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エリザベスは課外活動仲間に誘われ、親に相談することなくアビントンの辺境騎士団の入団試験を受け、合格した。卒業後は家に戻ることなくそのまま騎士団の宿舎に移った。
エリザベスが辺境騎士団に入った年は辺境伯が代替わりして四年目、それまで引き継ぎのために補佐役をしていた前辺境伯が全ての業務を息子に委ね、引退した年だった。
入団式では新しく団員になった一人一人に団章が渡された。国境を守ることは国を守ること。辺境騎士団の一員となる決意を再確認するための儀式でもあったが、エリザベスの一人手前で辺境伯に声がかかり、急ぎの用件だったのか辺境伯は団章を手渡す役をしていた団長に後を託し、式典会場を後にした。残りの四名は団長から団章を受け取ったが、機械的に一つづつ配られただけだった。たった四人も待てないほどの案件は何だったのだろう。心配をよそにその日緊急出動はなかった。
入団一年目は見習い騎士と呼ばれ、男女変わりなくしごかれ、見習いの一年で三分の一が退団し、女性はエリザベス以外残らなかった。持久力は劣ってもエリザベスよりも剣の技量が高い者もいたのにそれも見抜けず、去りゆく者を負け組と嘲笑う。ずっと憧れていたアビントン辺境騎士団の現実を知り、落胆せずにはいられなかった。
入団して二年目、エリザベスは無事正騎士団員になり、アビントン領内や国境の警備についた。
騎士団は三つの隊に分かれ、さらに班に分かれて行動していた。班長は部下に対して親身になるタイプではなく、淡々と言われた業務をこなすタイプだ。先輩に当たる団員はサボり癖のある者もいたが腕は悪くない。しかし班長と同じく誰もが言われたことをこなせば充分だと思っていて、厄介事に自ら進んで手を貸そうとはしなかった。
皇帝が亡くなってから帝国民が国境を越えてフォスタリアに逃げ込み、更にルージニアまで来る者が増えていた。一般市民に混ざって貴族と察せられる人達もいた。どんなに古めかしい服を着ていても着慣れない恰好はわかるものだ。つてがある者は入国許可証を用意していて、さほど時間がかからず入国し、金のある者はウィスティアで身の回りの物を整え、金のない者は持ち金を使い果たすと臨時の仕事について金をため、その後それぞれの目的地へと旅立っていった。入国を待つ者も増え、国境でも街中でもトラブルが増え、騎士団は休む間もなかった。
二人一組で街を巡回している時、エリザベスが小さなトラブルに気付いて飛び出すと、同行する団員は渋々ながらも手を貸してくれた。相手から礼を言われるとまんざらでもない顔をしていたのに、後で
「あんな小さな揉め事に手を出してんじゃねえよ」
と愚痴られた。
ひったくり、けんか、強引なナンパ、迷子…。街なかではトラブルには事欠かない。
エリザベスも小さい頃に家族でこの街に遊びに来て迷子になり、親切な騎士団のおじさんに助けてもらったことがある。あの時の安心感を思い出せるうちは、見つけたトラブルに見て見ぬふりはしないと決めていた。例えエリザベスと組むことをハズレ呼ばわりされようとも。




