神聖なる儀式 後編
その後編、第五弾 続き
リディアの結婚式 後編です!
お楽しみいただけたら嬉しいです!
今回物凄く長くなってしまったため、前編・後編に分けています。
各国の国賓の方々、式には参列していない貴族の方々も大勢が出席。
それぞれ多くの方々から挨拶をされ、そのたびにシェスと共にお礼をし歓談する。
つ、疲れる……、何か既視感が……、いや、違う、実際あったじゃない! この状況! と思っていたら、シェスがそっと耳打ちした。
「大丈夫か?」
「え?」
「いや、疲れていないか?」
シェス……、以前婚約発表のときのパーティーでは全く気付いてくれなかったのに……。
あぁ、私のことをちゃんと見てくれるようになったんだなぁ、と、ジーンとしていたらシェスが不思議そうな顔をした。
「ど、どうした?」
「フフッ、いえ、何でも。心配していただいてありがとうございます。少し疲れましたが、シェスのおかげで元気になりました」
「?」
シェスは訳が分からないといった顔だった。フフッ、私も現金な人間よね、シェスが心配してくれるようになっただけで元気になっちゃうんだものねぇ。
全ての方々と挨拶を交わし終えると、少し休暇しようとシェスが窓際の椅子に連れて行ってくれた。
フーッと一息吐き、会場を眺めているとラニールさんがいた。
「ラニールさん!?」
「あぁ、料理人の助っ人で控えの間からも何人か来ているらしい」
シェスが教えてくれた。するとおもむろにシェスは立ち上がりラニールさんの元まで行き、何やら喋っている。
そして二人でこっちにやって来た。
「リディア、おめでとう、その……、綺麗だな……」
ラニールさんが真っ赤になりながら綺麗だと言葉にしてくれた。ラニールさんがこんな台詞を口にしてくれるなんて。
「ありがとうございます、ラニールさんにも見てもらえて嬉しい。シェス、ありがとうございます」
仕事中で抜けることも出来ないだろうラニールさんを呼んでくれた。そのシェスの気遣いが嬉しかった。
少し言葉を交わし、ラニールさんは仕事に戻って行った。
「リディ、私と踊ってくれないか?」
シェスは緊張した面持ちで聞いた。あのとき、誕生日のとき、最後まで踊ることが出来なかった。
私がシェスを拒絶し逃げ出してしまったあの日。
きっとシェスもあの日を思い出しているのだろう。
「喜んで」
今日は最後まで踊りたい。あの日最後まで踊れなかったことを上書きしたい。あのときはあれで大事な想い出だけど、やはり幸せな気持ちで最後まで踊りたい。
シェスと手を取り合い、会場の中央へ。
しっとりとした曲が流れ出し、シェスは片手を私の腰に当てた。会場の皆に見守られながら優雅に踊る。
あぁ、幸せだな。
シェスと見詰め合いながら、お互い微笑む。ステップを踏むたびにドレスが優雅に舞う。
夢見心地のまま、あっという間に一曲を踊り切ると、会場からは盛大な拍手が巻き起こった。
皆が口々に褒め称えてくれるものだから、恐縮しながらその場から離れた。
一曲最後まで踊りきれた。何だかふわふわと気持ちが良い。シェスの顔もとても穏やかだった。
そうして夜遅くまでパーティーは行われ、ようやく全てのことが終えるとシェスと共に新しく与えられた二人の部屋へと向かったのだった。
き、緊張するわ。二人の部屋なのよね……、二人の……。
シェスが扉を開け中へと促し部屋へと入る。
「わ、凄く広いお部屋ですね」
「あぁ、二人の部屋だからな」
「…………」
二人のってそんな強調しなくても……、緊張するじゃない。
一人部屋のときよりも三倍くらいありそうな広さの主室、寝室もドレスルームも今までの三倍程広い。お風呂も……。
疲れただろう、とシェスは先にお風呂を勧めてくれた。お言葉に甘え、先にお風呂をいただくことに。
マニカに手伝ってもらい、ドレスを脱ぎ、お風呂で身体が解れたところでマニカが香油マッサージをしてくれる。疲れのせいで眠ってしまいそうだわ。
まだディベルゼさんたちもいたため、ワンピースに着替え直し、シェスの待つ主室に戻る。
それと入れ替わりでシェスも着替えに行った。
シェスが戻って来たところで、マニカがお茶を入れてくれる。
「本日はお疲れ様でした。明日からはこちらにお迎えにあがりますね。ちなみに明日は一応ご挨拶には伺いますが、お休みにしておりますので二人きりでゆっくりとお過ごしください」
ディベルゼさんがそう言うと、二人きりという言葉に恥ずかしくなり頬が熱くなった。
今日の式のことやパーティーのことなど、皆で話にひとしきり盛り上がり、しばらくするとマニカたちは退出して行く。
「では、ごゆっくりお休みください」
そう言うと皆、部屋から出ていきシェスと二人だけになった。
シーンとした時間が流れ、どうしたら良いのか固まっているとシェスがおもむろに立ち上がりドレスルームへ向かった。
「シ、シェス?」
「あ、いや、寝衣に着替えようかと……」
「あ、あぁ、そうですね!」
明らかな挙動不審! お互いガチガチだわ。ど、どうしよう……、心臓が口から出そう……。
シェスが寝衣に着替え出てくると、では、私も! とそそくさとドレスルームに入って扉を閉めた。
あぁ、どうしよう、どうしたら良いの!? いや、どうしようもないんだけど……。男性に全て任せたら良いと聞いたことはあるけど、そうなの!?
考えたところで結論が出るでもなく、いつまでも戻らないと不審に思われそうだから、急いで寝衣に着替え主室に戻った。
シェスは椅子に座りこちらを向かない。ど、どうしよう……、とりあえず隣に座ったら良いかしら……。
緊張しながらシェスの隣にそっと座る。一瞬シェスがビクッとしたような気がしたけど大丈夫かしら……。
チーン。沈黙。こ、この空気誰か何とかしてー!!
「あ、あのシェス……、そろそろ寝ますか?」
ビクッとしたシェスは目を合わさず返事をした。
「あ、あぁ」
それだけ言うと、シェスは寝室へと向かった。その後に続き、ベッドの前で深呼吸。
シェスがベッドに乗り上げると、同じくベッドに乗った。思わず正座。
「リディ、これを」
「え?」
シェスがそう言いながら差し出したものは、指輪だった。少し古めかしい指輪。
「これは?」
「王家の伝統の指輪だ。第一王子である私に引き継がれ、そしてその妃となる者に渡す」
その古めかしい指輪は少しくすんではいるが、全面金で出来ており、真ん中には少し金が盛り上がり、王家の紋が刻まれている。
「もうすでに素敵な指輪をいただいておりますのに」
「あれは私自身が贈りたかったものだ。こちらは私の妃である証。身に付けていてくれるか?」
指輪を持つ手と反対の手でシェスは私の手を取った。
「はい」
返事をするとシェスは安堵したような微笑みで右手の薬指にその指輪をはめた。左手の薬指にはシェスから贈られたあの指輪。
「フフッ、両手がキラキラ」
両手を前に突き出し指輪を眺めた。
「もっと華やかなものでも良かったな、すまない」
「え? 十分華やかではないですか?」
「え、いや、しかし、私が贈った指輪は華やかな色合いとは程遠い……」
シェスがしゅんとしているわ。可愛いわね。そんなことを気にしていたなんて。
「フフッ、私はこの指輪が良いです。シェスの色だもの」
「リディ……」
シェスははにかみながら頬に手を伸ばしてそっと触れた。あ、ベッドの上だった。急に緊張し固まる。シェスの顔が! 顔が、綺麗過ぎて怖い! ち、近付いてくる! ど、どうしたら……。
緊張で身体が強張りながら徐々に近付くシェスの顔を見詰めていると鼻血が出そう。変な顔になってないかしら。そしてシェスの綺麗な瑠璃色の瞳がそっと閉じられるとふんわりと唇が触れた。
同様に目を瞑り唇に全神経が集中しているのではというくらい、シェスの唇を感じていた。またあの脱兎事件のようにならないかしら、と少し不安になりながらも、柔らかく優しいキスを心から嬉しく感じ、シェスの腕が背中に回るとそっと支えられながらベッドに倒された。
あぁ、このまま………………。
………………、にはいかなかった。
シェスレイトは唖然とし項垂れた。
リディアは疲労のためか寝落ちした……。
キスをし、ベッドに倒し、これからこのまま……、そう思っていたら、あろうことかリディアはスヤスヤと寝息を立てていた。
以前逃げ出してしまった手前、酷く緊張をし、何とか逃げずにいこうと思っていた矢先の寝落ち。
ガクリと肩を落とし、深い溜め息を吐くのだった。そして横で気持ち良さそうに眠るリディアを見詰め、フッと笑った。
「人の気も知らず、呑気に眠るなんて」
リディアの頬をそっと撫で、眠るリディアにそっとキスをし、シェスレイトはベッドから降りた。
気分が高揚し、身体の火照りでどうにも目が冴えてしまい眠れない。シェスレイトは仕方なく主室で椅子に腰かけ、すっかり冷めたお茶を飲んだ。
「今日はもうここにいるか……」
今日のリディアの姿を思い出すだけでドキリと心臓が跳ねる。とても美しかった。ようやく式を終え、もうリディアは自分のものだと言えるのだ、そのことに興奮を覚えた。
そう思うとリディアの横で眠れる気がしない。疲れてはいても眠くもならない。ならばこのまま起きているか、とシェスレイトは少しだけ灯りを点け、本を読むのだった。
まだまだ辺りは真っ暗闇の中、ふと目が覚めた。
ここは…………、そうだ! シェスとの結婚式を終えて二人でベッドに……、そして……、キャー!!
少しずつ思い出し顔が熱くなるのを感じ、ふと周りを見渡した。シェスがいない。
「あ、私……、やらかした?」
記憶を辿っても途中までしか覚えていない。シェスの優しいキスが嬉しくてドキドキして…………、その後からの記憶がなーい!!
「こ、これは……、私、完全にやらかしたわね……」
なんてこと!! 寝てしまうなんて!! シェスは!? シェスはどこに!? 怒ってどっか行っちゃった!?
青ざめ、泣きそうになりシェスの姿を探した。ベッドは冷たい。ずっともうここにはいなかったのね。悲しくなりシェスを探す。
主室へ繋がる扉から薄っすら灯りが漏れていた。
ストールを肩から被りそっと扉を開けると、椅子に座るシェスの姿が見えた。ホッとし、そっとシェスに近付き声を掛けた。怒っているかしら……。
「シェス、ごめんなさい、私……寝てしまったのですね……」
シェスは驚き振り向いた。そして立ち上がり、椅子に座るよう促す。
「いや、まあ仕方ない。今日は疲れただろうしな」
「ごめんなさい」
しゅんとすると、シェスはおでこに優しくキスをした。
「フッ、大人しいリディというのも中々見たことがないから新鮮だな」
ん? 何か褒められてないような……。
ムッとして拗ねるとシェスは吹き出した。
「ブフッ、アハハ! 変な顔になっているぞ」
「あ……、シェスのそんな笑顔は初めてですね」
「え?」
笑われたことよりも満面の笑みのシェスが意外で嬉しかった。
シェスは驚き、真っ赤になる。
「…………、リディといると本当に自分が変わったことを思い知る」
シェスは真っ赤になりながら顔を背けそう呟いた。
その姿が可愛らしくてクスクスと笑っていると、今度はシェスのほうが拗ねたような顔になる。
「笑わないでくれ」
「フフッ、ごめんなさい、シェスが可愛くて」
シェスが何だか嫌そうな顔になってしまった。あ、可愛いは駄目か。
「その、可愛いというのはやめてくれ……、情けない気分になる……」
「ごめんなさい、そういうつもりでは……、ただ本当に可愛くて……、あ、すいません」
何度も可愛いと言ってしまい、思わず口を押えた。シェスはじとっとした目で拗ねた。
やっぱり可愛いんだよなぁ、と思ったけど、これ以上口にすると本気で怒られそうだしやめよう。
「えっと……、寝ますか?」
話を逸らそうとして話題が思い付かず寝ようかと促したが、先程の大失態を思い出し少し顔が引きつりそうになってしまった。
「あー、いや、私は今日は眠れそうにないからここで過ごす。リディはゆっくり眠ると良い」
シェスは目線を逸らしながら呟いた。あぁ、私の大失態のせいで……。
「では、私も起きてます!」
「え!?」
「私も先程少し眠ってしまったので眠気がなくなってしまったのですよ。だから朝まで二人でおしゃべりでもして過ごしましょう」
「え、あ、いや……」
シェスが何かを言う前に被っていたストールをシェスにも掛け、一緒にくるまった。
そうして二人で子供の頃の話や私が日本にいたときの話、初めて出会ったときの話や結婚式までの一週間の話など……、様々な話をして夜を明かしたのだった。
人生初めての結婚式と初夜……、人生最大の失敗で終わってしまったけれど、これはこれで良い想い出! ……、ってシェスも思っていてくれたら良いのだけれど……、ごめんなさい、シェス。
「おはようございます」
ディベルゼが扉を叩き、中へと声を掛ける。マニカとオルガ、ギルアディスも一緒だ。
「返事がないですね、お疲れでまだ眠っているのでしょうかね。昨夜も恐らく遅い就寝でしたでしょうし」
しれっとディベルゼが言い、マニカとギルアディスは苦笑しながら顔を逸らした。オルガは一人ムスッとしているが。
「失礼致します」
扉を開けディベルゼは中へと入った。他の三人もそれに続く。
主室の椅子にシェスレイトとリディアの姿があった。
「あぁ、何だ、いらっしゃるじゃないですか。早起きですね…………」
ディベルゼはシェスレイトにそう声を掛けながら近付くと言葉を止めた。
「おやおや」
マニカとギルアディスは何事かとディベルゼに声を掛けようとしたが、ディベルゼは口に人差し指を当てシーッと言う。
マニカたちはそろそろと静かにシェスレイトとリディアに近付いたが、顔を覗き込むと……
「フフッ、本当にお二人は初々しいですねぇ」
リディアとシェスレイトは二人で肩を寄せ合い、一枚のストールを二人で被りながら気持ち良さそうに眠っていた。
「何か良い夢でも見ているのですかね」
少し微笑みながら眠る二人の寝顔を四人は微笑ましく思うのだった。
今回クリスマス時期が重なったため、
それに合わせて結婚式のお話を書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけたなら嬉しいです。
本当はもう一話予定をしていたのですが、結婚式のお話が長くなってしまったため、
もう一話のほうはいつになるか未定です(;^ω^)
すいません。
元旦の更新は未定ですが、今後またカナデ編を再開します!よろしくお願いします!




