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choice01  作者: 陽芹 孝介
第七章 分解……分離……解放
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歩は息を整え…そして話し出した。

「2年前の9月5日……あの日は久々の休暇でアメリカにいたんだ……昔、世話になった教授に会うため…」

有紀が言った。

「その頃歩は世界の被災地を飛び回っていた」

歩が言った。

「そんな中の久々の休暇で……アメリカに渡った3日目の午前9時5分…」

葵が言った。

「9月5日の午前9時5分…あの悲惨な事件が起こったわけですか……」

歩が言った。

「事態を知った俺は現場に駆けつけた。たまたま現場が近かった事もあったからね……何も考えずただ現場に向かったよ…」

歩は表情を歪めて言った。

「現場は悲惨な状況だった…で火まみれになった人や、瓦礫の下敷きなった人や、子供も沢山いた…」

その光景は現場にいた人間にしかわからないだろう……葵たちは想像する事しかできない。

歩はさらに続けた。

「いつも戦場や災害地にいた俺にとって…あの光景は異常だった……考えてもみな?俺がいつもいたのは、後進国だ……それが先進国……ましてやあんな都会で、まるで戦場の様な状況……俺はあのギャップに呆然としたよ」

歩は吐き捨てるように言った。

「俺は医者だ、全ての人を救いたい……でも……救えないんだっ!俺は心底自分の無力さにヘドが出たよ」

歩の発した自分に対する嫌悪感に、しばらくその場が沈黙する。

……当時……歩は、おそらく想像を絶する葛藤と戦っていたのだろう。

救いたい……でも救えない。切り捨てたくない……でも切り捨てなければならない…。

歩が再び口を開いた。

「あの時の……一人の重症患者がいた……その患者は、気を失う間際に……生きるか死ぬかの瀬戸際に確かに言った」

「『I want to die. (私は死にたい)』と…」

皆に衝撃が走った……救おうとする医師に、救われたくない患者……。

その中葵が言った。

「それが……アマツカですか?……」

歩は言った。

「それは断定できない。ただ……可能性があるとすれば、そうだと思う。重症患者が苦しみのために、楽にしてくれと、言うのはよくある。ただ……今思えば、彼の場合少し違ったかもしれない…」

葵が言った。

「何故そう思ったのですか?」

歩が言った。

「違いは上手く表せないけど……瞳が何かを悟った様な…」

九条が言った。

「ますます謎だな……アマツカとやらは…」

歩が何かを思い出したように言った。

「そう言えば……あの時……」

有紀が言った。

「どうした?歩…」

「後で聞いた話だが……被災者は現地の救命病棟に搬送されたんだ…その患者の中で俺の事を聞いてきた人物がいたらしい……日本人医師は俺だけだったから、すぐに教える事ができたようなんだけど……」

葵が言った。

「その人物は?」

「それが……ある程度回復した後……いなくなったらしい……何故だかわからないが…」

九条が言った。

「その人物の素性は?」

「いや、わからない……アジア系だったのは確かだが、素性までは…」

葵が言った。

「おそらくその人物がアマツカでしょう……これでますます、暗号の答えに信憑性が出てきました」

九条が言った。

「時計台の時刻を9時5分に合わすのか?…」

葵が言った。

「おそらく……試してみましょう。答え合わせは…合っていたようですから…」

有紀が言った。

「時計台には鉄梯子(てつばしご)が付いていたな…」

葵が言った。

「さっそく向かいましょう」

葵がそう言うと皆は、島の中央にある、時計台へと向かった。あらためて時計台を眺めて見ると、何とも言えない迫力がある。

九条が言った。

「高いね……3mはある……この梯子で登るのか?」

葵が言った。

「登りますが……心の準備はいいですか?」

皆の表情は期待と不安が入り交じっている。

悪夢が終わる期待と、悪夢が続くかもしれない不安とが……入り交じっている。

美夢が言った。

「大丈夫……あんたが言ってんだから…」

有紀が言った。

「そうだな……最後まで葵を……信じよう…」

皆は覚悟を決めたのか、黙って頷く。

葵は皆が頷いたのを確認して、梯子に手を掛けた。鉄梯子は葵の手を冷たくする……鉄梯子の冷たさを気にする事なく、登って行く。

3mは葵が思っていた以上に高い……落ちたら大怪我をしそうだ。

時計に近付くにつれ、その全貌が明らかになっていく……時計はかなりの大きさだ。

時計部にまで到着した葵は時計を確認した。

直径が約1m弱ある……時計の迫力に圧倒され、落下しそうになるが……葵は気を確かにグッとこらえる。

時計はガラスなどのケースに覆われることなく、針がむき出しだ。

時計の下部にダイヤルが二つと、ボタンが一つある。

おそらく二つのダイヤルで時刻を合わし、ボタンがスタートだろう。

葵は時刻を合わす前に、今までの事を思い返した。

プログラムの島……皆とのふれあい……そして殺人……。

……アマツカ……目的はなんだ?

葵は呟いた。

「今は考えなくていい……やるか…」

意を決して葵はダイヤルを回す。

短針を9…長針を5に合わせて、ボタンを押した。

するとすぐに変化が起こった。

葵の位置は地上約3mの高さだ、見渡しが良いぶん、すぐに変化に気付いた。

葵は皆に叫んだ。

「皆っ!時計台に捕まってっ!」

皆は葵に言われるまま、時計台にしがみついた。

島の外側から、地面や施設が小さいサイコロ状になり、崩れていってる。

葵はすぐさま梯子を下った。

葵が下につく頃には、島の半分が崩壊していた。

九条が叫んだ。

「葵君っ!これは!?」

葵も叫ぶ。

「わかりませんっ!」

有紀も叫んだ。

「今は信じて身を任すしかないっ!」

有紀の言う通りだった。これは皆で導きだした答だ……信じるしかない。


……その時はすぐにきた……。


体が分離していく……砂で作られた人形が、風で崩れるように…。


……そこで意識は途絶えた……。

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