから、必要になったら言いなさい。オトハ、オウラン、あなたたちは?」

「も、もう少しで、高位魔法のコツを掴めそうですわ!」

「完全耐性系はほとんどが高位魔法、習得しておかないと万が一の際の対処が難しい………頑張ります」

「真面目にやっているようね。ルシアスは」

「ふううぬぬぬぬ!」

「まだダメみたいね」


 ルシアスは下位の魔法はそこそこ習得しているから、いよいよ中位魔法に着手している。

 しかし短距離転移が上手くいかないようで、ずっと力んでいるにもかかわらずその場から全く動く気配がない。


「クソッ、ステアに注入してもらった記憶通りにやってんのに、何がダメなんだ!」

「単純に魔力の編纂が甘いか、イメージが足りないのよ。もっと集中して、自分はあそこに飛ぶんだって意志を強く持ちなさい」

「んなこと言ったってよ………」


 ルシアスは珍しく困り顔だ。

 物理戦はこの中で圧倒的最強のルシアスだが、どうやら魔法のコツをつかむのには難航しているらしい。

 教えられるものなら教えてあげたいけど、生憎魔法が違えば魔力の使い方も違う。

 下手に深入りしたアドバイスは逆効果だ。


「しょうがないわねー、誰かとちょっと戦ってみなさい」

「へ?なんでだ」

「あなたみたいな戦いに人生の大半捧げてきた人間なら、戦場の方がイメージしやすいでしょう?」


 なるほど。

 でも、ちょっと問題もある。


「お前ら、俺相手に加減した戦いとか出来んの?」


 全員がそっと目を逸らした。

 わたしは寿命を削るから論外だし、ステアは近づかれない限り絶対勝つ。

 オトハも毒使いで極力避けたいし、オウランは遠距離の戦いが得意。

 この広さの庭では速攻でルシアスが勝つだろう。

 一番いいのはノア様なんだけど。


「姫さんは―――」

「いやよ、面倒くさい」

「でしょうね」


 決闘向きの魔術師がこの中にいない。

 どうしたもんかと頭を悩ませていると。


「あの、でしたらワタシがお相手しましょうかー?」


 声のした方に目を向けると。


「ルクシア、あなたがやるの?」

「はい、最近運動をしていませんし。そこそこ戦えますので、悪くはないと思いますよー」

「ルクシア様、しかし」

「いいのよケーラ、ワタシ負けないもの」


 これは予想外、なんとルクシアさんが名乗り出てきてしまった。

 しかしいいんだろうか、ノア様の婚約者で亡命中の身とはいえ、共和国連邦最大の名家であるバレンタイン家のご令嬢を、この面倒な男と戦わせるなんて。


「ふーん、そういえばルクシアが強いのか、はっきりさせたことなかったわね。いいわよ、やってみなさい」

「はい。ルシアスさん、よろしくお願いしますね」

「お、おう」


 ルシアスも困惑していたが、完全にルクシアさん側がやる気だ。

 ルシアスは覚悟を決めたように息を吐き、持っていた武器を置いて素手で構えをとった。


「ルシアス、女の子なんだから当てたらだめよ。審判はオウランがやりなさい」

「えっ、僕?まあいいですけど」

「じゃ、始めていいわよー」

「おりゃああああ!!」


 ルシアスがルクシアさんめがけて突進する。

 相変わらず速い。もはや短距離転移なんて要らないんじゃないかと思うほどの脚力だ。


「あのー、ノアさん」

「なに?」

「ワタシがルシアスさんに当てるのはいいですか?」

「まあ体格的に既にフェアじゃないし、こっちの我儘を聞いてもらっているわけだし。私が治癒できる程度ならいいわよ」

「はーい」


 凄い自信だな、仮にも元は自国で最強の傭兵と言われた男に対して。

 正直、ルクシアさんが強いと言ってもあくまでこの時代の四大魔術師としてはということだと思っている。

 思っていた、のだが。


「おるぁ!」

「《水霊の舞(ウンディーネモード)》」

「くっ!」

「《真なる水の剣(アクアブレード)》」

「うおっ………!?」


 驚くべきことに、ルクシアさんはルシアス相手に完全優位で勝負を進めた。

 液体のようにしなやかな動きで敵を攪乱する魔法、水の振動と勢いで並の剣よりも威力のある斬撃を放つ魔法、水圧を圧縮した水球を撃つ魔法、透明化する魔法、水にとろみを与えて防御する魔法。

 攻防一体のルクシアさんの水魔法が、ルシアスを圧倒した。


「ふふっ、どうしたんですかルシアスさん。それでもかつて我が国最強と言われた傭兵ですかー?」

「くそっ、こんな強さがあんならカメレオン如き撃退できただろっ………!」

「念には念をですよ。それにノアさんにも会いたかったですし、ね?《穿つ水柱(アクアタワー)》」


 ルシアスも躱してはいる。

 けどこれではいつやられるか分かったものじゃない。


「へぇ、四大魔術師でもあそこまで強くなれるのか。すごいな」

「というかあれ、普通に帝国の四傑クラスなのでは?」

「少なくともあっちの水魔術師、フェリと渡り合える実力でしょうね。意外だわ、こんなに強いなんて」

「共和国連邦でも上位の強さって話は聞いてましたけれど、ここまでとは」


 ルシアスも水魔術師と戦った経験がいないわけじゃないだろうし、むしろ元傭兵である以上、わたしたちの中で最も多いはず。

 そのルシアスが全く近づけない水魔術師、それだけでルクシアさんがどれほどの使い手なのかが分かる。


「ケーラさん、ルクシアさん強すぎでは?」

「ルクシア様は幼少の頃からずっと魔法を扱ってきていますから。魔力量も平均的な方々より遥かに多いようですし」

「でしょうね。あの出力を連発できるとなるとかなりの魔力量、下手したらオトハとオウランを超えているかもね」

「しかもあちこちに水玉を作ってそこから攻撃を出しているのがルシアスのけん制になっています。あれでは近づけないでしょう」

「そうね」

「勝ち目があるとしたらルシアスの部分転移魔法ですが、ルクシア様もそれは警戒しているでしょう。ルクシアさんの意表を突くためには、短距離転移を今使うしかありません」

「それをわかって、ルクシアはああいう戦法を取っているのでしょうね。気の利く子だわ」


 ノア様は面白そうに、二人の戦いを眺めている。


「さあルシアス、頑張りなさい。ここで習得できないようじゃ、私の側近と名乗ることが出来なくなるかもね?」

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、たとえ希少魔法でも魔法の一種に過ぎないですから、ネタ割れたら4大魔法と同じように対処出来るでしょう。 というか、帝国に詳しい情報を取られたクロさん達は苦戦ところか、もしかしたら負けそう…
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