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エリザベスは屋敷を出ると、この先にあるオークの街に移動した。
国外の人が商人として入国するなら商品がなければ不自然だ。荷物の他、馭者を含めて人が三人乗ることになるのだからあまり重いものは避け、荷台の半分程度満たせる仕入れをすることにした。荷物が軽くなりご機嫌な馬には悪いが…。
遅くなったので途中で一泊し、翌日オークの街に着くと、一日かけて街を回り、瓶詰めに使っている定番の瓶を三箱、陶器の食器を五箱分買い付けた。迷っている場合ではないのだが、形や色など種類が豊富で選ぶのが楽しく、時間をかけてしまった。
空箱を追加で買って緩衝材のシロツメ草を厚く詰め、一箱の食器を半分に分けて見た目にはごっそり積んであるように見せかけた。
この仕入れで持ってきた自分のお金はかなりなくなってしまった。こういう展開も想定して全財産を持ってきたのだが、瓶は買い取ってもらうとしても今買ったこの食器がアビントンで売れる保証はない。散々センスがないと言われてきた自分の目利きでは期待できないが、それでも積み荷に「商品」があることが大事なのだ。
伯爵家に納品する上等な果物やチーズ、酒も買った。兄や父が特別な日に飲んでいたのを思い出した。水を入れる革袋を追加し、非常食に干し肉と飴も買っておいた。
少しいい宿を取り、馬にも果物をおすそ分けした。こっちは庶民用だが充分甘さがあった。その日は馬も自分も早めに休ませ、明日に備えた。明日からはゆっくり眠ることはできないだろう。
早めにオークを立ち、パーチについたのは昼を過ぎていた。
前回同様、納品をする体で屋敷に入り、数種類の果実、チーズ、酒を運び入れた、何度か往復し、戻る時には二人の荷物を箱に入れて運び込んだ。打ち合わせたかのように事が進む。
伯爵が自ら厨房に足を向け、エリザベスに商品の代金とは別に小さな袋を渡した。袋には金貨が二枚と銀貨や銅貨が入れられるだけ入っていた。金貨では両替できる場所は限られている上、両替すれば目につく。この先の道を考えれば実用的でありがたい餞別だ。
「二人を頼む」
伯爵の言葉に、エリザベスは小さく頷き、
「毎度ありがとうございます。またごひいきに」
と商人らしく笑顔で挨拶し、屋敷を出た。
フロランとエルナは既に荷台に乗り込んでいた。二人はフードのついたマントを着ていて、エルナのつややかな髪はうまく隠せていた。できるなら髪に何か塗り込んでもう少しつやをなくしたいところだが、きっと嫌がるだろうから無理は言えない。
誰かがクッションと毛布を積み込んでくれていた。使用感はあるがシンプルで清潔なカバーがかけてある。この古めかしい馬車で極端に目立たないよう、あえてそういうものを選んだのだろう。伯爵家には気の利く人がいるようだ。
二人にはそのまま荷台に隠れてもらい、エリザベスだけが前方の馭者席に座り手綱を握った。見送る者もいない。納品を済ませただけのただの業者は伯爵邸を離れた。




