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白の神、黒の魔物  作者: ながる
瞳の章

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7-18 罪語り

「何をやってるんですか」


 終わったかも、そう思ったレンドールの前にクリーム色の法衣が現れる。

 かざした手が見えない剣(か何かの力)に触れる直前、エラリオの黒い瞳が見開かれ、わずかに動作を止めた気がした。

 そのほんのわずかずれたタイミングで、ラーロはレンドールの腕を掴む。

 振り下ろされたものがラーロの手に触れた瞬間、そこに陽が現れたかのような光が生まれた。その光に周囲の音がみな吸い込まれたように静けさが満ちる。満ちたものが次の瞬間には弾けて、ラーロと共にレンドールも吹き飛ばされた。

 眩しさに細めた目にも、力を受け止めたラーロの腕が弾け飛んだのが見えた。それでも、レンドールを掴むもう片方の手の力は緩むどころかレンドールを引き寄せた。


 浮遊感は突然消え失せ、レンドールの尻は床に落ちて少し弾んだ。折り重なるようにしてラーロがその上に倒れ込む。

 眩しさが目を焼いて、辺りの様子は良く見えない。が、よく知る声がレンドールを呼んだ。


「レン……!?」

「エスト……か? ちょっと、よく見えねえんだ。ラーロを見てやってくれ。腕が……頭もどこか、ケガして……」

「必要ありません」


 痛いくらいに掴んでいた腕を離し、ラーロは素っ気なく言って身を起こした。


「何言ってんだよ! 眩しかったけど、見てたんだぞ! 俺を庇って……腕を……」

「言ったでしょう? 怪我もしないし、死ぬこともない。せっかくアレが私だけに狙いを定めていたのに、あなたこそどうして余計なことをしたのです」

「……は? いや、血も出てたし、腕は……」


 レンドールが手を伸ばして擦り切れたりほつれたり、血や土ですっかり汚れてしまった法衣の袖を掴んでみれば、やはりそこにあるはずの腕の形はない。


「傷はもう塞がりましたし、腕ももう少ししたら元通りです。一定以上の痛みも感じませんから薬も治療もいりません。眩しかったのは目くらましです。しばらくは時間が稼げるでしょう」

「時間……て、そうだ。薬が切れたらエラリオの意識も戻ってくるよな?」

「……わかりません」

「は?」

「賭けだと、言ったじゃないですか」

「は? ちょっと、待てよ。黒化をどうにかできるかどうかの話じゃなかったのか?」

「彼の意識を落とせても、瞳の活動を制御できるかは五分五分でした」

「おま……!」


 目をしぱしぱさせながら、レンドールは思わずラーロの法衣の胸元を掴んだ。


「そう言ったところで、あなたは賭けをやめましたか?」


 問われて、レンドールは舌打ちする。レンドールの結論は変わらなかっただろう。


「でも、言っておいてくれれば、何か対策を練れたかもだろ!?」


 ふっと鼻で笑って、ラーロは法衣を掴んでいるレンドールの手に手を添えた。無くなったはずの手を。

 それに気付いて、レンドールは掴むものを法衣からその手へと変える。少しずつ視力が戻っている目の前に持っていき、しげしげと眺めた。


「対策なんてありません。アレは怒りをぶつけたいだけ。私はこうして壊れたりしませんから、いつまでも攻撃にさらされることになる。避ければ土地の形が変わり、応戦すれば力のぶつかる余波でやはり周囲に被害が出る。むしろ、怒りの方向をきちんと定められているのは、あなたたちには幸運だったと思いますけど」

「そんな……」


 目先のことを考えれば幸運と言えるのかもしれないけれど、何の解決にもならない。ラーロが逃げ続けていればいいというわけではないだろう。あの力を垂れ流したままでは周囲にも影響が出るだろうし、誰かが討伐に向かえば被害が大きくなるに違いない。


「ですから、余計なことをせずに彼女を連れて逃げ出せばよかったのに」

「逃げてどうなるんだよ。あんたの話だと、今かそのうち、くらいの違いで、結果は変わらないんじゃねーのか?」

「そうですね」


 あっさりとした肯定にレンドールはラーロの諦観を見た。


「この国は潰えるのでしょう」

「ふざけんな、諦めんなよ! エラリオはそんなこと望んじゃいねぇ! だいたい、何をそんなに怒ってるって言うんだ? 怒りをぶつけられるのに心当たりでもあるのかよ」


 レンドールの掴んだ手をそっと引いてラーロはうつむいた。


「僕のしたことで責任を取らされたし、帰る目途が立たなくなったから、それでじゃない?」


 他人事のような口ぶりに、レンドールもイラっとする。


「知り合いなんだな?」

「正確には、先輩? 指導官、かな。技術的には僕の方が上だったけど」

「おまえ……」

「本当のことだし、そのこと自体で怒るやつじゃなかったよ。そこはね。だから僕と組まされた」


 ラーロはしばし言葉を切って、唐突に別のことを聞いた。


「レン、目はどのくらい回復した?」

「ん? 半分くらい、かな。まだチカチカしてる」

「そう。僕は期待の星だったんだ。エリートってやつ」


 はぐらかすのかと思ったのに、ラーロは自ら話を続けた。


「……今もそうだろ」

「そうだよ。だから、レンには解らないこともあるだろうけど黙って聞いて。嚙み砕けそうなところはなるべくそうするから」

「……ホント、友達いなかっただろ、絶対」

「いなかった。いらなかった。必要かどうかもわからないくだらないお喋りに興じるなら、その時間を研究に回したかった。教師よりも知識が付けば他の連中なんて邪魔でしかなかったし」


 いっそ清々しいほどに大きく頷いて、ラーロは続ける。


「……けど、彼はその中でましな方だった。何より僕より力が多くて大きくて、持て余し気味だったから、一緒に実験をするのに効率が良かった。時々年上風を吹かせて何か言ってたけど、聞き流していれば気にならなかった」


 少し間を開けてラーロは言葉を吟味する。


「その時やっていたのは、治すのが難しいと言われていた病気の治療法を探す研究で、僕はすでに意識混濁に陥っていた数人を「本人了承済み」ということにして研究に利用した。無駄にはしなかったよ? ちゃんと治療法を確立してやった」


 レンドールが微妙な表情をしたのを確認して、ラーロは微笑した。


「もちろん倫理的な違反を犯したとして僕らは処分を受けた。でもさ、じゃあ、その研究結果も破棄すればいいと思わない? 何もできなかったくせに、あいつらは僕らの名を削って、事実もいいように捻じ曲げて、その結果は自分たちのもののようにして扱った。都合のいいドロボウは正義なんだって」

「でも、それで多くの人の病気が治るようになるなら……いや……でも……」

「レンが悩むことはないでしょ。僕らは植物が少しあるだけの荒れた土地しかない小さな星に拘留された。何かあっても勝手に死んだりしないよう……まあ、色々されて、わずかばかりの生物がどう進化するのか観察レポートを義務付けられた。彼はおとなしくレポートを続ければ帰れると思ってたみたい」

「違ったのか?」

「さあ? 僕はそんなちんたらしたレポート続ける気はなかったし。せっかく与えられた場だもの。どうせなら大きいことやりたいじゃない」


 レンドールの視界を欠けさせていた焼き付きは徐々に薄くなり、ラーロの嗤う顔が見えてきた。


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