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ブリジット・レポート  作者: 河辺 螢
第三章 アビントン編 往路
28/54

3-4

 メイプルとアビントンを繋ぐ街道では荷馬車が荷台だけ横向きに止まっていた。馬の姿はなく、倒れている人や人を乗せずにうろついている馬のせいで馬車が通れなくなり、五台ほど連なって停止していた。

 到着した辺境騎士団が倒れている人を道のわきにやり、道を塞ぐ荷馬車を人力で動かして往来を再開させた。


 手綱をつけたまま気ままに草を食べている馬を捕まえて近くの木に結んだ。どれも大して手入れのされていない馬だ。倒れている男達はフォスタリアの警備隊の服を着ていたが、着崩した制服はサイズが合わず、ズボンが制服でない者もいて警備隊員ではないのは明らかだ。切られている者もいれば、殴られている者もいる。

 一人制服を着ていない男がいた。大した傷はないが、首を押さえその場に座り込んでいた。

「大丈夫か?」

「ああ。…うちの馬車、持って行かれてしまって…」

「あの止まっている馬車、おまえのじゃないのか?」

「違うよ。同じ店の子と二台で帰ってたのに、その子が突然襲い掛かってきて、荷台に隠れていた奴があっという間に乗り逃げしたんだ」

「貴重品でも積んでたのか?」

「いや、配達の後に回収した空き瓶だけだ…」


 その馬車に乗っていた人物はアビントンに着くと同時に国境の入国審査担当者に助けを求め、救出のために来た道を戻っていた。ついさっき道の途中で誰かを助けていた男がそうだ。本当に強盗ならそんなことはしないだろう。今は同情気味に男の話を聞いているが、後で詳しい取り調べが必要になりそうだ。


 倒れていた男達を縛り上げ、偽とはわかっていても警備隊の服を着ている以上地元フォスタリアの警備隊を呼んだ方がいい。隊員が一番近い町チークに警備隊を呼びに行き、捕まえた四人を引き渡した。残っていた馬車には車軸に切れ目が入っていたが、軽く補強し、ゆっくり走らせれば何とか国境までは持ちそうだ。警備隊員の馬に荷馬車を引かせ、馬車を盗まれた男を乗せて一行はアビントンに戻った。




 先にアビントンに戻ったフロランはエリザベスを抱えたまま入国しようとしたが、正式な入国審査を受けておらず、騎士団員の馬を奪って国を出たため再度入国審査を受けることになった。

 連行されるフロランに代わってエリザベスを受け取った男をフロランは恨みがましく睨みつけ、相手の男をおののかせていた。そんなに大事な人なのかと見れば、辺境騎士団員のエリザベスだ。アビントンの入国審査をしている役人にとっては同僚みたいなものだ。エリザベスは騎士団員で身元がはっきりしており、怪我をしていることもあってすんなりと入国が許され、騎士団内の医療施設に運ばれることになった。


 許可証は役人に渡しており不法入国ではない。乗っていった騎士団の馬も鞍は外されていたが一緒に戻って来ているし、鞍は別の馬につけ替えられていただけで盗まれてはいない。

 先に入国した際に同行していた女性はグレン班長が辺境伯の屋敷に連れて行ったが、そのまま帰って来ないところを見ると、それなりの身分の人で屋敷預かりになっているか、屋敷で捕まったかのどちらかだ。どちらにしろ何らかの連絡があるはずだ。



 フロランは待合室の端で、自分の今後以上にエリザベスのことが気になり、早くエリザベスのところに行きたいとはやる気持ちを抑えていた。エルナことエルヴィーノのことも気がかりではあったが、ルージニア国内に入り、グレンに託せたので大丈夫だろう。グレンならきっと自分以上にうまくやってくれるはずだ。


 現場に向かった辺境騎士団員が戻り、フロランが乗って来た馬車が盗難されたもので、元の持ち主が怒っている事を伝えた。おかげでフロランはもうしばらく入国に時間がかかりそうだった。さらにその馬車は警備隊に扮した者に襲われていたことから、荷馬車の盗難だけでなく襲撃に関する調査も必要で、フロランだけでなくロバートも事情を聞かれることになった。


 ロバートは一旦家に戻ることが認められ、明日再び役所に出向くことになった。ロバートの荷馬車は積み荷の確認が終わっており、空き瓶だけだったのですぐにロバートに引き渡された。エリザベスの馬車の方は積荷の確認もこれからだ。



 その後辺境伯の従者が訪れて、辺境伯がフロランの身元引受人になると告げると驚くほどに待遇が変わり、大した距離でもないのに迎えの馬車が来て、入国施設から辺境伯の屋敷に移動することになった。

 フロランはエリザベスのいる病院に行きたいと言ったが、それは認めらず、怪我の程度を聞いても答えられる者はいなかった。


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