第四十話 新たな魔獣と!?
ゼロは速度を緩めることなく飛び続け、すでに城に入り皆の待つ広場近くまで到達していた。
どのみち逃げ切ることは出来なかったようだ。
皆の前で魔獣を倒す、という目的は図らずも現実となった。
皆がゼロの姿に歓喜したかと思うと、後ろから迫り来る魔獣に驚愕した。
ゼロは広場に着く直前に身体を翻す。
その行動に皆はなおさら驚く。騎士団は慌てつつも、戦闘準備が窺える。
『リディア、絶対に手綱を離すな!』
「うん!」
ゼロは大きく口を開いた。背中側から見ても分かるくらい、鋭い牙が見える。ゼロの喉元が熱を帯び始める。
真正面から向かい来る魔獣。近付いて来ると姿がハッキリとした。
やはりグリフィンのような魔獣だ。その魔獣は咆哮を上げ迫って来る。
間近に迫る魔獣の爪が届きそうだ、というときに、ゼロは口から激しい炎を吐き出した。
真正面から炎を浴びた魔獣は苦しみ悶え、地面まで急降下した。
その勢いと共に炎は消し飛び、身体を地面に擦り付け炎の気配を全て取り除いていた。
ゼロは間髪入れずに魔獣を追い、地面へ急降下した。
広場にいた皆は急に姿の見えなくなったことに慌てているのだろうな、と呑気なことを考えながら、必死に手綱を掴み、ゼロから振り落とされないように、ゼロの邪魔にならないように必死だった。
ゼロは地面で身体を擦り付けている魔獣に向かって、身体ごとのし掛かり鋭い爪で押さえ付けた。
そのまま魔獣に向かって再び口を開く。
「待って!」
ゼロに向かって叫んだ。
『何だ!?』
「ごめん、ゼロ、魔獣と話せない?」
『!?』
魔獣はゼロに押さえ込まれながらも、逃げ出そうとジタバタ動いている。
ゼロが離してしまえば、一気にまた襲って来るのだろう。
でも……、出来れば殺したくはない。魔獣といえど殺されるところなんて見たくない……。
ゼロを危険にさらし、こちらの命に関わることなのに、そう思うのは偽善かもしれない。
でも……、話し合えないだろうか。ゼロのように理解し合えるかもしれない。
『あまり近付くな』
仕方ないな、とばかりの溜め息を吐いたゼロは喉元の熱いものを鎮めた。
「うん、ごめんね、ありがとう」
ゼロの首に抱き付き、そしてゼロから降りた。
その魔獣の前まで行き、眼を見詰める。
「ねぇ、あなたは何故襲って来たの?」
しかし暴れる魔獣は唸り声を上げるだけで、こちらの話していることが分かっているのか、いないのか。
「うーん、どうしたら良いかな?」
ゼロに振り返ったがゼロも困惑している。ゼロも聞かれたところで分からないよね。
『名を付けてみたらどうだ?』
「なるほど、名前ね! ん? でも、確か名を与えた人と、お互いが認め合っていて、相性が良くないといけないのよね?」
『まあそうだな』
「えぇ!? ゼロ適当……」
『ハハハ』
「うーん……」
魔獣に近付いた。
『リディア!』
「ごめん、ちょっとだけ」
ゼロは暴れる魔獣をさらに強く押さえ付けた。
押さえ込まれ威嚇する魔獣の頭をガシッと掴む。
『リディア!? 危ないぞ!』
ゼロが驚いている。
魔獣の頭を力一杯押さえ、グググッとこちらに向けた。
「うぅぅん、こっち向いてー!!」
必死に抵抗する魔獣の顔を無理矢理こちらに向けさせ押さえ込む。中々の力業!
「こっち向きなさーい!!」
ボキッと音がしそうな勢いで顔がこちらに向いた。
魔獣は目が点……、な訳はないのだが、何だかそんな表情に見える。
「フッ、あなた可愛い顔してるじゃない」
魔獣はひたすら睨み唸っている。
グリフィンのようだが魔獣には詳しくないから分からない。鷲のような顔が格好いいのだが、驚いたような表情に見えるので、何だか可愛いく見える。
何だか可笑しくてクスクス笑うとゼロが不思議がった。
『リディア?』
「あぁ、ごめん、何でもない」
魔獣の頭をガシッと押さえ付けたまま、眼を見詰めた。ひたすらじっと見詰めた。
そうしている内に段々と魔獣の強張りがなくなってきた気がする。ジタバタとした動きがなくなり、ゼロも押さえる力を弱めたようだ。
「ねぇ、あなたこのまま私たちを襲うとゼロに殺されちゃうよ? 逃げても人間に見付かったら殺されちゃうし……」
魔獣はじっと私の目を見ていた。
「…………、ということで!! あなたお城で騎獣になりませんか!?」
『はぁ!?』
ゼロのほうが反応した。
『何故それを騎獣に誘うのだ!?』
「えー、だって殺したくはないし、殺されたくもないし……、騎獣が増えたら喜ばれそうだし」
『…………、リディアの騎獣は私だけだからな…………』
「当たり前じゃない! 私はゼロの相棒でしょ?」
『なら良い』
ゼロが少し拗ねた? 中々見たことのない雰囲気のゼロが可愛く見えた。
「フフ、ありがとう、ゼロ」
魔獣に向き直り、
「という訳で! あなたに名前を付けます! 受け入れて!」
顔を押さえていた手でそっと撫でた。
魔獣はじっと見詰める。
「あなたの名前は……、名前……、うーん」
しばらく考え込み出てきた名前が……
「フィン! グリフィンに似てるからフィン!!」
『安直だな……』
ゼロに突っ込まれるとは……。
「良いじゃない! 分かりやすくて!」
ゼロに振り返っていると、おもむろにフィンが起き上がった。
もう暴れる仕草は見せなかったので、ゼロもそのまま押さえ込んでいた身体を離す。
『俺の名か! フィン! 悪くない! お前、中々良いセンスだ! 認めてやろう!』
中々に俺様魔獣だった……。
ゼロが物凄く嫌そうな顔をしている、ような気がする。
「フィンよろしく。で、どうする?」
『何だ!?』
「え、いや、だからお城で騎獣になるかどうか」
『なっても良いぞ! 俺を乗りこなせる奴がいるならな!』
「あー、うん、そうだね」
大丈夫かな……、少し心配になった。
「あ、とりあえず早く帰らないと、きっとみんな心配してるはず!」
『あ、あぁ、そうだな。帰ろう』
ゼロは私を乗せるために背を低くした。
『俺に乗るか!?』
フィンが意気揚々に言ってくる。
『リディアは私が乗せる』
おぉ、珍しくゼロが怒っている……、初めて見たよ。言葉から静かな怒りが……。
「あー、フィン、ありがとう。でも私はゼロに乗るからフィンは後ろから付いて来てね」
フィンの頭を撫でた。
『ふーん、……、まあ良いか。分かった!』
俺様フィンと紳士のゼロ……、うーん、大丈夫かな。
騎獣に誘ったのよくなかったかしら、と少し不安になりながらもゼロの背に乗り皆の待つ広場まで急いだ。
ゼロはフィンを待つことなく急上昇し、広場まで飛ぶ。
しかしフィンも負けていない。さすがゼロが逃げ切れない程追って来ただけはある。
全く離されることなく付いて来る。
「広場が見えた!」
広場では皆が騒いでいた。
騎士団は武装をし、出発しようというところだった。
「リディア様!!」
レニードさんの叫び声が聞こえ、一斉に皆がこちらに向いた。
そしてフィンの姿を目にした、騎士団から「攻撃準備!」という声が聞こえる。
まずい!!
「待って!! 攻撃しないで!!」
力の限り叫んだ。
皆、驚いて凝視している。うん、令嬢の叫び声、中々ないよね。そこは出来れば驚かないでいただけたら。
「後ろの子は大丈夫です!! お友達になりました!! だから攻撃しないで!!」
皆、唖然としている。うん、混乱中ですね。ごめんなさい。
ゼロは攻撃されないことを確認し、ゆっくりと広場に降り立った。それに続きフィンもゆっくり降りてくる。




