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白の神、黒の魔物  作者: ながる
瞳の章

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7-2 エラリオはどこに

「あ! 違うぞ? 彼女は知り合いから預かってるっていうか……その延長で依頼を受けてるっていうか……」

「な~んだ。仕事の一環かぁ。親友ばかりじゃなく、女子も追いかけるようになったかと思ったら」

「んな余裕ねぇよ」


 ぺルラは困ったように一息ついて笑う。


「その様子じゃ、やっぱりまだ探してるんだ」

「……まぁな」

「そっか。私も復帰したらまた仕事回すね」

「それは、ありがたいけど……」


 ちら、とエストを見て、レンドールはふと思いつく。


「ぺルラさん、しばらくこの町に居んの?」

「そうだね。収穫時期まではだいたい」

「彼女さぁ、街外れの方で薬草店開くんだよね。不定期になるとは思うんだけど、時々顔出してやってくんない? 辺境暮らし長くて、まだ町暮らしに慣れてないからさ」

「え。ちょっと……」


 エストは焦ったようにレンドールの袖を引いたが、レンドールは気にせず続ける。


「俺も不在にすること多いかもしれないし、女同士の方が相談もしやすそうだし」

「べつにいいよ。知らない町で一人暮らしは初め大変だもんね」

「頼むわ。エスト、ぺルラさんも『()』だから心置きなく頼っていいぞ。彼女なら俺も安心だし」

「お。上手いこと言って、酒でも奢らせるつもりかなぁ?」

「へへ。次の時は飲みたいな」


 お互いこつんと拳骨をぶつけ合えば、男の子も手を伸ばしてきた。レンドールは笑って彼ともこぶしを合わせる。

 エストは勝手に進む話に戸惑いつつも、小さな声で「お願いします」と頭を下げた。

 手を振って別れた後、うつむいて自分の髪をいじっているエストに、レンドールは何か気に障っただろうかと少し身構える。


「えっと……余計なお世話、だったか?」


 レンドールの言いたいことも、心配してくれることもわかるだけに、エストは否定することしかできない。


「ううん。また()()()()()()()嫌だなと思っただけ。きっと、大丈夫なんだろうけど……」

「ああ……そう、か。いや、でも()()はラーロがやったことだろ」


 髪を掬い上げるラーロの手つきを思い出して、レンドールも眉を寄せた。


「仲良くしろとは言わないからさ。俺よりも町に詳しいと思うし」

「そうね……わかってる……付き合い、長いのね」

「いつの間にか、な。俺、ふらふらしてるからあんまり続いた関係のやついないんだけど、ぺルラさんはああやって気にかけててくれてて。でも、「お母さん」になってるとは思わなかったな」

「ショック?」

「ん? んー。衝撃といえばそうかな」


 目指す店に着いたので、エストは「そうなんだ」という言葉を胸の中だけで呟いた。




 一通り料理が並んで、お腹が満たされてからエストはエラリオの視界を覗いてみた。

 じっくり視るのは久しぶりで、それでも目に入る植生から国の南側だということはすぐにわかった。


「……あれ。少し前にはもう少し北寄りにいたと思ったけど」


 思わずこぼれた呟きに、レンドールが傾けていたカップをテーブルに置いた。


「なんか変か?」

「変っていうか……えっと、ちょっと待って」


 目を閉じて、見えるものに集中する。

 どこか見覚えのあるような、どこにでもある景色のような、判然としない森の中を歩いていくエラリオ。その視線が足元から前へと移動する。木々に隠されるように木組みの建造物が見えて、エストは「あっ」と声を上げた。

 開いた瞳にレンドールの緊張した顔が飛び込んできて、エストは少し恥ずかしくなった。


「あの、えっと、ごめんなさい。何かあったわけじゃなくて……レンに初めて会った頃住んでたところだったから」

「会った頃っていうと……」


 表情を緩めて少し考えたレンドールは、また少し眉を顰めた。


「ここからもそう遠くないが……蛇のこともあったから離れようとしてたんだったよな? 戻るにはちょっと早くないか? どうして……」

「あ。そう。そうよね」


 小さな小屋は荒れ始めていて誰かが住んでいる気配はない。周囲を調べたエラリオは、そっと中へと踏み込んでいた。エストが取るものも取りあえず飛び出したままになっていて、少し気まずい。

 薬棚を確認してから、エラリオは机の上の紙の切れ端に「一晩だけ」と書き込んだ。


「一晩だけって言ってる。ベッドを使いたかったのかも」

「ああ……そうか。エラリオも巫女の姿を見てたかもしれないのか。……やっぱりどっか不安があんのかな……早めに会いに行かないと」


 (おとがい)に手を当てて呟くように言ったレンドールの言葉に、エストは心臓が跳ね上がったような気がした。

 エラリオはやっぱり見ていたのだ。レンドールが()()()()()を。

 それは、様子を見に来たくもなるだろう。

 急いで南に進路変更したのであろう理由がわかって、エストは急激に乾いた喉に葡萄酒を流し込んだ。


「あ、おい。無茶な飲み方すんなよ。さっきの今でぺルラさんに頼るの気まずいだろ!」

「頼らなきゃいいでしょ!」

「じゃあ俺が担いで帰っても文句言うなよ?」

「このくらい、大丈夫だから!」

「ったく、アレ見たら心配すんなって方が無理なんだろうけど……薬は効いてるって話だったろ」


 どこかずれた心配をしているレンドールに、エストは小さく息を吐いて背もたれに身体を預ける。

 エラリオの症状が進行してしまったら……今のエストにはどうするとも想像できなかった。


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