第四十六話 相棒!?
イルと一緒に魔獣研究所へと行くと、ちょうどゼロとフィンが外に出ていた。
「あぁ、リディア様!」
魔獣のしつけ? らしきことをしていたレニードさんがこちらに気付き駆け寄って来た。
「昨日はありがとうございました!」
言おうとしていた言葉をレニードさんに先に言われてしまった。
「いえ、とんでもない、私の方こそありがとうございました。今日は何をされているのですか?」
「今日はフィンにここでの暮らしになれてもらおうかと……」
そうレニードさんが話していると、ゼロがこちらに向かって飛んで来た。
そのゼロの姿を目にし、負けるか! とばかりにフィンも飛んで来る。
二体の大きな魔獣が飛んで来るものだから、凄い風圧で砂埃が舞い、髪やスカートが舞い、必死にそれらを押さえる。
『リディア』
「ゼロ、昨日はありがとう、お疲れ様。疲れてない?」
『私は全くだ。リディアは大丈夫だったか?』
「アハハ、私はちょっと? いや、だいぶと? 疲れてた」
笑いながら言った。
『リディア!!』
ゼロと話しているとフィンも入って来る。ニョキッと顔を付き出し、話に入れろ、とすり寄って来た。
案の定ゼロの嫌そうな顔。いや、表情は分からないんだけどね。何でか物凄く嫌そうなのよ。
それが分かるから笑いそうになるが我慢。
「フィンも昨日は大丈夫だった?」
『俺はなんてことはない!』
フフン、と鼻を鳴らしたかのように自慢気に言うフィン。
この子も面白いなぁ、と感心していると、横ではイルが目を輝かせていた。
「イル、ゼロとフィンに触ってみる?」
そう言うとイルは大きな目をさらに見開き輝かせる。そして言葉を発するのを忘れるほど興奮したのか、何度も勢い良く首を上下にし頷いた。
背は高いのに、そういう仕草が子供のようで可愛いのよね。顔も可愛いからなおさらだ。
「ゼロ、フィン、良い?」
『私は良いぞ』
『俺も!』
イルはまずはゼロに触った。満面の笑みだ。可愛いなぁ。余程魔獣が好きなんだなぁ。
ゼロもまんざらでもない顔。
『俺も触って良いぞ!』
フィンはイルがゼロを触る手に頭をグイグイ押し付けている。
ハハハ、おかげでゼロの顔が歪んで物凄く迷惑顔。
「イル、フィンも触ってって」
イルはキラキラした表情のまま、フィンも触る。解放されたゼロは溜め息を吐きながらこちらへ寄って来た。
「フフ、ゼロ、フィンと仲良く出来そう?」
『無理だ』
「だと思った」
苦笑した。お互いの性格上まず仲良くは出来なさそうだな、と思ったよ。
「まあ喧嘩だけはしないでね」
『善処する。が、気は合わない』
「アハハ」
「リディア様、こちらを」
「?」
レニードさんが掌に乗るものを差し出した。
「これは?」
「ゼロを呼ぶための呼び笛です」
「呼び笛?」
「えぇ、ゼロに音を覚えてもらえば、離れた場所からでもゼロを呼べます。特殊な音で小さな音量ですが魔獣の聴力ならかなり遠くまで聞こえると思います」
「へぇぇ!! 凄いですね! ……ん?」
それって? 外でゼロに乗る前提の話?
「この笛はリディア様のためのものです、どうぞ」
「え、ちょっと待ってください。それを使うには城や街の外ですよね? 外でゼロに乗って良いんですか!?」
レニードさんはニコリと笑った。
「陛下に許可をいただいて来ました。ゼロはリディア様の相棒です。リディア様は自由にゼロに乗る権利がある。それに他の魔獣に襲われてもゼロが守れると証明もされましたし」
「え、それじゃあ……、自由にゼロに乗っても良いんですか!?」
「えぇ」
「!!」
ゼロの方に振り返った。
『だそうだ』
ゼロは当然だとばかりに言い切る。イルとフィンは相変わらずじゃれあっていたが、おもむろにこちらを向いた。
ゼロの首に抱き付き喜んだ。
「レニードさん、ありがとうございます!! 嬉しい!!」
これから自由にゼロに乗れる! 大空を飛べる!
「ゼロの檻にもう鍵は付いていません。どうぞご自由にいらしてください」
「!! ありがとうございます!!」
「笛はゼロと一緒に練習してくださいね。首から下げられるようにしてありますので」
「分かりました!」
呼び笛は細長い笛で、カナデの記憶と照らし合わせると犬笛みたい?
首から下げられるように銀色のチェーンが付いてある。
「じゃあまた色々練習しないとね!」
ゼロに向かって言った。
『あぁ、楽しみだ』
ゼロの声もウキウキしたように聞こえ嬉しかった。
「リディ、ゼロに乗るの?」
イルがフィンに触りながら聞いて来る。
「うん、ゼロは私の相棒だから今後自由に乗っても良いって許可をいただいたの」
「い、良いなぁ」
「イルもフィンに乗る練習をしてみる?」
「良いの!?」
フィンを撫でながら物凄く嬉しそうな顔だ。
「レニードさん、イルグスト殿下がフィンに乗ることは可能ですか?」
「イルグスト殿下がフィンに……。フィンはまだ騎乗練習を行っていないので、まず人間に慣れるために毎日会いに来てくださるならば……」
「来る!!」
おぉ、イルが大きな声で返事をした。
「イルグスト殿下はフィンと仲良くなれそうですね」
レニードさんはこれまた嬉しそうな顔をした。
「ではまた笛の練習を兼ねて騎乗しに来ますね」
「えぇ」
レニードさんの表情は嬉しさが滲み出ていた。イルと同様に分かりやすいくらい魔獣が好きなんだなぁ。
「ゼロ、また来るね」
『あぁ』
ゼロは顔を擦り寄せて来たかと思うと、頬を少し舐め、耳元で囁いた。
『楽しみにしている』
耳元で囁かれゾクリとし、すぐ横にあるゼロの顔を両手で押さえ、目を合わせた。
「もう! ゼロ!」
少し怒った顔をすると、ゼロは笑った。
『ハハ、楽しみなのは本当だからな』
「フフ、うん、分かってる、私も楽しみだよ」
「フィン、フィンはイルのことよろしくね!」
『ん? こいつか? こいつを乗せるのか?』
「そうだよ。イルって言うの。魔獣が大好きな子だから、きっとフィンと上手くやれるよ!」
『俺は誰とでも上手くやれるぞ!』
「うん、お願いね!」
そう言って魔獣研究所を後にした。イルにはそのまま魔獣研究所に残っても良いと伝えたが、迷った挙げ句、私に付いて来た。
部屋に戻るために歩いていると、ふと思う。
これからゼロに会いに行くのが増えそうだなぁ、なら魔獣研究所が遠いのは時間がもったいないなぁ。
「ルーに馬の乗り方教わる約束してたよねぇ」
「お嬢様?」
ボソッと呟いた言葉にマニカが反応した。イルもオルガもどうしたのか、という顔だ。
「あ、ごめん、以前ルーが馬の乗り方を教えてくれるって言ってたな、と思って。魔獣研究所へこれから行く機会増えそうだし、馬に乗れたほうが早そうだな、と」
マニカは呆れ顔。令嬢らしからぬ方向へどんどん進んでいるものね。ごめん。
「ルーに聞いてみようかな」
オルガにルーの私室を案内してもらい向かう。何故だかイルまで付いて来るけど。
ルーの私室までは少し距離があった。もうすぐ着く、あの角を曲がったところだ、とオルガに教わり、廊下の角を曲がると、正面からルーが歩いて来ていた。
「ん? リディ? 何してるんだ? こんなところで」
「あ、ルー、会えて良かった!」
「?」
「ルーにお願いがあって」
「? お願い? ……、何でイルグストと一緒にいるんだ?」
お願いの話をしようかとした時、背後のイルに目をやり聞いて来た。
「たまたま会って。陛下にもお願いされてたから」
「あー、そういえばそうだったな」
ルーは苦笑した。
「お願いって何だ?」
「うん、以前ルーが馬の乗り方を教えてくれるって言ってたでしょ? それ、教えてもらえないかな、と」
「あー、それな、良いぞ……」
「馬の乗り方なら私が教えよう」
「!?」
ルーが最後まで言い切るのを待たずに聞こえて来た返事は背後から聞こえた。
ルーの顔がひきつっている。
後ろを振り向くと、そこにいたのはシェスレイト殿下だった……。




