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異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました【完結】  作者: きゆり
本編 リディア編

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第六十三話 過去の想い出!?

「お嬢様、おかえりなさいませ。ご無事で良かったです」


 マニカには心配をかけてしまったようだ。少し疲労の色が見える。


「お嬢、おかえり! 楽しかった?」


 オルガ……、あのときやっぱりオルガは止めてくれていたね……。


「オルガ、ごめんなさい」

「? どうしたのお嬢」


 マニカもレニードさんもどうしたのか、と不思議そうな顔。それはそうよね。


「私、魔獣に襲われた日のことを思い出したの」

「!!」


 オルガは驚いた顔から悲痛な表情になった。


「お嬢様、あの日のことを思い出されたのですか?」

「うん、あの日やっぱり私の我が儘だった」

「思い出さなくて良い!」


 オルガは悲痛な表情のまま叫んだ。


「あれは俺が悪いから!」


 オルガは泣き出しそうな表情になる。


「お、お嬢様、とりあえず戻ってお昼にしませんか?」


 マニカが視線をチラリとレニードさんに向けた。レニードさんはどうしたのかとおろおろとしている。


「そうだね。レニードさんまた来ますね。ゼロも……」


 ゼロをしっかりと抱き締めた。


『あぁ、またな』


 何だかこのまま会えなくなったりしないだろうか、と不安な気持ちになり、ゼロから離れられなかった。

 そんな想いに気付いたのかゼロは耳元で呟いた。


『大丈夫だ』


 そう一言だけ。

 しかしその一言は私に安心感を与えてくれた。

 うん、大丈夫。


「ありがとう、ゼロ」


 そう呟きゼロから身体を離すと、ゼロの頬を撫で、離れた。



 魔獣研究所を後にし、部屋に戻るとマニカが人払いをし、しっかりと扉を閉じた。部屋にはマニカとオルガ、そして、私の三人だけ。


「お嬢様、本当に思い出されたのですか?」


 マニカは少し聞きにくそうに、オルガは泣き出しそうな表情のままだ。


「うん、ゼロと話しているときに……」


 チラリとオルガを見ると泣き出しそうな表情だけでなく、怯えたような、悔しそうな、そんな複雑そうな顔。


「ゼロは魔獣に襲われたときに助けようとした子供ドラゴンだったの」

「!?」


 オルガは驚きこちらを見た。


「ゼロもさっき気付いたらしく、過去に私たちは会ったことがある、って言われて。そう聞いて私の記憶も鍵が開いたかのように……」


 そう、一気に溢れ出してきた。あの日以前の記憶が一気に。


「じゃあ、お嬢と俺が初めて会ったときのことも?」


 オルガが少し躊躇いながら聞く。

 オルガと初めて会ったとき……。記憶を探る。


 まだ四歳の幼児だった。そのとき十一歳のマニカは頼れるお姉さん。

 マニカと共に庭園を散歩していたときだ。父親である庭師のダルトンの背後に隠れていた。たまたまその日、父親の元に遊びに訪れていたのだ。


「ダルトンの後ろに怯えながら隠れていたわね」


 その姿を思い出しクスッと笑った。


「!! あぁ、お嬢、本当に思い出してくれたんだ……」


 オルガは笑顔のまま泣いた。涙を我慢することもなく、ただただ涙は流れるままだった。


「お嬢様、本当に思い出されたんですね」


 マニカの瞳も光るものが見えた。


「もう二度と戻らないと思ってた……」


 オルガは私の両手を握り締め俯いた。その手は力強く、今まで記憶を失くしたことでとても辛い想いをさせていたのだと痛感する。


「お嬢は俺の道標(みちしるべ)なの」

「? 道標?」

「うん、いつも俺に勇気をくれた。初めて会ったときからずっと……」


 マニカが昼食の準備をしてくれ、今日だけは特別だと、マニカとオルガも共に食べた。

 オルガは初めて会ったときからのことを嬉しそうに話す。


「お嬢と初めて会ったとき、俺はあのときまだ人見知りが激しくて怯えてたけど、お嬢は無理矢理引っ張って遊んでくれたよね」


 オルガはニコニコ話すが、無理矢理って……、それどうなのよ、と思いながら苦笑する。


「それからもほぼ毎日あちこち連れ回してくれたよね。庭園に出て来たヘビを追い払って、とか、今から競争だ! って急に走り出したり」


 オルガは楽しそうだが、何だか私って……、ガキ大将じゃあるまいし……、あれこれ思い出して来て恥ずかしくなる。


「後は……」

「も、もう良いよ! 色々思い出したから!」


 居たたまれなくなった。


「フフ、お嬢はいつもそうやって新しいことに俺を連れ出してくれたよ。そして俺の夢をいつも応援してくれてた」

「夢……、庭師のお父さんの跡を継ぐって夢?」

「そう。今はお嬢の側にずっといることだけどね」


 オルガは微笑んだ。


「初めて会ったときにも、そんな子供の言うことを、真っ直ぐに褒めて応援してくれた。なのに……」


 急にオルガは暗い顔になってしまった。


「あのとき俺はお嬢を止められなかった。しかも魔獣に襲われたお嬢を助けられなかった……」

「そ、それはオルガのせいじゃない!」


 オルガの責任なんて何一つない。私が無理矢理行ったのだ。助けられなかった、とオルガは悔やんでいるが、五歳の子供に何が出来るのだ。


「でも俺は自分が許せなかったんだ。魔獣に襲われた後、お嬢は俺のこと忘れちゃったし……きっとお嬢を守れなかった罰だ、って思った」

「そんなこと……」


 そんなことない、と言いたかったが、オルガがその後必死に世話を焼いてくれていたことを思い出し、胸が痛んだ。


「奥様に嫌われちゃったから、中々会えなかったけど、起き上がれるようになってからは、必死に思い出してもらおうと頑張ってみたよ。でも駄目だった……」


 オルガは寂しそうに笑った。


「忘れてしまったのなら、改めて知ってもらおうと思ってたくさん話したし、たくさん遊んだ」

「うん、それも覚えてる」


 記憶を失くしてからのことは、オルガが色んなことを教えてくれていた。リディアの記憶で知っている。


「怪我をしたせいかお嬢はすっかり別人のように大人しくなっちゃって……」


 ギクリとした。いや、今のは過去の話だ。今のことではない。


「でも今のお嬢は昔のお嬢に戻ったみたいで、俺、ずっと嬉しかったんだ」

「オルガ……」

「思い出してくれてありがとう、お嬢。記憶のないお嬢のことももちろん大好きだけど、今のお嬢が大好きだよ」


 オルガは照れながら、しかし満面の笑みを浮かべた。それは今までに見たことがないくらいの心から喜んでいるような優しい笑顔だった。


 今の私を受け入れてくれたようで嬉しかった。嬉しかったんだけど、何か少し引っ掛かるような?

 まさかオルガは気付いてる? 私が「リディア」とは別人だと…………。ま、まさかね……、それなら何か聞いてくるよね。うん、気のせいだろう……。



 昼食を食べ終え、お茶をしながらまったりしていると、急にオルガが慌てて言った。


「そうだ! 忘れてた! シェスレイト殿下への面会だけど、今日の午後から少しくらいなら大丈夫って言われてたんだった!」

「え! 早く言ってよ!」

「ごめん、お嬢!」


 アハハ、といつものオルガに戻っていて、少しホッとした。やはりオルガにはいつも笑っていてもらいたい。


 そして、慌ててシェスに会うための準備をするはめに。

 好きだと自覚してから初めて会う。大丈夫かしら……、普通に出来るかしら……、不安だ。


 騎乗のための服装だったため慌てて着替え。

 マニカはこれでもか、というくらいの気合いを入れて仕上げてくれた。ますます緊張する……。


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