第四十四話 閑話!?なの!?
シェスレイト殿下が帰った後、部屋では一人悶絶! ……、したいところだけど、マニカとオルガがいるし、ぐっと我慢。
あれ何!? 頭ポンて!! 何も言わないと思ったら頭ポンて!!
他の人にもされたことはあるけど、まさかシェスレイト殿下にされるとは!
しかも何だか色っぽい目だったし!
ぎゃぁあ! と叫び出しそうなのを我慢したつもりが、どうやらかなり変な顔をしていたらしい。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「え、あ、うん、大丈夫」
アハハ、と笑って見せたが、マニカはかなり不審な顔。
「本当に何でもないよ。ただ……、シェスレイト殿下に頭を撫でられたのがびっくりしただけ」
自分の口から言うのは恥ずかしい! 顔が火照るのが分かる!
「まあ! なるほど、フフ」
マニカはクスクス笑う。オルガは何だか不機嫌そうだけど。
「そんなに笑わないでよ~。シェスレイト殿下があんなことする人だと思ってなかったから……」
マニカがあまりに笑うものだから、ムッとしながらも、何だか自分でも可笑しくなってきて一緒になって笑った。
「あー、今日は疲れた……」
「もう今日は早めにお休みになられたほうが良いでしょうね」
「うん、…………、でもその前に……」
「?」
「お父様に説明に行かないと……」
疲れが一気に噴き出したかのごとく、物凄い脱力感が……。あぁ、嫌だ。
「し、仕方ないですよね」
マニカも苦笑した。お父様に前もって説明しなかったのだから仕方ない。でも! きっとお父様に前もって説明しに行けば、絶対反対されただろうし!
今日はこのままゆったりまったりと過ごしたかったのに仕方がない! 気合いを入れて準備をした。
お風呂に入り疲れを取り、騎士団制服からワンピースに着替える。
その間にオルガにお父様へ訪問の連絡をしてもらい、いざお父様の私室へ。
普段、ルーゼンベルグの屋敷に帰れないことが多いお父様は、王宮の中に私室を用意してもらっている。
なので、普段はほぼその私室で寝泊まりをしているようだ。
険しい表情のお父様に出迎えられ、長々とお説教を受けたことは言わずもがなだろう。
何故最初から言わなかったのか、どういった経緯で今回のことに至ったのか、くどくど説教されながら説明をするはめに。
ひとしきり話し終え、グッタリとしながら部屋を後にしようとしたとき、お父様が最後に声を掛けて来た。
「しかしよくやった。陛下も喜んでおられた。しかし今回のような危険な真似はやめなさい」
「はい」
そうしておやすみなさいと挨拶を交わし、部屋を後にした。
「はぁぁあ、疲れた。長かった……」
「お疲れ様です。部屋に戻ったらすぐにお休みください」
マニカは部屋へ帰るなり、夕食の準備をしてくれ、しっかりと食べるとお腹も満たされ、一気に眠気がやって来た。
その日は思っていた以上に疲れていたらしく、泥のように眠った。
次の日からは再び容赦なく王妃教育。
「少しくらい休んでは駄目かしら……」
「残念ながら休めません」
「だよね……」
容赦ないマニカにがっくりする。
朝食を終え、講義を受けに部屋を移動する。
歩いているとオルガが近付いて来た。
「オルガ? どうかした?」
「うーん、よく分からないんだけど、誰かに見られているような……」
「誰かに?」
歩きなから周りを少し見渡してみても誰もいない。
「うーん、気のせいかなぁ」
よく分からないが、とりあえず講師を待たせてはいけない、走りたいところだが、足早に急ぐ。
魔獣に騎乗した姿を見せている時点で、おしとやかさがないことは、もうバレている気はするが……。
講義が終わると挨拶周りに薬物研究所と騎士団控えの間、そして魔獣研究所に行くことにした。
「やっぱり誰かに見られているような気がする」
オルガが周りを警戒しながら言う。
「何だろうなぁ……、見られている気がするのに近付いて来るでもないし……」
「うーん、騎乗のせいかなぁ」
魔獣に騎乗したせいで、ある意味有名人になってしまっただろう。それでなくともシェスレイト殿下の婚約者という立場で、ある程度は顔が知れ渡っている。
そこへ今回の騎獣騒ぎだ。嫌でも多くの人々が耳にし、目にしただろう。
そのせいで興味本位に見られているのかもしれない。
「まあ何かされる訳でもないし良いじゃない」
向こうから何かしてこないなら放置で良いや。めんどくさいし……。
薬物研究所へ着くとフィリルさんにセイネアの花の件でお礼を言った。
「リディア様、凄かったです! 感動しました!」
フィリルさんは興奮気味に騎獣を褒めてくれた。自分も乗ってみたい! と目を輝かせている。
「フフ、ありがとうございます。皆が普通に魔獣に騎乗出来るようになれば良いですよね」
そうなれば私も嬉しい、とフィリルさんと手を取り合った。他の研究員の人たちも皆口々に凄かったと話してくれた。
しばらく話に盛り上がってから、今度は騎士団控えの間に向かう。
ちょうど休憩中の騎士の人たちがいる。
どうやら遅い昼食のようだ。
「リディア様!!」
気付いた騎士の一人が声を上げると一斉に皆がこちらを見た。
「お食事中失礼します。皆さん昨日はありがとうございました」
「リディア様! 昨日はお疲れ様でした! 凄かったです! 騎獣が実現して本当に嬉しいです!」
薬物研究所と同様に皆口々に凄かったと話してくれる。
「ラニールさんいますか?」
「えぇ! どうぞどうぞ!」
背中を押されるように厨房まで促される。
皆にお礼を言いながら、厨房にも顔を出してみるが、今は忙しいかしら。
厨房への出入口でこっそりと覗いて見た。
中ではラニールさんは忙しそうに料理を作っていた。美味しそうな匂いが厨房中に漂っている。
「美味しそう……」
「お嬢様」
マニカに呆れながら注意される。もう令嬢らしからぬ、は諦めてくれないかな。まあ駄目よね。自分で苦笑した。
「ラニールさん!!」
出入口で覗き見しているだけの姿に気を遣ってくれ、騎士の人が大声でラニールさんを呼んだ。
「あ? 何だ!?」
おぉ、初めて会ったときの顔と態度を思い出す鋭さだわ。
ギロッとこちらを見たラニールさんは私たちの姿を目にすると、ハッとした表情になり気まずそうな顔になった。
「こんにちは、ラニールさん」
「あ、あぁ」
「昨日はありがとうございました!」
「いや、俺は何もしていないしな」
「そんなことありません! 側で見ていてもらえるととても落ち着けたんです」
これは本当だ。普段から仲良くしてくれている人が側にいてくれるのは、やはり心強いものだ。
「そ、そうか。なら良かった」
「えぇ」
ニコリと微笑むとラニールさんも少し笑った。
しかし周りの人たちがニヤニヤとし出したため、ラニールさんは鋭い眼光に戻り怒鳴る。
「お前ら、食べ終わったなら出て行け!!」
出入口の辺りで人集りになり厨房の中を覗いていた騎士たちは、蜘蛛の子を散らすように慌てて食事に戻り、口に残りの食事を掻き込んだ。
喉に詰まらせ慌てて水を飲む者。胸を叩きながら飲み込む者。慌てふためき、バタバタとしながら騎士たちは、あっという間に食事を終え、片付けを済ませ去って行った。
そこにいた全員が去る前に声を掛けて行ってくれた。
「あ~、私もラニールさんのお料理また食べたかったな……」
ボソッと呟いた言葉にラニールさんが反応した。
「食べて行くか?」
「え! 良いんですか!?」
「お嬢様、今日はまだ魔獣研究所にも行かれるのでは?」
「あ、そうだった……。食べたかった……!!」
せっかくのチャンス! 食べたかったよ……。思い切り悔しがっていたらラニールさんが盛大に笑った。
「アッハッハ!! 本当におかしな奴だな! いつでも食べさせてやるから、また来い」
ラニールさんはそう言うと頭をガシガシと撫でた。
ラニールさんに初めて撫でられたときも驚きや恥ずかしさはなかったよね。
やっぱりシェスレイト殿下は他人の頭を撫でるイメージがないからかしら。
うん、多分そうだよね。普段イメージにないことをされたから驚いただけ! だよね?
「ありがとうございます! 絶対また食べに来ます!」
「それも来て良いんだが、お菓子作りが優先だろう?」
「あ! そうですよね!」
忘れていた訳ではないが、完全に料理に夢中になっていた。
「おいおい」
ラニールさんすら苦笑させてしまった。二人で目を見合せると、何だか可笑しくなって二人で笑った。
「では、お菓子の件もお料理でもまた来ます!」
言い直してみた。自信満々に言い切ったらまた笑われた。
「ハハ、あぁ、また来い」
「はい!」
そう言い厨房の料理人たちにも挨拶をし、控えの間を後にした。
「さて、後は魔獣研究所! ……遠いなぁ。ゼロが迎えに来てくれたら良いのに」
笑いながら歩いていると、背後から声がした。
「お嬢!!」
咄嗟にオルガが私を庇う。
「あの……」
振り向くとそこにはイルグスト殿下がいた。
今回まったりとした時間でしたが、これから徐々にですが終盤へ向かって行く予定です!
後、半年くらいしかいられないリディアであるカナデ。
お菓子作りはどうなるのか。
無事に元の世界に帰ることが出来るのか。
恋をしてしまうのか。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです!




