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異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました【完結】  作者: きゆり
本編 リディア編

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第六十話 後悔しないために!?

「苦いな……」

「苦いですね……」


 ラニールさんと顔を見合わせ苦笑した。


 騎士たちもどうやら同じ感想だったようで、水出しを混ぜ込んだお菓子を食べた者は微妙な顔をしていた。


「じゃあこっちは」


 乾燥させた果物を刻んで入れたもの。そちらを一口食べる。


「うん、こちらは良い感じですね」

「あぁ、しかしこちらも僅かだが苦味を感じるな……」

「そうですか?」


 もう一口食べてみる。じっくりと味わうと確かに少し苦味を感じるような。


「これ、何の苦味ですか?」

「うーん、恐らく果実の皮……」

「皮?」

「あぁ、乾燥させるときに皮ごと乾燥させたからそれが原因かもな。今度は皮を剥いて乾燥させるか……」


 ラニールさんがぶつぶつ言っている。

 皮か、なるほど。確かに皮には苦味があったりするよね。それが美味しかったりもするのだけど、今回のお菓子に混ぜ込むのには向かなかったらしい。


「では、また皮なしでやり直してみましょう!」

「あぁ、そうだな」


 騎士たちに感想を聞いても、やはり水出しを入れた方は却下。果物を刻んだものを入れた方は騎士たちには苦味は分からなかったらしく好評だった。


「後、これはリディアに」

「?」


 ラニールさんが渡してきたものは、コロンと小さくて色とりどりの丸いものがたくさん入った袋。

 何だろう、キョトンとしていると、


「あー、クッキーだ。砂糖は少し使ったが……」

「え、さっきの時間で作ったんですか!?」

「あぁ」


 いつの間に! しかもこんな色とりどりのを。


「可愛い!!」


 一口サイズよりも少し小さめの色とりどりの丸いクッキー。可愛い以外の何物でもない!

 しかもあのラニールさんがこんな可愛いものを作っている姿を想像すると微笑ましい。


「こんなのを作っていたなんて全然気付きませんでした」

「あぁ、まあな……」


 少しラニールさんは恥ずかしそうにしながら、また頭を撫でて来た。

 特に何も口にはしないが、きっとさっきのことを思って励ましてくれているんだろうな。


「ありがとうございます」


 またじんわりと涙が出そうになるじゃない。しかしぐっと堪えた。


「と、とりあえず、また果実の乾燥をやり直してみるから、何日かしてからまた来い」

「はい!」


 ラニールさんはそう言うとじゃあな、と手をひらひら振り、晩の準備に戻った。



「このクッキー食べるの勿体ないな」

「フフ、そうですね」


 部屋へ戻りながらクッキーを眺め呟いた。


「あの、お嬢様……本当に大丈夫ですか?」


 マニカが心配そうな顔で聞いた。その言葉を聞きオルガも心配そうにする。

 先程のことですっかり二人に心配をかけてしまった。


「うん、もう大丈夫。ごめんね、心配かけて。もう気持ちは固まったから……」

「お嬢?」


 マニカは悲痛な顔をするが、オルガは何のことか分からないといった顔だった。

 ごめん、オルガ。今は何も言えなくて。


 その日の夜、寝静まった部屋で一人クッキーを口にした。

 とても優しい味で嬉しくもなり、切なくもなった。


 鏡台の引き出しをそっと開け、初めてこの世界で目を覚ました時に手にしていた鏡を見た。

 この鏡を使う日、それがこの世界にいる最後の日だね。

 そっと鏡を撫で、再び引き出しを閉じた。



 翌朝、この日は珍しく講義がお休みだったため、朝から魔獣研究所に向かうことにした。

 ゼロと呼び笛の練習をするためだ。


 それとオルガにはシェスに面会の希望を伝えに行ってもらった。


 せっかくのお誘いを断ってしまったのが申し訳ないので、こちらからお誘いの申し込みをしたいと……。


 シェスを「好き」だと意識してしまうと、対面したときに緊張せずにいられるだろうか。

 とても不安だったが、だからといって会わない訳にも行かない。

 それに後悔がないようにと決意したのだ。出来れば楽しい思い出を残したい。

 その為には色々頑張ると決めた。


 その第一歩はシェスと街デートよ! 街にはもう一度行きたかったしね。


 気合いを入れる姿を不審な顔で見詰めるマニカ。


「どうされました?」


 魔獣研究所に向かいながらマニカが聞く。オルガもいないから良いか。周りをきょろきょろと見渡し、誰もいないことを確認しながら小声で話す。


「私ね、残りの時間を目一杯楽しく過ごして後悔がないようにするって決めたの」

「お嬢様……」

「みんなのことが大好きだしね、それに……シェスも……」


 口にすると急激に顔が火照るのが分かった。くわっ! 駄目だ! これ以上は口に出来ない! 恥ずかし過ぎる!!

 両手で頬を隠しながらちらっとマニカを見た。

 マニカは涙目になりながらも嬉しそうだったり、悲しそうだったりと、複雑な表情だった。


「お嬢様……あぁ、申し訳ありません。何と言ったら良いのか……」

「ううん、良いよ、マニカの気持ちは分かっているから」


 私の一番の味方だもんね。


「お嬢様、シェスレイト殿下とのデート、必ず成功させましょうね!」

「う、うん」


 マニカが前のめりになり、両手を握り締め言った。あまりの気合いの入りっぷりに若干引き気味。


「「フフ」」


 お互い笑い合った。



 魔獣研究所に着くとゼロはフィンと共に外にいた。


「ゼロ!」


 少し離れたところから呼ぶとゼロは翼を広げこちらに向かって飛んだ。それに釣られフィンも同じようにやって来る。


『リディア』

「ゼロ、今日は呼び笛の練習に来たんだけど大丈夫?」

『あぁ。今日はあいつはいないのか?』

「あいつ?」

『この前リディアを引っ張っていった奴だ』

「あぁ、シェスのこと? 今日はいないよ?」

『そうか』

「? どうかした?」

『いや、何でもない』


 何だろうか、何故シェスを気にしているのかしら。う、シェスの顔を思い出すと緊張する。駄目だ、今は忘れないと。


『リディア?』


 ゼロに不審がられる。


「な、何でもないよ!」


『何話してんだよ!』


 フィンが俺にも話が分かるようにしろ! と割り込んだ。


「フィン、騎乗は上手く行ってる?」

『ん? あぁ、まあ……な』

「?」

『上手くはいってなさそうだぞ』

「え? そうなの?」

『あぁ、昨日あの子供が乗ろうとしていたが、お互いに中々呼吸が合わないようだった』


 子供……、多分イルのことよね。そうなんだ、あんなにイルは熱心に通っていたのに、それでも呼吸を合わせるのって大変なんだ。


「ってことは、やっぱりゼロと私ってかなり相性良いんだね」


 私はゼロに乗るとき、ほぼ何もしていないもんなぁ、と呑気に考えていた。


『だからリディアは特別なのだ。私の相棒』

「フフ、そうだね」


 そう言うとゼロは鼻先をスリッと合わせて来た。


「リディア様!」


 レニードさんがフィンを追ってやって来た。レニードさんを無視してこっちに飛んで来ちゃったのね。


「レニードさん、今日はゼロと呼び笛の練習がしたいので遠出しても良いですか?」


 マニカは少し不安そうだが、レニードさんは少し考えたのち、ゼロと目を合わせ頷いた。


「分かりました。気を付けて行ってらしてください」

「ありがとうございます」


 マニカには魔獣研究所で待機していてもらうことに。

 私はというと、今日は最初からばっちりの服装で来たわよ!


 この前シェスと乗馬したときの騎士団制服の上着なしで!

 あの時のことを思い出し、照れるやら可笑しいやら、クスッと笑った。


『リディア?』

「あ、ごめん、何でもない」


 鞍を付けられたゼロに跨がり、ゼロは一気に上空へ。

 あぁ、やっぱり気持ちが良いな。

 ゼロとの相棒も後少しで終わり……。


『どこへ行く?』

「あ、えっと……」


 どこかゆっくり話せるところに……。


「クズフの丘……」

『ん?』

「ゼロと初めて行ったクズフの丘に行きたい」

『あぁ、花を取りに行ったところか。分かった』


 ゼロはそう言うと、クズフの丘に向かって飛んだ。


 ちゃんとゼロには話しておかないと……。


ラニールさんとお菓子作りに、

シェスレイトとの街デートに、

リディアは後悔のないよう全力で頑張ります!


そしてゼロには……。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  目一杯楽しむ、と言いつつも、去る為の準備もしなきゃいけない。  みんなが優しい事が、逆に辛い事もありますよね。  さて、リディアはこの優しくもハードな苦難を乗り越えられるかな?  期待…
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