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白の神、黒の魔物  作者: ながる
再会の章

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4-8 行動開始

「まあ、信用できねぇって言うなら」

「できないに決まってるじゃない!」


 打てば響くように、食い気味に言葉が返ってくる。レンドールはやれやれと肩をすくめて、聞こえなかったように続きを口にした。


「……家に閉じこもってろよ。ここまであいつの見たもの教えてくれりゃあ、たぶん、見当がつく」

「いやよ。あなたがエラリオを連れ帰ってくれるとは限らないもの」

「それは……あいつの状態次第だからな。もしも魔物が浸食してて、一般の人を襲うようなことになるのなら……止めなくちゃなんねぇ」

「親友なのに?」

「親友だからだろ。俺はあいつに誰も襲わせたりしない。もちろん、あいつは俺が行くまでそういうのに抗ってると信じてる」


 あまりに大真面目に言うので、エストは言葉を失くした。『国のために』働くと言ったくせに、()()()のはエラリオに人を襲わせないためだと聞こえる。心からそう言っているのか、方便なのか、エストにはまだ判断がつかないのだ。


「信用はしなくてもいいけど、じゃあどうすれば一緒に行けるのか決めようぜ」

「……情報だけ寄越せとは言わないのね」

「エラリオは移動してる。その状況をいち早く知るなら、あんたは必要だろ? 守るだけの価値はある。さっきの(やから)ぶっ飛ばすのも見てたし、心配ならあんたの後ろには立たねーよ」


 そう言われて、エストは今日一日のほとんどをレンドールの背中を見ていたことに気付いた。エストが先導したのは、カフェに行くまでの少しの間だけ。尾行している間は腹立たしく思ったりしたし、ずんずん先に行くことを偉そうにとも思ったけれど、雑な振る舞いの割に暴力的というほどでもなく、復讐は正面から受けて立つとも言う。


(前を歩くのは、自信があるからだけじゃなかったり……する?)


 微かに過ぎった都合のいい解釈を、エストはぷるぷると頭を振って追い出した。言葉以上のことをこちらが汲み取ってやる必要はない。そう、自分に言い聞かせる。


「じゃ、じゃあ、そうして。近づく時は一声かけて」

「わかった。緊急時以外は気をつける。それだけか? 他は?」

「……ほか……こうなるとは思ってなかったから、パッと出てこない」

「思ってなかった……か。ふうん」

「何よ」

「別に」


 レンドールにしてみれば、いきなり刺されないだけ幸運だと思っていた。許しを請うのも違うし、信用を勝ち取るのも難しいのは判る。今は敵意は無いと伝えるには行動で示すしかないが、その機会があるとも思っていなかった。

 お互い思っていなかった結果が今の状況だと思うと、それを期待して姿を消したエラリオが一枚上手のような気がして、少し面白くない。


「くそ。あいつ。速攻で見つけ出してやる」


 踵を返して町の方へ戻り始めたレンドールを、エストは少し距離を開けて追っていく。


「なんなの? どうしてそんな喧嘩腰なのよ」

「うるせぇ! ずっと傍にいた奴にはわかんねぇよ!」


 カチンときて、エストは口をつぐむ。

 茂みがかさりと音を立てても一瞥をくれる程度で、大きな動きもない。二人はそのまま宿に帰り着き、次の朝まで会話を交わすことはなかった。



 ◇ ◇ ◇



 次の朝早く、エストの部屋の前で、レンドールはノックしようとこぶしを上げたまま少し迷っていた。

 一般の『()』の行動時間より少し早い。女性の『士』は男性より身だしなみに時間をかけがちだから、早めに行動するときは前もってすり合わせをするのだが、エストがどんなリズムで生活しているのかわからず、昨夜はすっかり聞き損ねてしまった。

 「ゆっくりしてられない」と言うくらいだから、早めに声をかけて怒られることはないと思いつつ、逆にもう部屋にいないことも考えられた。

 ままよ、とこぶしをぶつけようとした瞬間、ドアが勢いよく開いた。避ける間もなく、レンドールの額にドアがぶつかる小気味いいくらいの音が響いた。


「……えっ」


 驚いた表情でエストが顔を出す。額を押さえてうずくまったレンドールを認めると、なんとも複雑な表情をした。


「ご……な、なんでそんなところに突っ立ってるのよ……」


 瞬間的に謝ろうとしたのだろうけれど、それは飲み込まれたようだ。憎まれ口も勢いがない。レンドールは額をさすりながら立ち上がった。


「……出発、早い方がいいんだろ。飯食いながら行き先詰めようと思ったんだよ。嫌なら……もう食ったなら、ひとりで食ってくる」


 踵を返したレンドールをエストはゆっくりと追いかけた。


「これからよ。わかった。一緒に行く」


 ついてきているエストを一度ちらりと確かめて、レンドールは僅かに首を傾げ、それから宿を出て大通りの方へと足を向けた。

 エストは宿の食堂じゃないのかと不思議に思いながらも黙ってついていく。

 着いたのは、通りにもテーブルや椅子が並べられたオープンスペースの店で、早い時間ながらも数人の客が腰を落ち着けていた。


「……いつもこういう所で食べてるの?」

「いや。いつもは宿で出してもらう。食堂がないとこは仕方ねーけど。面倒だし」


 じゃあどうして、という質問は飲み込まれた。エストが聞くほどではないと思ったのもそうだが、レンドールが先にこぼしたからだ。


「……エラリオなら、こういうところに連れてくるかなって」


 頼まずとも出てきた朝食は、たっぷりの野菜サラダに、豆のスープ、焼き立てのパンとゆでた卵。デザートに季節の果物がついていた。

 エストは、確かにエラリオが用意する朝食に似ていると思いながら、無機質にそれを詰め込んでいるレンドールを見やる。

 そんなエストのことなどお構いなしに、レンドールは懐から年季の入った地図を取り出した。


「これも、買い替えないとな。ちょっと見づらいが、俺がわかればいいから……」


 端が破けたり欠けたりしている地図を畳み直して、この辺り一帯を中心にする。ごちゃごちゃと細かい書き込みは、都市部より渓谷周辺に多かった。


「食いながらでいいから思い出してくれ。エラリオが注視したもの。何度も目にする景色。あいつ、絶対ヒント残してる」


 書き込みの多い、色褪せた地図を見下ろして、エストは少しだけ居住まいを正した。


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