ラニールさんの休日
本編その後です!
楽しんでいただけたら嬉しいです!
一話完結のお話にしているので、本編一話分より長くなっています。
誕生日から一週間程過ぎた頃、ラニールさんと再びお菓子の相談をしたくて控えの間に向かっていた。
その途中、珍しくキース団長と遭遇。
「リディア様! またラニールのところですか?」
「えぇ、お菓子の相談をしたくて。キース団長はこんなところでどうされたのですか?」
キース団長と遭遇したのは騎士団演習場とはかけ離れた場所。
「いえ、ちょっと上の者に騎獣について呼ばれていただけです。それよりも!」
「?」
キース団長と歩きながら話す。
「明日私とラニールが休日なのですが……」
「?」
「リディア様、ラニールが休日をどう過ごしているのか気になりませんか?」
少しいたずらっぽくキース団長はニッとしながら言った。
「え? ラニールさんの休日ですか?」
「えぇ」
うーん、確かにラニールさんて休日も仕事してそうなイメージなのよね。以前そう言ったら怒られたよね。思い出すと笑ってしまう。フフ。
「リディア様?」
キース団長に不思議がられてしまった。
「確かに気になりますね」
「でしょう!? 明日ラニールも休みなんですよ、ちょっと尾行してみませんか!?」
「は!?」
尾行!? 尾行って言った!?
「尾行って、それは……」
「あいつが仕事以外に何をしているのか知りたくないですか?」
「うーん、まあ確かにラニールさんて仕事以外全く分からないですものね」
「そうでしょう!? だからちょっとだけ調べてみましょうよ! 好きなものとか分かるかもしれませんし」
ラニールさんにバレたら絶対怒られそうだけど……、好きなものかぁ……、この前の誕生日の料理、何かお礼をしたかったのよね……。
「仕方ありませんね。少しだけですよ?」
「そうこなくっちゃ!」
キース団長は親指をグッと突き出しニッと笑った。
ラニールさんには内緒だと念を押され、そのままキース団長は演習場に向かい、私はラニールさんの元にまで行った。
「リディア、今日はどうした?」
ラニールさんをじーっと見詰めるとたじろいだ。
「な、何だ?」
「いえ、何でも」
「あぁ、そう言えばリディアは明日暇か?」
「え!? 何でですか!?」
さっきまでキース団長と話していたからか必要以上に大声になってしまった。
「え? いや、明日仕事が休みの日でな。一緒に街へ行かないかと」
「街!? 何をしに!?」
「何でそんな驚いてるんだ!?」
「え、いえ、アハハ」
まずい、必要以上に驚いてしまった。それにしてもラニールさんから街へ誘われるなんて珍しいわね。気になる! 気になるけど……。
「すいません、明日はキース団長と出かける予定が……」
と、言ったところでしまった! と固まった。わざわざキース団長と、なんて言わなくて良いのに! 怪しいじゃないの、思い切り!
「キースと? 何でキースと」
ほら、案の定、不審な目で見られてるし!
「いえ、ちょっと探したいものがあって……」
うぅ、嘘つきたくないよぉ。
「ふーん?」
目が泳ぎそうになる。我慢だ。
「まあ、それなら仕方ないな……」
ラニールさんはそう言うと厨房に戻って行った。
「あ、あの今日はお菓子を……」
「ん? あー……、今日は気分じゃない」
「え……」
そ、そんなぁ。がっくりした気分ですごすごと部屋へと帰る。
「お嬢様、良かったのですか? キース団長とあんな約束をされて」
「うーん、そうよね……、まさかラニールさんも誘ってくれると思わなかったし……、断って申し訳ないな……、ラニールさん、怒ってたのかな……」
何かをお願いしに行って、初めて断られた。しかも忙しいとかじゃなく、気分じゃないって……。
「あれは怒っているというよりも……」
「え? 何? 怒ってる訳ではないの?」
マニカは私の顔をじっと見詰めた。そして溜め息を一息吐く。
「お嬢様は分からないままでも良いのかもしれませんね」
「えぇ!? 何それ!? 教えてよ!」
「フフ」
意味深なマニカの言葉に納得いかないままだったが、どうやってもマニカは教えてくれなかった。もう……、何なのよ、一体……。
翌朝、平民服で準備をしていると、部屋までキース団長が迎えに来てくれた。キース団長もしっかり平民服だ。
「おはようございます、リディア様! ラニールのやつがもう出かけていましたよ! 早く行きましょう!」
「お、おはようございます」
キース団長のやる気に若干引きながら、急いで出かけることに。
ラニールさんは白の門からどうやら街へ向かったようだ。昨日街に誘われたもんね……、何をしに行くのかしら。
ラニールさんの姿を見付けると、キース団長は人差し指を口に当てシーっという仕草をし、そっと後をつける。
ラニールさんは街へ入ると迷うでもなく、一つの店に入って行った。
「あのお店何ですか?」
「さあ、どうやらレストランのようですけどね」
店の窓からこっそり中を覗くと、テーブルと椅子がたくさん並べられ、数人の客らしき人々が何かを食べたりお茶をしたりしている。
ここで食事でもするのかしら。でもラニールさんの姿は見えないなぁ。
「うーん、ラニールはどこに行ったんですかねぇ。厨房にでも行ったのかな」
「あぁ、なるほど、ラニールさんのお友達でもいるのかもしれませんね」
料理人の仲間がいてもおかしくはない。何だ、そういうことか。
窓から中を覗いている私たちは明らかに不審者だ。さすがにいつまでもこうしている訳にもいかないだろう。
「ラニールさんも出て来ませんし、そろそろ帰りますか?」
「うーん、気になるし、もう少し見張ってみましょう! リディア様、少しここでお待ちください!」
「え?」
そう言うとキース団長は走ってどこかに行ってしまった。
「どこに行ったんだろう」
マニカとオルガもキース団長の向かった先を見詰めるが、二人共「さぁ」と一言呟いただけだった。
少しするとキース団長が走って戻って来た。手に何かを持っている。
「お待たせしました! ラニールは出て来てませんか?」
「えぇ」
「どうぞ、これ」
渡されたものは屋台で買って来たであろう、揚げパンだった。
「そろそろお昼になりますしね、お腹空かれたでしょう?」
そう言うとキース団長はニッと笑い、揚げパンに豪快にかぶり付いた。
「フフ、そうですね、ありがとうございます」
マニカとオルガの分も買って来てくれていた。レストランの前で揚げパンを食べる……、店にとったら迷惑よね……。
そう思っていると、中にラニールさんの姿が見えた。慌てて皆建物の陰に隠れる。
ラニールさんは店の出入口で知り合いであろう人物に手をひらひらと振ったかと思うと街を歩き出した。
今度はどこへ向かうのかしら。
再び後をつけると今度は雑貨屋? 何の店だろう。何だか色々なものが売っている? ん? でもよくよく見ると調理器具が多いような?
仕事道具でも買いに来たのかしら。
「今度は何の用でこの店に……」
キース団長はまた店の窓から覗き見る。再び不審者。ラニールさんに見付かりそうでヒヤヒヤする。
ラニールさんは何かを物色しつつ、どうやら一つのものを購入したようだ。しかし、それが……、何を購入したのかは分からないけど、その買ったものが……、可愛らしい包みで包装されている……。
「な、何だあれ! 明らかに自分用じゃないですよね!」
キース団長は興奮気味に言う。
「え、えぇ、そうですね……」
明らかに女性用……。えー! 女性用にプレゼント!? ラニールさんが!?
「あ、あいつ……女でもいるのか……?」
そう言ったかと思うとキース団長はハッとした顔になり、慌てて「失礼しました!」と訳の分からない言い訳をした。いやいや、どういう意味の失礼しました、何だか。
ラニールさんがその包みを持ち店から出て来る! 慌ててまた店の陰に!
四人で呆然としながらラニールさんの後ろ姿を眺めていた。
その後、ラニールさんは少しだけ街をウロウロ散策したかと思うと城へと早々に帰って行った。
まだ夕方に差し掛かる前だったため、その足でキース団長はラニールさんに会いに行こうと言った。
「えぇ!? 今日会うのはまずくないですか!?」
「でもリディア様、あの包みが気になるじゃないですか! 一体誰に渡すのか!」
「…………」
気になると言えば気になる。ラニールさんが贈り物をする相手。誰なんだろう……。
そう考え込んでいると引き摺られるようにキース団長に控えの間まで連れて行かれた。
控えの間へ入るとラニールさんがいた。
「リディア」
「ラ、ラニールさん!」
「あー、今日キースと出かけてたんだな」
「え、えぇ」
キース団長と一緒にいたことでラニールさんは察したようだ。
「お前は今日何していたんだ?」
キース団長……、直接聞くのね……。後をつける必要なかったのでは……。
「ん? お、俺は街に行っただけだ……」
「何をしに?」
「は? 何でも良いだろう」
「言えないことなのか?」
「はぁ!?」
何故かラニールさんは言い淀む。何でかしら。言いにくいことなのかしら。やはり誰か女性に……。
「別に何でもない! 知り合いの店に行っただけだ! その……、リディアと行こうかと思っただけで……」
「え?」
私と? 確かに昨日街へ一緒にと誘われたけど……。
「リディア様と?」
「あ、あぁ。俺の知り合いがやってるレストランだから、そこを借りて何か美味いものでも食べさせてやろうかと……」
「え?」
ラニールさんは少し顔を赤らめながら言った。
え? その店で食事? 私と?
「その……、誕生日のとき、あまり料理を食べられなかっただろ?」
誕生日のとき、確かに食べる暇もなく、しかも私は逃げ出してしまい、ほとんどラニールさんの料理を食べることが出来なかった。それを気にしてくれていたの?
「ラニールさん……、ありがとうございます」
嬉しくて泣きそうになってしまった。優しいなぁ。
「いや、でもその包みは!? 女性にだよな!?」
キース団長がラニールさんの手にある綺麗な包みを指差し言った。
「は? あぁ、これか。これは……」
再び恥ずかしそうな表情になりながら、ラニールさんはその包みを差し出した。
「これもリディアに」
「え?」
「えぇ!?」
キース団長は私よりも驚きの声を上げていた。
「俺からリディアに誕生日プレゼントだ。前にナイフをもらっているしな」
「「えぇ!?」」
キース団長と声が重なった。驚いた。まさかラニールさんから誕生日プレゼントをもらえるなんて。
「リディア様にだったのか……」
キース団長はガッカリなのか、嬉しいのかよく分からない顔で苦笑していた。
何だか色々申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。尾行なんてしてごめんなさい。
キース団長も同じ気持ちだったのか、二人共同時に頭を下げた。
「「申し訳ありませんでした」」
「は?」
ラニールさんは何だ!? と不思議そうな顔。それはそうよね……。
私はというとキース団長と全く同じ動きに言葉で思わず笑ってしまった。
「フフ、ラニールさん、開けてみても良いですか?」
「あ? あぁ」
綺麗な包みを丁寧に開いて行くと中から薄い厚みの細長い箱が出て来た。その箱を開けると中には……。
「包丁……」
「はぁ!? 包丁!? 何で包丁!?」
「い、良いだろう! 別に! 女へのプレゼントなんて思い付かん! これならお菓子作りにも使えるだろうが!」
確かにいつもお菓子作りで包丁を使うときには厨房の包丁をお借りしている……。
「お前なぁ!! 他に色々あるだろうが! アクセサリーにしろ、花にしろ! 色々と!」
「知るか!!」
キース団長とラニールさんは喧嘩のように怒鳴り合っている。
包丁……、フフ、包丁って、フフ、ラニールさんらしい。それがおかしくて笑いが止まらなくなった。
「フ、フフフ、ラニールさん、ありがとうございます。大事に使いますね」
「え、あ、あぁ」
ラニールさんは恥ずかしそうに笑った。
キース団長はやれやれといった顔をしながらも、少し落ち着いたのかラニールさんの姿を見て微笑んだのだった。
そのやり取りを見ていた料理人たちと数人の騎士たちが生暖かい目で見ていたことは言わずもがなだろう……。
明日、夕方もしくは夜にもう一話投稿予定です!




