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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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【羽無し】と希望

 三月………。


「四凶相手に、そこまで傷を負わせられたなら……それだけで十分誇って良いことなのではないでしょうか」


「誇れるわけあるか。私がそなたを疑わず、ちゃんと渾沌の後を追えていたら、退治できていたかもしれぬのだぞ。完全に私の判断ミスだ」


「退治できていたかもしれないというのは、あくまで可能性です。それに……この森から渾沌を追い出すことには、成功されたのでしょう? もし貴方が、鳥人の長からの依頼で渾沌を討伐に来られたのなら、それで十分目的は達成されているはずです」


 四凶は、特別討伐が難しい魔物だ。それを考えれば、十分過ぎる成果だと思う。

 そもそも、彼が私を渾沌の変化だと勘違いしなかったとしても、あの逃げ足の速さを考えれば、渾沌を討伐できたか分からないのだから。


「だが……私が奴を取り逃がしたせいで、また別の森で被害が出る」


「四凶は討伐に成功しても、年月が経てば再び復活すると聞きます。この世に悪の気がある限りは、本当に滅びることはないと。ならば、それまでの年月が長いか短いかというだけで、結局は同じことでは無いでしょうか」


 渾沌の被害の非は、あくまで渾沌と、彼が懐き助長させる悪人の物。

 討伐に失敗した、彼の物じゃない。

 いずれ起こるかもしれない被害の責任まで、彼が感じる必要は無い。


「確かに、私に渾沌のことを報せたのは、鳥人の長だ。森から追い出したというだけで、彼からは十分感謝されるかもしれない。……だが今後別の森で、渾沌によって傷つく人間がいたならば、やはりそれは私の咎だと思う」


 強い意思を宿した眼差しで私を見据えながら、彼はゆっくりと首を横に振った。


「そなたが、私を慰めてくれようとしているのは、分かっている。だが、私は自身の未熟さをけして肯定してはならぬのだ。その未熟故に、誰かを傷つけたならば、学ばなければならない。傷つけることでしか、事を成せないというのなら、その罪を負わなければならない。ーーそうである、べきなのだ」


 何て、生き難そうな考え方だろうと思った。


「貴方は……可能性の中の全ての人々を、救うおつもりですか」


「救いたいと、思っている。……少なくとも、この国の人々だけは」


 不思議な人だと、改めて思う。

 一人の人間ができること等限られているのに、何故そこまで背負い込もうとするのだろう。

 私が今まで出会った人は、皆誰もが、自分と家族を守ることに精一杯で……彼のように多くを守りたがる人間を、見たことはなかった。


 混血を肯定し、まだ可能性に過ぎない誰かの被害に胸を痛める人。


 思わず彼の顔を、じっと見つめる。

 鳥人は、整った顔立ちの者が多いが、彼ほど美しい人を見たのは初めてだった。

 束ねられた長い蒼髪の生え際に、同じ色の鱗が木漏れ日を受けてきらきらと光っているのが見てとれた。

 鱗が顔を覆う度合いは人それぞれだが、私は彼と同じような鱗を持つ種族を知っていた。


「……貴方は、蜥蜴人の方ですか?」


「と、とかげ?」


「違ってました? 気を悪くされたなら、すみません。有鱗種の方は、見分けがつかなくて」


「い、いや……そのような者だ」


 誤魔化されたような気がするが、彼が気にしてないと言うのなら、まあ良いだろう。

 蜥蜴人族は、旅の商人として生計を立てている人が多く、道中の魔物や悪人から身を守る為、剣の腕も立つと聞く。

 母と二人で踊っていた時、たまに客として現れ、休憩時間に私に遠い異国の話を聞かせてくれたこともあった。

 必要であれば他国の人族とも商談する為、私の見かけに対する忌避も薄く、混血にも理解があった。

 

 こくりと、口内に湧いた唾を飲む込んだ。


 これはーー千載一遇の、好機かもしれない。


「なら……貴方は、宝石に対する知識もおありですか」


「まあ、多少は……」


「ならば……この石の価値も、お解りですか」


 彼が現れてからずっと握りしめたままだった、翡翠色の石を差し出す。

 彼は私の手の中をのぞき込み、すぐに驚いたように目を見開いた。


「これは……碧甲石へっこうせき! 何故、このような貴重な物を持っているのだ!」


「やはり、これは価値があるものなのですね」


「価値があるも何も……これ程純度が高い碧甲石なら、これ一つで屋敷が立つぞ。そなたは一体……」


 手の中の石をのぞき込む、彼の蒼い瞳をじっと見つめる。

 彼の目には驚きの色こそあっても、卑しい欲望は少しも滲んでいない。

 とっくに捨てたはずの希望が、胸の中で急速に膨らんでいくのを感じ、緊張で乾いた唇を舐めた。

 鳥人の歌は、悪しき者を遠ざけ、善き者を近づけると言う。

 ならば、あれほど歌った後でもなお、これだけ長い間傍にいる彼のことは、信じてみても良いのではないか。

 きっとこの機会を逃せば、彼のような人には会えないだろう。


「………もし、貴方が良ければ、少し私に付き合って頂けないでしょうか」


 どうせこのまま村に居続けても、良いこと等何もない。

 ならば、彼に賭けてみよう。


「この数年間、森に来る度拾っていたこの石を、ある場所に隠してあるんです。母から昔教わった結界が破られてなければ……まだ、あそこにあるはず。ーーその石がお気に召しましたら、どうか私と取引をして頂けないでしょうか」


 







 

 

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