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先生と私  作者: 綿花音和
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動かない星Ⅰ

 バスに乗って街へ出ていく。健一さんの隣に座れて、ホッとする。肩が触れ合うくらい距離は近い。勇気がないから、それ以上接近するのは難しいどころか、自意識過剰で体を固くしてしまっていた。すると、彼から腕を絡めてくれた。予想外で、触れ合ったところからのぬくもりに顔が熱くなる。車内では、目的地に着いてほしい気持ちと、ずっとこのままでいたいという相反する思いに悩まされた。

 

 お昼は、一緒にお好み焼きを食べた。自分で鉄板で焼くタイプのお店だ。うまくお好み焼きのタネを広げられない私を、健一さんは面白そうに眺めていたが、結局手伝ってくれた。

 些細ささいなやりとりが思い出に変わっていく。毎日、病棟で顔を合わせていた日々はなんと幸せだったろう。


「連れて行きたいところってどこですか?」

「もうすぐわかるよ。幸ちゃんは行ったことがあるかな」

 彼が首を傾げながら、あごに手を持っていく。

 それを横目で見ながら、コンサートの前のチューニングの音を聴くときのように、緊張とわくわくした気分になる。

 

 手をしっかり繋ぎ連れだって歩く。一緒に歩いているだけだったが、こんなに明るい気持ちになるなんて。歩き続け、小さな坂を登ったところに大きな建造物があった。入口の看板を読む。

「科学館?」

 私が、ピンとこない表情で質問をする。

「もったいぶってごめん。君とプラネタリウムに行きたかったんだ」

「私、プラネタリウム初めてなんです。楽しみだな」

「よかった。幸ちゃんと初めての体験を共有できて凄く嬉しいよ」

 整った指先で眼鏡のつるを上げた。その仕草を、私は目に焼き付ける。


 科学館は体験型の展示物がたくさんあり、ちらっと見ただけでも面白そうだった。

「あとで、展示物見てもいいですか?」 

「もちろん。一緒に回ろう」

 健一さんは笑顔だ。プラネタリウムの券売機で、彼は二人分のチケットを購入する。

「自分の分はお金を出します」

 私がさえぎる。

「今日を目標にアルバイトをしてきたんだ。僕に付き合ってもらうんだから、払わせて」

 ここまでの交通費も食事代も、払おうとすると、彼が先に支払ってしまうので申し訳なかった。まして治療中しながら、通っているバイトの給料と聞いた。そんな貴重なお金を使わせられない。私は、強く抗議した。

「健一さん、気持ちは嬉しいです。私もお小遣いを節約して貯めてきたんです。貴方が一生懸命働いたお金を、デート費用に全部充てるなんていけないです」

「ありがとう、幸ちゃん。そんなところが好きだ。だけど、今回は花を持たせてほしい。君が社会に出て、給料を貰うようになったら、割り勘にしよう」

 彼の言葉は私を励ました。好意を遠慮したい気持ちもあったが、社会に出て、彼と向き合いデートできるようになれれば、そんな幸せはないと思えた。

「わかりました。でもバイトができるようになったら必ず割り勘ですからね」

「うん、約束だね」

 健一さんは、小指を差し出した。私たちはしっかり指切りした。 

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