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異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました【完結】  作者: きゆり
本編 リディア編

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第十二話 料理講座!?

 ラニールさんは野菜を取り出し細かく刻み始めた。何の野菜だろう、様々な色とりどりの野菜だ。

 野菜を刻み終えるとミンチ肉のようなものと炒め始める。


「それはお肉ですか?」

「これか? 肉ではない。肉のような食感のナナンという野菜だ。乾燥させてから水で戻すと肉のような食感になる」

「へぇ、そんなのがあるんですね! 知らなかったです!」


 意外にもラニールさんは質問すれば大体何でも丁寧に答えてくれた。やっぱり見た目は怖そうだけど、良い人なんだろう。

 キース団長は何だかニヤニヤしそうな顔を我慢しているような、物凄い微妙な顔付きだけど……。


 そんなことに気付いていないラニールさんは細かく説明をしながら調理してくれている。


 炒めたナナンと野菜に味付けをし、さらに炒める。

 とても良い香りがして来た。この世界ではハーブは料理に使わないらしいが、入れたものは何だろう。見た目は赤いからケチャップのようだ。でも香りはケチャップではない。

 不思議な感じがする。


 少し顔を近付け覗き込んでいると危ないから離れろと叱られた。


「ん」

「?」


 叱られ顔を離すと、炒めたそれをスプーンに一口分乗せたものを差し出された。


「味見だ」

「え、良いんですか!?」


 やった! ウキウキしながらパクリとスプーンにかぶりついた。

 かぶりついた瞬間、しまった! と思ったが、時すでに遅し……。


 ラニールさんは真っ赤な顔をしているし、マニカとオルガは叫ぶし、キース団長は驚愕の表情だし……。


 やってしまった……、令嬢が人の差し出したスプーンから直接食べるなんてはしたないし、ありえないし、とんでもないことよね……。

 するなら恋人同士よね……、いや、今はそれは関係ない……。自分でも分かっているから、お願いだから見なかったことに……、無理よね。


 しかしやってしまったことはもうどうしようもなく、せっかくの料理の味が分からなくなるじゃない!

 何事もなかったかのように、口元を手で隠し、もぐもぐもぐもぐ……


「あ、ちょっと辛みがあるんですね! 美味しい!」


 さあ、何もなかったわよ! 私は味見をしただけ! ただ食べただけ! 味の感想よ!


「え、あ、あぁ、ここの奴らは辛いものが好きなんでな」


 ラニールさんは呆然としていたけど、急に味の感想を言われ意識がそっちに行ったわね! よし!

 マニカは後ろで頭を抱えているけど、この際それは無視するわね! そこはもう気にせず突っ走るしかないのよ!


「これでこの料理は完成ですか?」

「いや、これをパイ生地で包んで焼く」

「!!」


 ミートパイね! ……ん? ミートではないのか。ナナンパイ? まあそこはどうでも良いか。


 ラニールさんは先程の「あーん事件」を忘れたかのように、パイ生地に先程の炒めたものを包み始めた。

 キース団長は苦笑している。もう触れないでください。


 パイ生地に包み終わるととても大きなオーブンにそれを入れた。

 焼きあがっていくところが見えないのが残念。


 しばらくすると焼き上がったのか、ラニールさんがオーブンを開けた。

 とても香ばしい香りが漂い美味しそうな匂いが厨房に充満した。


「出来たぞ、持って行ってやるから控えの間で待て」


 そう言われ、素直に控えの間へと移動した。厨房との出入口には騎士たちが大勢覗き込んでいたため、慌てて押し合いへし合い散らばって行った。


 キース団長に一つのテーブルへとエスコートされ、その席に座ると、後からラニールさんがパイを持って来てくれた。


 目の前で切り分けてくれ、ザクッと良い音と共に中から湯気と良い匂いが漂って来る。

 美味しそう!!


 ラニールさんは皿に取り分け、私の前に置いた。


「ありがとうございます! いただきますね」


 出来たてのパイは熱々でサクサク香ばしい! 中のナナン炒めも少しピリ辛で食欲をそそるし、ナナンの香りかしら、少し癖のある香りが鼻から抜ける。


 騎士たち男性が食べても食べ応えあるわね!


「美味しい~!!」


 貴族令嬢が食べるものではないのか、周りにいる人たちは皆唖然としている。


「は! お貴族様がこんな庶民の味なんか好まんだろうと思ったが……、旨そうに食べるじゃないか」


 ラニールさんが声を上げて笑った。


「だって、本当に美味しいんですもの! マニカとオルガも食べてみて!」


 そう思い顔上げると、キース団長含め騎士たち皆が驚愕の表情だった。


「?」


 ど、どうしたのかしら……、何か変なこと言ったかな。

 恐る恐るキース団長に声を掛けた。


「あ、あの、どうかしましたか?」


 キース団長は声を掛けられ、ハッとしたようにこちらを見た。


「あ、いえ、あの……あまりに驚いて……」

「?」

「ラニールが声を上げて笑うことろなんて見たことがなく……」


 え、そっち!? 良かった、私のことじゃなかった! と喜んだけど、ラニールさんは自分のことを言われ、顔を真っ赤にした。


「な、何だ! 何か文句あるのか! 俺だって笑うことくらいある!」


 顔を赤くしながら睨み付け怒るラニールさんはもう怖がられる対象ではなくなり、明らかにからかわれている。ハハ、私のせいかしら、ごめんなさい。


 キース団長はニヤッとしながら、ラニールさんの肩をバシバシ叩いた。


「まあまあ、そう怒るな。良いじゃないか、お前が笑えるようになって俺も嬉しいよ」


 ラニールさんはキース団長を思い切り睨んでいるけど、もう周りの騎士たちですら、生暖かい目で見てるよ……。


「と、とにかくマニカとオルガも食べてみてよ」


 何だか申し訳ない気持ちになり……、逃げました。ごめんなさい。


 マニカとオルガも向かいに座り一緒に食べた。本来なら主と共に席に着くのも、共に食べるのもありえないのだが、ここはね、ほら私、カナデも入っているし、周りの人たちは驚いているけど気にしない!


 マニカも普段なら、とんでもない! とか言われそうだけど、今のこの空気が居たたまれないのか、大人しく従った。オルガはね、うん、言わずもがなだろう。


「まあ、本当ですね! とても美味しいです!」

「本当だー! 凄く美味しいし、余計お腹空いちゃう」


 一口食べただけでは足らない! と、不満そうなオルガ。


「フフ、本当にね、まだまだ食べたくなるよね」


 ずっとからかわれているラニールさんが気の毒になり声を掛けた。


「また食べに来ても良いですか?」

「え、あ、あぁ、俺は構わないが」

「あ!!」


 ラニールさんはビクッとした。

 料理を堪能してる場合じゃなかった! あまりに楽しいし美味しいからすっかり忘れてたよ!


「な、何だ!?」

「すいません! 厨房ってお借りすることは出来ませんか?」

「厨房を!? 何で!?」

「あの……、お菓子を作りたくて……」

「お菓子!?」

「はい」


 また周りの人たち全員に驚いた顔されてるし。


「ダメですか?」


 やっぱりダメかなぁ。そもそも貴族の令嬢が騎士団の厨房で調理するってね……、自分で苦笑した。


 ラニールさんはたじろぎ、キース団長はまたニヤッとラニールさんを見てるし……。


「まあ、忙しい時間帯を外してなら……」

「良いんですか!?」


 まさか了承してもらえるとは思わなかった。また思わずラニールさんの手を取ろうとしてしまい、何とか我慢して踏み留まった。よし! 頑張った、私!

 マニカは苦笑してるけど。


「今日はさすがに無理だがな。もうそろそろ晩の準備に入る」

「あぁ、そうですよね……でしたら……」


 せっかくいただいたコランのハーブが傷まないうちに……。


「明日は予定があるので、明後日のお昼過ぎに伺ってもよろしいですか?」

「あ、あぁ、分かった」

「ありがとうございます!」


 ラニールさんの手を掴んだ……、あ! あぁ……、せっかくさっき耐えたのに!

 本当すいません、と、そーっと何もなかったかのように手を離した。が、やはり何もなかったかのようにはならなかったよね。残念。


 チラッとラニールさんを見ると顔を背けていた。

 周りの反応はね、もう分かる! だから見ない!


「それでは色々と急に失礼致しました」


 そう言うと丁寧にお辞儀をし、そそくさと控えの間から出た。

 皆が唖然としてるのが分かるよ。

 マニカとオルガがキース団長、ラニールさん、騎士団の人たちに挨拶をし、慌てて追って来た。


 私たちが出た後、控えの間から歓声のような騎士たちの大きな声が響いた。


「あぁ、何だかまた色々やらかしちゃったかな?」


 深い溜め息を吐きながらマニカに聞いたが、マニカはもう諦め顔。


「もう何があっても驚きません」


 苦笑しながらマニカは言った。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  女性の心を掴むために手料理を振る舞った事がありますが、その女性の反応に、僕がやられてしまった事があります。  ラニールさん、お前は俺か⁉︎
[良い点] 料理回良かったです。 こういう風に入れる閑話は気楽に読めていいですよね。 というか料理描写読んでたら、お腹が空いてきました(笑)
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