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異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました【完結】  作者: きゆり
本編 リディア編

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第五十三話 仔犬……じゃない!?

「どうしてですか?」

「このゼリー、冷やしていないと溶けやすくてな」


 ラニールさんは苦笑しながら言った。


「作ったときリディアが好きそうだ、と思って成功を喜んだんだが、冷やしてないまま置いていたら溶けて崩れたんだ」

「えぇ、もったいない。今日は冷やしてあったんですか?」

「あぁ、昨日少し改良してから、作って冷やして置いてたんだ」


 この世界に電気の冷蔵庫なんてないものね……、大きな氷を入れて冷やしておくための箱、それがこの世界の冷蔵庫。


 だから街でこのゼリーを販売し出しても溶けてしまう。


「それは……駄目ですね……」

「あぁ」


 残念過ぎる。


 ラニールさんとガッカリしながらも意見を交わしている周りでは、違うことに盛り上がっている


 こそこそ何やらまたニヤニヤしているが何だろう、何かあったかな。まあいいか。


「このゼリーが駄目ならやはり焼き菓子ですかね」

「まあその辺りが無難だろうな。焼き菓子ならパン屋に置いてもらうのも可能だしな」

「ですねぇ。クッキーか……、マフィンとか……、パウンドケーキとか?」

「そうだな。前持って来たハーブやらを厳選してみたから、それで試作を作るか?」

「はい! いつ作ります!?」

「ん? リディアも一緒に作るのか!?」

「え? 駄目ですか?」

「いや、駄目ではないが……」


 少したじろぐラニールさん。何で?


「良いじゃないか、ラニール! リディア様と一緒に作ったら! 昼過ぎから夕方までなら他の料理人に任せてたら大丈夫だろ?」


 キース団長が何故か強く勧めてくれた。


「それはそうだが……」

「お邪魔になるなら止めておきますが……」


 出来れば一緒に作りたい! というか、ラニールさんの作っているところを見たい!


「いや、邪魔な訳では! …………、分かった。いつが良い?」

「良いんですか!? やった!!」


 ラニールさんは少し困ったような嬉しそうな? 複雑な表情をしていた。


「リディア様良かったですね! ラニールをよろしくお願いしますね!」


 何をよろしくなのか分からないが、キース団長は満面の笑みで何故かそう言って去って行き、騎士たちもお菓子作り頑張ってください! と声を掛けてくれながら去って行った。


 皆がぞろぞろと仕事に戻って行き、静まり返った控えの間では、ラニールさんが頭を掻いていた。


「あー、で、いつにする?」

「そうですね、とりあえず明日もう一度午後に来ますね。今度は昼食準備の邪魔はしませんから!」

「あ、あぁ」


 先程の事を思い出したのか、ラニールさんは顔に手を当て隠しながら返事をした。


 ラニールさんに挨拶をし、控えの間を後にした。


「リディはこの後どうするの?」


 イルが歩きながら聞く。


「うん、ゼロに会いに行きたいから……、今日はイルも一緒だし歩いて行こうか。イルも魔獣研究所に行くんでしょ?」

「うん!」


 イルは目を輝かせて返事をする。本当に魔獣が好きなんだなぁ。頭を撫でたい衝動に駆られるわ。


「あ、その前に薬物研究所に寄りたいんだけど良い?」

「薬物研究所?」

「うん」

「何するの?」

「ちょっとね」


 ニコリと笑って見せ、イルを引っ張って行った。


 イルは初めての薬物研究所に少し緊張気味だった。私の後ろに張り付いて隠れるように付いて来る。

 でも背が高いから隠れてないし。


「こんにちは」

「リディア様!」


 入口近くにいた研究員たちが挨拶をし迎えてくれた。

 フィリルさんを探しキョロキョロしていると、違う部屋から現れこちらに気付いてくれた。


「リディア様、いらっしゃいませ。今日はどうされましたか?」


 いつもフィリルさんはわくわく顔で出迎えてくれる。多分私が次は何を言い出すか、って期待してるんだろうなぁ。そんなにいつもやらかしませんよ?


「フィリルさん、ごきげんよう。クフルの実をまた分けていただけないかと」

「クフルの実? あぁ、魔獣に持って行かれるのですね?」

「えぇ」

「この前ので大量に採ってしまったので、どれだけ残っているか……、座ってちょっと待っててくださいね」


 そう言うとフィリルさんはバタバタと小走りに消えて行った。


 しばらくすると少しだけのクフルの実を抱えたフィリルさんが戻って来た。


「すいません、今日はこれだけしかありませんでした」


 机の上にコロコロと置いたクフルの実は四つだけ。

 フィリルさんは申し訳なさそうにする。


「いえ! この前たくさん採っていただいたのだから、今は少ししかなくても仕方ありません。私のほうこそ、ご無理を言ってしまい申し訳ありません」


 頭を下げるとフィリルさんはアワアワした。


「リディア様! やめてください! 心臓に悪いです!」


 フィリルさんの焦りっぷりが可愛くて思わず笑うと、フィリルさんもホッとしたように笑った。


「これ何?」


 イルが興味津々で手に取った。


「果物? 食べるの?」

「だ、駄目! 食べちゃ駄目!!」


 慌ててイルから取り上げると、イルは驚いた顔をした。大きな瞳がさらに大きく。キラキラした瞳が良く見えるわ、とか呑気なことを考える。


「あ、ごめんなさい。これ、人間は食べられないの」

「そうなんだ……」


 叱られた仔犬のようにシュンとしている……、何だこの可愛いの。

 思わずイルの頭を両手でそっと掴み髪をワシャワシャと撫でた。


「!?」


 イルは驚いた顔をした。


「あ、ごめん、あまりにも可愛かったものだから」

「か、可愛い!?」

「うん」

「僕、男……」

「そうなんだけど……、だって可愛いんだもの!」


 ワシャワシャし続けていたらマニカに止められた。


「お嬢様、イルグスト殿下も男性です。可愛いと言われて嬉しくはないのでは……」


 小声でマニカに言われ、確かにそうかも? と思い、ワシャワシャしていた手をそーっと離した。


 イルは俯いたまま、頭はボサボサ……、まずい!


「ご、ごめん!」


 慌ててボサボサになった髪を整えようと手を伸ばした。

 すると突然両手首を掴まれ、イルは顔を上げた。前髪の合間から金色の瞳が煌めいた。


「あんまり触らないで。僕も男だよ? そんなに触ってくるなら何されても文句言えないよ?」

「!?」


 誰だこれは!!!! 両手の間から顔を間近に近付けられ囁かれた。乱れた髪が何だか色気を醸し出している!!


 私だけでなく、マニカやオルガも驚きの顔。フィリルさんは何だか顔を赤らめキャーって言ってるし。


「イ、イル……?」


 明らかにキャラが違う! それともこれが本性!? どっち!?


「だってリディがむやみに触るから。僕も男なのに」


 ぷくっとふくれた顔でイルはパッと手を離した。

 な、何だったんだろうか、今のは……。ま、まあいいか。


「う、うん。ごめんね。もうしないから」


 オルガが急にイルとの間に割って入った。イルはキョトンとした顔でいつもの可愛い顔だ。


「お嬢! 早く魔獣研究所行こう!」

「え、あ、うん。そうだね」


 何だか良く分からないまま、フィリルさんにお礼を言って魔獣研究所に向かった。


 オルガはずっとイルを警戒し、私との間を歩いている。マニカも少し警戒顔。


 当のイルはというと魔獣に会えるとウキウキ顔。

 うーん、分からない。ま、いいや。


 魔獣研究所に着くとレニードさんに挨拶に行った。

 自由にゼロに会いに行って良いとは言われたけど、今日はイルも一緒だしね。


「イルはフィンとどう?」

「ん、少しは仲良くなれてきたかなぁ……」


 少し自信はなさげ。


 魔獣研究所の扉を開け中を覗くと、ちょうどレニードさんが魔獣の檻に行くところに出くわした。


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