③
葵はこの島の脱出方法の説明を始めた。
「僕は今まで大きな勘違いをしていました。それは……『AMSの解析』=『島からの脱出』と思っていたのです」
有紀が言った。
「それが勘違いと?」
「ええ……ですから、僕は『AMS』のパスワードは各部屋の暗号を解析する事によって得られると……思ってました。しかし、それは大きな間違いでした」
有紀が言った。
「そういえば……アマツカは『AMS』のパスワードにかんして、『ノーヒント』と言ってたな…」
葵は言った。
「『AMS』は順平君に与えた『力』の事と言えるでしょう……つまり脱出方法とは無関係です」
有紀が言った。
「何故気づいた?」
「美夢がさりげなく言った『裏サイト』というフレーズに、閃きました……順平君は裏サイトを使い、拳銃を入手したのではないかと…」
九条が言った。
「で……ビンゴだったと……」
「ええ……『AMS』の中身はとんでもなかったです。拳銃や刃物等の凶器……そして、世界の死刑囚リスト…」
この説明は美夢が葵から聞いたのと重複していたが、美夢以外の皆は驚いていた。
有紀が言った。
「死刑囚まで……ますます謎なやつだな……アマツカは何故そんなリストを持ってるんだ?」
葵が言った。
「それは僕にもわかりかねますが……脱出に関係ないのは確かです」
九条が言った。
「では……脱出方法は?」
葵が言った。
「脱出と『AMS』を引き離して考えた時……真っ先に思い浮かんだのが……ある数字です」
容子が言った。
「数字?」
「ええ……この島には共通する数字が存在します」
有紀が言った。
「そうか……『12』共通する数字は『12』だ……」
葵は口角を上げて言った。
「そうです……ここに来た人数、部屋の数、方角の示しかた……それぞれ共通するのは数字の『12』です…」
葵は皆に問た。
「では、『12』で連想出来るものはなんでしょう?」
美夢が言った。
「暦と、星座に……干支、色々あるけど、あとは…時間かなぁ…」
有紀が言った。
「たぶん……『時間』ではないのか?」
葵が言った。
「ご名答……さすがは有紀さん……僕もそう思います。おそらく時間を示しています。いや……時間というより『時計』ですかね」
容子が言った。
「そっか……この島の中心って…」
葵が言った。
「そうです……時計台です。そして、ドアの記号と数字は……その時刻を示す暗号でしょう」
葵は暗号をまとめたメモを皆に見せた。
メモにはこのように示されている。
01=↑6-6
02=→6-6
03=↑2-6
04=→2-11
05=↑3-7
06=→2-9
07=↑3-5
08=→4-11
09=↑2-6
10=→2-11
11=↑0-0
12=→0-0
有紀が言った。
「これは私も『AMS』のパスワードと考えたが……どう考えても7桁にならなかった」
葵が言った。
「ええ……僕もまんまと引っ掛かりましたよ……しかし、引き離して考えると、これほどシンプルな物はないです」
葵はノートと赤と黒のペンを取り出した。
「これに12×12のマス目を書きます」
そう言うと葵は黒のペンで正方形のマス目をノートに書いた。
「共通する数字が『12』なので、12×12で、おそらく間違いないでしょう……」
皆の視線は葵のノートに、くぎ付けだ。
葵は説明を続けた。
「そこでこの二色のペンの出番です……その前にまずは……各数字を二種類に分けます」
そう言うと葵はノートにそれを書き始めた。
↑の記号と→記号の付いている数字を分けた。↑が6-6 2-6 3-7 3-5 2-6 0-0……→が6-6 2-11 2-9 4-11 2-11 0-0と、いった感じで、それぞれノートに書き分けた。
「そして↑を黒のペンで、→を赤のペンで…数字の示す箇所をチェックしていきます。まずは↑の黒から印してみましょう…」
葵は黒のペンを持って印していく。
「矢印は上を指しているので、この場合は縦の6列目、横の6列目……つまり中心部ですね…」
そう言いながら葵は順番に印を付けていった。
皆は静かにその様子を見ている。
黒の印をつけ終わり、次は赤の印を付け始める。
「今度は横の矢印なので、さっきと逆です手紙だった…横の列の6と、縦の列の6です…また中心部ですが…」
今度は赤のペンを持って印を付け始め、黒の印と同様に印を付けていく。
そして印を付け終わると、葵は満足げに言った。
「できました……0-0はなにもなし……つまり『終了』と言う意味でしょう」
有紀が言った。
「これは……まさか…」
有紀の反応を確認し葵は言った。
「では、仕上げをしましょう……この印した点を部屋番の順に線で繋いでいきます」
葵は黒と赤の印をそれぞれ繋いだ。
すると黒の矢印と赤の矢印が、ノートに浮かび上がった。
九条が言った。
「これって…」
葵が満足げに言った。
「そうです……時計の『短針』と『長針』です…長さから考えて、黒が短針、赤が長針です…」
葵が言うようにノートには針時計が出来上がった。
九条が言った。
「これは?……9時5分か?」
葵が言った。
「そのようです……9時5分ですね。歩さん、何かこころ……」
葵は歩の方を見た……すると歩は青ざめた表情になっている。
たまらず有紀の方を見たが、有紀は渋い表情をしている。
歩はボソッと呟いた。
「9月5日……9時5分……そんな…」
葵が言った。
「心当たりが…あるんですね…」
歩が言った。
「あぁ……忘れたくても…いや、忘れてはいけないんだ……」
「9月5日の9時5分…あの日、あの時をきっかけに…俺は……まさかアマツカがそこにいたなんて……」
葵は『9月5日』に反応して言った。
「まさか…2年前の『9.5高層マンション爆破事件』…」
歩は言った。
「あぁ…その時、俺はあの場所にいた…災害医師として…」
九条が言った。
「僕も知っている…いや、世界中の人々が知っている事件だ…史上最悪の事件だ…」
葵が言った。
「アメリカの富裕層や政府関係者が多く暮らす高層マンション…」
九条が言った。
「それを狙った……卑劣なテロ…」
歩が言った。
「あれは……地獄だった。あそこにアマツカがいたのか?…まさか…」
無理やりこじ開けられる、歩の記憶…。
歩とアマツカの関係とは…。
皆は青ざめた歩を、ただ見る事しか…できなかった……。




