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ブリジット・レポート  作者: 河辺 螢
第二章 フォスタリア編
21/54

2-6

 追加された荷物に加え、更に人が二人も増えて馬の足取りも重くなっていた。行きよりも時間がかかるだろうが、あえて行きよりも遠回りの道を選んだ。林道が少なく、道が広く、立ち寄れる街が多い。思ったほど距離が進まない時でも姫君のような奥方に野宿させずに済む。


 最初の宿に着いたのは日暮れ後になってしまった。できるだけ日のあるうちに移動したかったが、そうも言っていられない。エリザベス自身フォスタリアには数回来たことはあるが、この道は通ったことがない。地図は頭に入れ、治安に不安のある街は避けているつもりだが、初めての場所に不安がつきまとった。しかし二人を不安にしないよう、あえて口には出さなかった。


 その宿最後の空き室が取れ、夫妻の部屋は確保できた。エリザベス自身は使用人という設定で宿の使用人用の部屋を使わせてもらうことができた。何とか部屋が確保できてよかった。

 闇に紛れて二人を馬車から下ろした。フロランがエルナを抱えあげ、エリザベスは二人の荷物を持って部屋に同行した。やはり振動が体にきついのだろう。エルナは気分がすぐれないようだった。フロランも何も言わず眉をしかめている。フロランも酔ったのだろうか。

 馬車を宿の車止めに移動し、疲れた馬をいたわった。宿が提供してくれた草や野菜と一緒に岩塩とりんごをやると喜んでもしゃもしゃと食べていた。


 二人は部屋食を希望したので食事を部屋まで運び、エリザベスは一人一階の食堂で食事をした。遅い時間だったので、周囲は酒の入った者がくつろぎ、一角では陽気に騒いでいた。


 食器を引き取りがてら、二人に現在の位置とこれからのルートを説明した。

「恐らく三日後にはアビントンの国境の門をくぐれると思いますが、天候によってはもう数日かかる場合もあります。揺れにも慣れないことでしょうがご容赦ください」

 二人はエリザベスからの説明を聞くだけで、了承の返事もねぎらいもなく、質問もなかった。ルージニア語がわからないのだろうか。そんなはずはない。フロランなら理解できるはずだ。


 ふと疑問がわいた。顔はそっくりだが、もしかしたらフロランではなく兄弟の誰かだったりするのだろうか。名前を利用してフロランと関わりのあったエリザベスに協力を仰いだだけなのかもしれない。しかしそんなこと今更聞けないし、聞いたところで偽物だったとしてももう手を貸してしまっているのだ。途中でやめる訳にも行かず、ルージニア入国まで付き合うしかない。


 フロランではないなら、アビントンから来た商人風の小男(男装がばれていないなら)を頼りなく不安に感じているかもしれない。庶民の手を借り、粗末な荷馬車の荷台に乗せられるなど屈辱的だろうか。しかし拒否をしないということはどんな方法をとってもアビントンに行きたいと思っているはずだ。

“ゆっくりお休みよ”

 イングレイ語でのあいさつにも反応はない。話す気がないのだ。

 エリザベスは独り言のような説明を終え、部屋を出た。 

 その夜は念のため定期的に外を見回ったが、幸い何事もなく夜は更けていった。


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