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70 夢魔退治

「くすくす、やっと見つけましたわぁ愛依。随分と探しました事よぉ」


 ハピネスは宙にふわふわと浮きながら私を見下ろして言ってくる。

 私とユミナはそんなハピネスを睨む。


「いきなり人を拐うなんて、かなり大胆な事してくれるじゃないの。節度ってものがないのあなたには?」

「あら、これでも十分我慢しましたのよぉ。他の幹部の領域にいるときに手を出すのはジョイのときにやったせいかヘイトレッド様に禁じられてしまいましたし。でも、他に幹部はいなくなりここはわたくしの領域……遠慮する必要はありませんわぁ」

「なるほどね……それで今回ってわけだ。まあ愛依っちを好きな気持ちは分かるけれど、いささか手段が強引すぎたね。度が過ぎると逆に嫌われるよ?」

「それをあんたが言うんかい」


 私は思わずユミナに突っ込む。ユミナはそんな私の言葉に対し、軽く舌を出して反応する。

 まあ反省していないわけではないのだろうが、後悔はしていないといった感じでもありそうだ。

 一方で、ハピネスはユミナをにらみつける。


「黙りなさい有象無象の分際で。あなたがいなければ、今頃愛依はわたくしのモノになっていたというのに……! あなたが介入したせいで座標がズレてわざわざ探す事になったんですのよ? 許せませんわ……」

「へぇ、ならよかった。恋敵のやることを邪魔できて」

「……まったく本当に憎たらしい。ここであなたを殺し、愛依をわたくしのモノにしますわ。さあ、死になさい!」


 そう言ってハピネスは素早く右手を上げる。

 すると、彼女が浮いている場所の真下から黒く大きな棘が次々と生えてきて、ユミナに迫る。


「ユミナっ!」

「分かってる!」


 ユミナはそれを横に転がって回避する。


「この程度では済ませませんわよっ!」


 さらに手を下ろすハピネス。すると、空中に突然魔力のゲートが開き、そこから黒い触手が生えてユミナを襲う。


「ふっ! はぁっ!」


 ユミナはそれをすんでのところで回避する。

 だが、触手は次々と現れ、ユミナに息をつかせない。


「くっ! 面倒だねぇ!」

「ユミナっ! 今援護するね! スピードアップ!」


 私はまずユミナに俊敏性上昇の魔法をかける。

 これにより、ユミナはより触手を回避しやすくなった。


「ありがとう愛依っち!」

「気にしないで! そしてハピネスは私に任せて! 喰らえ、シャインスピアー!」


 私は光の槍をハピネス目掛けて飛ばす。以前の戦いを考慮すれば、十分ハピネスに致命傷を与えることができる一撃だ。

 だが、


「あら怖い。そぉれ」


 ハピネスは目の前に魔力のゲートを開き、その光の槍を彼女の背後へと飛ばさせたのだった。


「なっ!?」

「ふふふ愛依、舐めてもらっては困りますわ。ここはわたくしの領域と言ったでしょう? サキュバスたるわたくしの作り出すこの次元はいわば普通の空間とは別の空間、つまり完全にわたくしが支配する空間。ここでは以前のようには行きませんわぁ」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら私に言うハピネス。

 つまり、私達は今圧倒的に不利な状況にいるというわけだ。


「これは……なかなか困ったね」

「どうします愛依? 諦めてわたくしのモノになる選択はいつでも受け付けていますわよ?」

「お生憎様! あなたもモノになるつもりはないの! セイントレイン!」


 私はハピネス目掛けて光の雨を降らせる。


「あらあら」


 しかし、やはりそれもハピネスに空間と空間を繋ぐゲートを作られ、回避されてしまう。


「ちっ……!」


 私は思わず舌打ちをしてしまう。これでは魔法以外にも杖を投擲したとしても、同じように回避されてしまうであろう。

 現状、この空間でハピネスに打ち勝つビジョンがなかなか見えなかった。


「さらにいきますわぁ。いでなさい、我が下僕達!」


 ハピネスは更に攻勢に出てくる。

 何もない空間から、突如ゴーレムが二体、私を挟み込むように現れたのだ。


「ゴーレム達、愛依を死なない程度に痛めつけてやりなさい。痛い目にあえば、考えも変わるでしょう」


 彼女の指示を受け、ゴーレム達がズドンズドンと地を鳴らしながら迫ってくる。


「甘く見ないで! はあっ!」


 私はその迫りくるゴーレム二体に杖を飛ばす。杖は両サイドに素早く飛んでいき、ゴーレム達に突き刺さる。


「エクスプロージョン!」


 そして、光の糸を伝導させ杖から爆破の魔法を送り込む。

 結果、ゴーレムはバラバラになって崩れていった。


「さすが愛依。でも、数の暴力には勝てるかしら」


 ハピネスが指を鳴らす。すると、さらに空中にゴーレムや石像の悪魔であるガーゴイル、またゴブリンなどが現れ襲いかかってくる。


「くっ、この数はさすがに……!」

「愛依っち!」


 と、そこで触手に襲われていたユミナが駆けつけ、回避しながらも次々とモンスター達を斬っていった。


「ユミナ!? 大丈夫なの!?」

「まあねっ! だいぶタイミングも掴めてきたし、気にかけておけば回避しながらの攻撃ぐらい楽勝だよっ!」


 ユミナは走り抜けながらも笑って私に言う。

 頼りになる親友だと、私は思った。


「ええいちょございな……! これでも喰らいなさい!」


 しかし、それを許すハピネスではなかった。

 ハピネスはユミナの攻撃している剣目掛けて宙空から細い触手を伸ばす。


「おっ!?」


 すると、その触手が剣に巻き付き、バキィン! という音を立てながら剣をへし折ってしまったのだ。


「まずっ……!」


 さすがのユミナも表情から余裕が消える。


「ユミナっ!」


 私も彼女が心配でユミナの名を叫ぶ。


「さあ、これで対抗手段はなくなりましたわ? どうするのかしら?」

「どうするって……そうだ、ダメ元で!」


 そこでユミナは背負っていたもう一つの剣、ハピネスの部屋から盗み出した剣を取り出す。

 正直その剣は飾りか何かと私は思っていたので、一時しのぎにしかならないと思った。

 だが、


「なっ!? それを何故……!?」


 ユミナがその剣を取り出した瞬間、ハピネスが顔色を変えた。

 また、同時にユミナの持った剣が青色に輝き始める。


「これは……!? 剣を伝って、私に使い方が伝わってくる……そうか、リボルブレイド。それがこの剣の名か!」


 そしてユミナが笑いながら理解したように言う。どうやら彼女の言うように、剣を通して彼女に情報が伝わっているようだった。


「でいやぁっ!」


 ユミナは剣を横薙ぎする。

 すると、なんと敵や触手だけでなく黒に包まれていた空間すらも横一文字に裁断したのだ。

 空間と敵がズレこみ、切断される。それによって、私達を覆っていた闇の世界も消える。


「な、なぜあなたがリボルブレイドを……!? その剣はわたくしの部屋にあったはずなのに……!?」

「さあ、なんでだろうね? でも、これがお前にとって特効になる武器なのは分かったよ。リボルブレイド、またの名を“次元刀”。次元を切断する力を持つ、伝説の武器」

「そんな凄い武器だったんだ……」


 武器を構えながら言うユミナに、私は思わず言う。

 次元を斬れるからこそ、次元を操るハピネスの術中を打破できたのだろう。

 つまり、今勝機は私達にあるのだ。


「いくよ、愛依っち!」

「うん、ユミナ!」


 私はリボルブレイドを構えるユミナに答える。そして、私も一緒に杖を構える。


「はあああああああああ……せいやあああああああああっ!」

「はあああああっ! シャイニングイラプション!」


 私は魔法を放つ。ユミナが放った、空間を切断する飛ぶ斬撃と同時に。


「ぐっ、があああああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 それは両方とも見事にハピネスに直撃し、彼女の体を斬り飛ばす。


「あ……ああ……まさか、わたくしが負ける……死ぬ……? ふ、ふふふ……それもいいでしょう……愛する者の手に掛るなら……これほど幸せな死もない……そう、楽しかった(ハピネス)ですわ……! うがあああああああああっ!」


 そして、ハピネスは断末魔を上げながら爆散する。

 こうして私はユミナと共に、ずっと私を悩ませていたストーカーを退治したのであった。


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