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異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました【完結】  作者: きゆり
その後編

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マニカのお墓参り

その後編 第四弾です!


リディアとマニカ、視点が入れ替わりますので、

読み辛いかもしれませんがすいません(^_^;)


後書きにて、クリスマス投稿についてお知らせがありますのでご一読いただけると幸いです。

「マニカ〜、マニカ、どこ?」

「どうかされましたか?」


 マニカの姿がなく部屋で呼んでいると、マニカが扉を開け入って来た。


「どこに行ってたの?」

「料理長の元へ、今晩の料理の確認に」

「そっか」


 ちなみにその料理長というのはラニールさんのことではない。ラニールさんは控えの間の料理長。今話に上がったのは、城のメイン料理長。


 ラニールさんのところで食べる以外は、その料理長が普段の食事は用意してくれているのよね。

 いつも突発的にラニールさんのところで食事しちゃうから、料理長には迷惑をかけているわ、と申し訳なくなる。あ、そのたびに伝達に走るオルガにもね。


「何かありましたか?」

「あ、うん、マニカってさ、全く休まないよね」

「え?」


 マニカはキョトンとしていた。


「私の世話ばかりしていて、休暇を全く取れてないでしょ?」


 記憶にある限り、マニカが休暇を取ったのは二十年程の間、数回だけ。しかもカナデとして入れ替わっていた一年間も一度も休んではいない。


「ちゃんと休んで欲しいの」

「お嬢様、ありがとうございます。しかし私はお嬢様のお世話をさせていただくことが生き甲斐ですので、休暇などなくとも大丈夫です」


 マニカはそう言いながらニコリと笑った。


「駄目よ、マニカにはずっと側にいてもらいたいからこそ、しっかり休んでもらわないと!」

「お嬢様……、しかし……」

「何かやりたいこととかないの? 普段出来ないこと。休暇がないと行けないような行きたい場所とか」

「そうですねぇ……」


 マニカは困ったような顔をする。休んでもらいたい一心で無理矢理話をしているが、余計にマニカには負担だろうか。でもこうでもしないと本当にマニカは休まない。


「あ……」

「何!? 何!?」


 マニカが表情を変えたことにすかさず反応すると、マニカは苦笑しながら口にした。


「えっと……、母の墓参りに……」

「サラのお墓参り!? あぁ、サラ……懐かしい名前……、そうじゃない! ずっとお墓参り行けていないじゃない! ごめんなさい、今まで気付かず……」

「いえ! 良いんです! 私自身が行こうとしなかったのですから! お嬢様が責任を感じる必要はありません」


 マニカはそう言ってくれるが、しかし、やはり私の責任だと思う。そこはやはり主たる私が許可を出さねば侍女であるマニカは遠出は出来ないのだから。


 マニカの家は代々ルーゼンベルグの家に仕えて来た一族だ。マニカの母は私の乳母、マニカの父もルーゼンベルグの執事長を務めている。

 そのためマニカも幼い頃より私の侍女として、姉としてずっと側にいてくれた。


 マニカの母、サラが亡くなると遠方にあるルーゼンベルグ侯爵領の内、比較的領民の少ない土地に埋葬された。そこには代々ルーゼンベルグに仕えた方たちが眠っている。


 何度か幼い頃に連れられて行ったことがある。とても自然豊かな土地で、領民は少ないがのんびりした良いところだった。

 ルーゼンベルグの屋敷から少し離れた場所に墓地が設けられてあり、何年かに一度決まった日に弔問する。


 リディアの記憶にはここ四、五年弔問した記憶がない。

 当然マニカが行けるはずもなく、長い間訪れていない。


「私もサラに挨拶に行きたいし行こう! あ、でも私が行っちゃうとマニカの休暇にならないか……」

「いえ、とんでもありません、母もきっとお嬢様にお会いしたいはずです。ぜひ一緒に行ってくださいませ」

「良いの?」

「えぇ、もちろんです」


 マニカは微笑んだ。

 マニカに申し訳ない気分にもなりながら、久しぶりの遠出と、サラのお墓参りが出来るという喜びで気持ちは舞い上がっていた。


 予定を確認しつつ、ではこの日に行こう、と決まってマニカも喜んでくれていた。

 そうなのよ、喜んでくれていたのだけれど、それが今は苦笑に変わっているような……。


「ご、ごめん! マニカ!」

「いえ、お嬢様のせいではありませんので」


 マニカはやはり苦笑していた。

 その原因。


 なぜか遠出することがシェスにバレていたのよね……、そして案の定ディベルゼさんから「護衛のためにも我々もお供しますよ」とか言われて断れないまま、みんなで行くことになってしまった当日の朝、という訳。


 目の前にシェス、ディベルゼさん、ギル兄、マニカとオルガ、そして私、他にも侍女と護衛が何人か……大所帯よね。苦笑してしまった。


「皆様、私事のためにお付き合いくださり、誠に申し訳ありません、母もとても驚き喜ぶことと思います」


 マニカは恐縮しながらも笑顔で言った。無理してないかしら……、マニカに小声で聞いた。


「マニカ、大丈夫? 今からでも一人で行く?」


 申し訳なくて、今回は私は我慢しようかと思いマニカに伝えたが、マニカはニコリと微笑んだ。


「大丈夫ですよ、お嬢様。本当に嬉しいのです。お嬢様はもちろんですが、殿下方にまで来ていただけるなんて。とても賑やかなお参りになり楽しいですよ」

「な、なら良かった」


 マニカは自分の意見を言える立場ではないため、いつも我慢させている気がする。それが申し訳なくて……。

 よし、今日はマニカのしたいようにしてもらおう。



 遠方のルーゼンベルグ侯爵領まで馬車で半日程。ゼロに乗って飛べばあっという間だろうが、私しか無理だしね。


 馬車にはシェスとディベルゼさん、私とマニカ。マニカは第一王子であるシェスと一緒の馬車なんてとんでもない、と断っていたが、馬車の数を減らすためだ、とディベルゼさんに言いくるめられ仕方なく同乗することに。


 オルガとギル兄、それとあと一人護衛の方が馬に、残りの侍女たちは後ろの馬車に乗り込んだ。


 馬車の中ではディベルゼさんが楽しそうにシェスの暴露話を話し、シェスは真っ赤になりながらディベルゼさんに怒鳴っていた。


 フフッ、二人の喧嘩を見ていると本当にお互い信頼し合っているのだな、と微笑ましかった。


 そのやり取りを見ているとたまにシェスと目が合い、思い切り逸らされるということが数回……。明らかに挙動不審……、これは……以前の脱兎事件のせいだろうな……。思い出すと私まで挙動不審になりそうだから、なるべく冷静に……、あの日を思い出すと一気に顔が火照ってしまう。


 何だかんだと楽しい道中になり、ルーゼンベルグ領に到着した。

 侍女たちは荷物を下ろしたり忙しそうにしている。


 道中の疲れを取るため、とりあえず屋敷にて休暇。

 マニカがお茶を入れてくれようとする。


「マニカ! 私がやる!」

「えっ!?」

「マニカは座ってて!」

「いえ、そんな訳には!」

「良いから良いから」


 マニカを椅子に座らせ、途中まで用意されていたお茶を用意する。ただカップに注いでるだけなんだけどさ……、もっと早くに気付けば良かった。


 マニカは居心地が悪そうに椅子に座り、こちらを心配そうに見詰めている。

 シェスも一瞬驚いてはいたが、意図が分かったのか微笑んでいる。あまりに皆に見詰められ何だか恥ずかしい……。


 お茶を注いだカップを皆の前に並べ、私も椅子に座る。


「お嬢様、ありがとうございます」

「カップに注いだだけだけどね」

「そんなこと!」


 お互いに笑い合った。


「あ、すいません、お墓参り前に少し買い出しに行って来てもよろしいですか?」

「買い出し? 何を買いに行くの?」

「お墓に添える花を」

「あ、そうよね! 私も一緒に行こうかな……」

「いえ、お嬢様は殿下とゆっくりとお過ごしになっていてください」

「うーん」


 マニカもやはりたまには一人で外出したいかしら、そう思い、同行するのは我慢した。


「では、ギルさん、護衛として同行したらどうです?」


 ディベルゼさんが突然声を上げ、マニカがギョッとした。


「い、いえ、とんでもない!」

「俺は良いぞ?」


 ギル兄はそんなマニカに気付いているのかいないのか、すんなり同行することに同意した。


「殿下、マニカ殿と外出してきてもよろしいでしょうか?」


 ギル兄がやたらと恭しく聞くものだから、シェスは若干引き攣るような表情で答えた。


「いつもそんなことを確認しないだろう、許可する。マニカの護衛を頼む」

「はい」


 ニコリと笑ったギル兄はマニカに「行こう」と促し、マニカは恐縮しながらギル兄と出かけて行った。





「ギルアディス様、申し訳ありません。殿下の護衛騎士ですのに、私の護衛などお願いしてしまい……」

「いやいや、気にしないでくれ。殿下は屋敷だし、他の護衛もいるし、ディベルゼやオルガもいるし」

「ありがとうございます」


 マニカとギルアディスは屋敷を出ると、店が並ぶ街の中心地へと向かった。

 比較的小さな街でルーゼンベルグの屋敷は街より少し離れた場所にある。


「花屋だったか?」

「えぇ」


 街の花屋へは行き慣れているのか、マニカは迷うことなく歩いて行く。店先に色とりどりの花が並んだ店。そこを見付け、店員に注文をしている。


 ギルアディスは店先で花を眺めながらそれを待った。

 しばらくすると花束を抱えマニカが出て来る。


「おまたせしました」

「目当ての花は買えたのか?」

「えぇ、母が好きだった花です」


 マニカの抱える花は真っ白の花。サフルシアという花だった。甘い優しい香りのする小さな花。可愛らしい印象のこの花がマニカの母、サラは好きだった。


「あのさ、一つ聞いてみたいことがあったんだが、聞いても良いか?」


 ギルアディスは屋敷へ帰る道中マニカに真面目な顔で聞いた。


「はい、何でしょうか?」


 マニカは不思議に思ったが、そのままギルアディスの言葉を待った。


「その……、マニカは、リディの中身が違うことをすぐ受け入れられたのか?」

「…………」


 思ってもみなかった問いに、マニカはしばらく言葉が出なかった。

 確かに最初は戸惑った。見た目は変わらなくとも、中身が変わってしまい、しかもさらに五歳の頃から十八歳まで共に過ごしたリディアは別人だった。それを全く抵抗がなかったと言えば嘘になる。


 マニカはその時ふと思い出した。あのリディアが別人であるとシェスレイトたちにバレた日のことを。


 リディアの中身が入れ替わり、しかも今のリディアが本来のリディアであった、と知れたときのギルアディス。あの時ギルアディスは複雑そうな表情を浮かべていた。


「あのときギルアディス様はお嬢様の中身が別人だということに抵抗があったのですね? だからあのような表情を……」

「ハハ、マニカにはバレていたか。…………、あぁ、すまない、俺はあのとき少しばかり受け入れ切れてなかった」


 確かにギルアディスは五歳以降のリディアと仲が良かったのだ。ずっと妹のように可愛がっていたのは、前のリディアであって、今のリディアではない。


 それがギルアディスには少し辛かった。喜んでいるシェスレイトたちに水を差す訳にもいかず、ずっと言わずに我慢をしていた。


 今回たまたまマニカと二人きりになる機会を得て、どうしても聞いてみたくなったのだ。


「受け入れられなくとも良いのではないでしょうか」

「え?」

「やはり十三年共に過ごしたお嬢様も大切な方なんです。でも今のお嬢様も大切なのです。それで良いのではないのでしょうか」


 ギルアディスはマニカを見詰めた。


「ギルアディス様も以前のお嬢様を大切に思ってくださっているのですよね?」

「あ、あぁ」

「それで良いのですよ。でも今のお嬢様も大切に思ってくださっているでしょう?」

「…………、そう、だな……」


 シェスレイトが愛した今のリディア。そのことは心から嬉しく思えたし、今のリディアのことも以前のリディアと同じく大切な存在となった。


「それで良いのだろうか……」

「良いのですよ。どちらのお嬢様も私は大好きです」


 マニカはフフッと微笑んだ。


「それに今のお嬢様はきっとカナデ様となられたお嬢様との想い出も大切にして欲しいと思っておられると思います」


 マニカは強い瞳でそう言い切るとギルアディスを見詰めた。

 ギルアディスはそんなマニカを見ると、今まで口に出せなかった心の重荷がようやく下ろせた気がした。


「そうか、そうだな、どちらのリディも大切な存在だ。ありがとう、マニカ」


 ギルアディスはニコリとマニカに微笑んだ。マニカはそんなギルアディスの様子にホッとし、嬉しくなるのだった。


 その後は他愛もない話をしながら、屋敷へと帰り着き、リディアたちのいる部屋へと入ると、リディアの大きな声が響き渡っていた。


「いやー! ちょっと待ってー!!」


 ギルアディスとマニカは何事だと、慌てて部屋の奥に向かった。





「あ、おかえりマニカ、ギル兄」


 血相を変え飛び込んで来たマニカとギル兄。ん? どうしたのかしら。


「お、お嬢様、どうされたのですか!? 何やら叫び声が聞こえたのですが……」

「あ、ごめん、これ」


 マニカが背後から近付き覗き込むと、物凄い深い溜め息を吐いた。


「ミティカですか……」

「え、えぇ、何か心配させた? ごめんね?」


 ミティカとはチェスのようなもの。マニカとギル兄を待っている間、暇だからとディベルゼさんがシェスと勝負をしたらどうか、と提案してきたのだ。


 絶対勝てないだろうな、と思っていたら、やはりあっという間にキングを攻められ、叫んでいたという訳。


「ハハ、リディア様らしい」


 ギル兄がマニカを見て笑った。マニカはがっくりとしながらも、何事もないことに安心したのか、苦笑しながらギル兄と笑い合っていた。


 おや? 何かさっきまでの雰囲気と違う? 何だか少しそわそわしちゃうわね。うーん、でも余計な詮索はやめとこう。二人が幸せそうに笑っているだけで嬉しいし。


「さて、マニカも帰って来たことだし、サラのお墓参りに行きましょう」


 墓地は屋敷から少し離れた広大な土地に設けられている。

 今までルーゼンベルグに仕えた者たちの眠る場所。

 白い石版が並び、名前や没年やらが刻まれている。マニカの母、サラの石版にも同様だ。


 サラの名前。やっと会えたね。生きている間に会いたかったけど、仕方ないものね。

 私、五歳のときまでいたリディアだよ。帰って来たよ、サラ。


 マニカの持つサフルシアの花が風に揺らぎ、ふんわりと甘い香りを運んだ。

 サラが「おかえりなさい、お嬢様」そう言ってくれているような気がした。


 マニカは石版に花を添えると、その場に膝を付き祈りを捧げた。その後ろに私も膝を付く。皆一瞬驚いたが、そこはもう慣れっこね。誰も何も言わなかった。


「お嬢様、ありがとうございます。今日ここに来られて本当に良かったです。きっと母も喜んでくれています」

「うん」


 マニカは立ち上がると、私の手を取り立ち上がらせた。そしてそのまま両手を握り締め嬉しそうな顔を見せてくれた。


「あ、そうだ。シェス」

「何だ?」


 マニカと手を離し、シェスの腕を引っ張りサラの墓前に促した。

 腕を掴むと若干シェスはビクッとしたが、そこは変に意識するとまたしても挙動不審になるから無視します!


「サラ、私の婚約者様のシェスレイト殿下よ。素敵な方でしょう? 私、シェスが大好きなの。だから幸せよ。安心してね」


 そう言いシェスをチラッと見ると、案の定顔が真っ赤だった。フフッ、可愛い。


「リディアを幸せにすると誓う」


 シェスが両手を握り締め、急に真面目な顔で宣誓した。


「え、あ、あの……、ありがとうございます」


 両手を握り締められたまま、真っ直ぐな瞳で真っ直ぐな言葉を贈られて、嬉しさと恥ずかしさと、しかし幸せな気分で泣きそうになった。


 周りでは皆が微笑みながらこちらを見ていて、は、恥ずかしい……。


「ありがとうございます、シェス。私もシェスを幸せにしますからね? 二人で幸せになるのですよ!」


 握られていた両手を今度は私が握り締めた。シェスは驚いた顔をしたが、フッと笑った。


「あぁ」


 二人で笑い合える幸せ。それをサラに見てもらえて良かった。


 暖かな風が吹き頬を撫で、サフルシアの花弁がふんわりと空へと舞った。


次回のクリスマスに向けた単話ですが、予定していたより1話が長くなり前編を24日、後編を25日に投稿します。

予定より1話お話が延期になり申し訳ありません。

クリスマスの2日間でリディアの結婚式のお話です!

よろしくお願いします!


以下、補足

・マニカの母、リディアの乳母の名は本編では出て来ません。カナデ編にて「サラ」という名で初登場しています。投稿順序が違うため名前の出る順が前後し申し訳ありません。

・ギルアディスがリディアとマニカに敬称を付けたり付けなかったりしていますが、シェスレイトの前では敬称を付けています。

基本的には幼なじみなので、リディアとマニカには敬称なしで呼んでいます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マニカさんとサラさんの話を読みたいと思っていたので、こうしてお墓参りの話を読むことができて嬉しいですね。 いつもの和やかな雰囲気で物語が進みながら、 じんわりと心に響くお墓参り。 いいで…
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