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白の神、黒の魔物  作者: ながる
因縁の章

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5-1 王都にて

 目の前に差し出されたものに、エストは目を輝かせていた。

 それを呆れたように眺めているレンドールの前には、花の香りのするお茶が置かれている。好奇心もあって付き合ってはいるが、正直やっぱり別行動の方が良かったんじゃないかと後悔し始めたところだった。

 店内には金持ちそうな人間の姿しかない。聞こえてくる会話も上品なものばかりで、レンドールは口を開くのも憚られていた。


 幸いだったのは、護国士の制服を取り換えてもらったばかりだということくらいだろうか。

 エラリオとの一戦でだいぶボロボロになっていたので、中央に寄ったついでに新しいものを支給してもらったのだ。パリッと糊のきいた制服は儀礼服ほどではないが、ある程度の礼節に適っているものであるとはいえ……


(『()』が来るような店じゃねぇんだよなぁ!)


 悪目立ちしているような気がしないでもなかった。

 いっそ私服にした方が、お上りさんらしくて周囲の目も温かかったかも。

 周囲の客よりは店員の好奇の目が煩わしくて、レンドールは小さく息をついた。

 『士』の給料だけでは、エストが食べているパルファイを頼むのに数年はかかるだろうか。まだ若いレンドールが見栄を張って彼女を連れてきたようにしか見えないのだろう。レンドールが茶しか頼んでいないので、余計に。

 渓谷を下りるために貯めた金があるので、無理をしているわけでもないのだが……食にあまり興味のないレンドールは、自分の分に金をかける気もなかった。


 段になった違う味のアイスクリームを少しずつ口に運ぶエストは、黙りこんでいるレンドールなど視界に入っていないようで、そういう意味では問題はない。

 エラリオの厳しい現状を知ってからこちら、エストはずっと浮かない顔をしていた。だが、パルファイをつつく彼女はとてもリラックスした笑みを浮かべている。

 レンドールは後頭部を掻いて、花の香りの茶に手を伸ばすと、「まあ、いいか」と苦笑するのだった。




 「体調を万全に」と言われたレンドールは、あっさりとエラリオを追うのを中止した。そのまま、黙って傷が治るのを待つほどでもないと、王都まで出て、エストに当初の約束のパルファイを食べさせに来たというわけだった。

 エストが渋らなかったわけでもないが、その後はエラリオの先回りをするというレンドールの言葉を信用してもらった。騎獣を走らせれば、山道を徒歩で行くより断然早い。

 それに、とレンドールは思う。

 エラリオは逃げているんじゃない。レンドールを待っている。だから、急いで移動したりはしないはずだと。


 店から出て人の多い通りを行けば、またエストの顔は曇っていく。誰もエラリオの代わりにはならない。その不安と焦燥は解るので、下手な言葉もかけられなかった。

 せめて何か少しでも気を紛らわせられるものはないかと、レンドールは視線を巡らせる。繁華街に並ぶ店はどこもお洒落で、看板さえもカラフルではある。

 とはいえ、今は洒落た服を選ぶ気もなさそうだし、カフェなんかは今出てきたばかりだ。いっそ薬の調合でもさせてみるかと薬草屋の場所を思い出そうとした。

 惰性で出ているような足が、ふと止まる。ぶつかりそうな距離で、エストも足を止めた。


「……なに?」


 レンドールの視線を追って、エストは小さく首を傾げる。

 レンドールは白い丸の描いてある看板を見上げていた。


「……こんな店、あったかなって」


 レンドールとて、辺境ばかり回っていて王都にはほとんど近寄らない。寄ることがあっても、護国士本部や用のあるところだけに顔を出して終わることも多かった。

 ふらりとその小さな店に入ったのは、懐かしい記憶に刺激を受けたからだ。ほんの、今さっきまで忘れていた記憶に。


「飴、なの?」


 不思議そうについてきたエストは、ショーケースの向こうにある小さなリボン型の包装を覗き込んでから、レンドールを見上げた。

 包装されていない白い球形のものが、ショーケースの縁に飾られている。

 小袋に分けても売られていたが、ケースには小さなスコップも置いてあるので量り売りもされているに違いない。


「ひと掬いください」


 レンドールがそう言うと、若い女性店員は慣れた手つきでひと掬いを紙袋に入れた。

 値段は田舎で買う飴の三倍はしたけれど、それでも王都の土産としては安い方かもしれない。受け取った袋からひとつ取り出して、さっそく口に放りこむ。昔食べた味に似ている気がして、レンドールの口角が少しだけ上がった。


「好きなの? 白い飴は珍しいけど……」

「食ってみろよ」


 わざわざ包装を剥いて、レンドールはエストの口元に持って行く。

 面食らったようにわずかに頭を引いたエストは、手で受け取ってからそれを口に入れた。好感触をその表情から読み取って、レンドールはひとつ頷く。


「昔、似たようなのをもらったことがあって。あれは、もう少し濃かった気もするけど、だいぶ昔だしな……」

「あら。もしかして祖母の作ったものかしら」


 店員が、嬉しそうに声をかけてくる。


「わかんねーけど、昔から店が?」

「店を構えたのは一年前なの。私もあの味が忘れられなくて……同じにはできないんだけど、できるだけ近づけようとは」


 へぇ、と相槌を打ったところで、誰かが店に入ってきた。店員はそちらに目をやって、慌てたように一礼する。


「いらっしゃ……わ……ラーロ様!」


 聞き覚えのある名前に、レンドールはぎょっとして振り返った。


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