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61 監獄の洞窟

「ふむ……中は思ったよりも広そうだ」


 洞窟の中の曲がりくねった下り坂を進みながら私は言う。

 内部は入り口よりも天井が高く、横幅もどんどんと大きくなっていった。


「それにしてもこの壁にかけられている松明……やっぱりモンスター達はここを拠点にしてるんだね」


 洞窟の壁には松明を掲げるための金具が打ち付けてあり、そこに燃える松明が据えられている。

 中にある程度の生活基盤が築かれている証拠でもあった。


「キュイイ……」


 そこで、私の肩に乗っているキトラが心配そうな声を上げた。


「大丈夫だよキトラ。どれだけ敵がいようとも、必ず私がマリーの事助け出して見せるから」

「キュイ!」


 軽く鳴いて私の言葉に応えるキトラ。

 私はそんなキトラの頭を優しく撫でる。

 そうして、私は岩でできた地面を滑らないよう、静かに進んでいく。

 すると少しして、私は広いドーム状空間に出た。


「ここは……」


 天井は見えないほどに高く、左右の幅や奥行きも松明があるおかげでやっと視認できるほどに広い。

 あたりにはそこそこの大きさの岩がいくつか地面から生えている。

 だがそれ以上に目を引くのが、ところどころに引かれているトロッコのレールとトロッコ、そして建てられている木製のやぐらであった。

 そのやぐらの上でギャアギャアと指示を出しているらしきモンスターがいる。剣と盾を持ったリザードマンだ。

 そして、そのサギハンに指示を受けてゴブリンがトロッコを運搬している姿がある。


「これは……思った以上に大掛かりな拠点だね」


 私はすぐさま近くの岩陰に隠れながら様子を伺い言う。


「キトラ、マリーがどこにいるか分かる?」


 広い空間の壁にはいくつかの小さな横穴が空いておりそこをモンスターが出入りしていた。

 そのどこかにマリーがいるのは明白である。なので、私はキトラに聞いた。


「キュイ、キュイ」


 するとキトラは空間の奥、私から見てまっすぐ先のところの横穴を首を動かして指示する。

 どうやらマリーはその先にいるらしい。


「なるほど……なかなか厄介だね。ここからだと少し遠いし、見つからずに行くには骨が折れそうだ」

「キュイ……」

「大丈夫だよキトラ、別に諦めたわけじゃない。ちょっと頑張らないとって思っただけだよ」


 軽くうなだれたキトラの頭を撫でて私は言った。


「さて……それじゃあ行くとしますか」


 そして私は行動を開始した。

 まずやぐらのリザードマンに見つからないようにタイミングを見計らって岩陰から岩陰に移動する。

 岩陰がない場所で敵の目があるところには、小石を投げて相手を誘導したり、静かに杖の尖った先端を武器として息の根を止めたりとできうる手段を取って発見されないように行動する。

 そうしてマリーがいると思わしき横穴に近づいていったのだが、途中で私は足を止めざるをえなくなった。

 横穴の前で居座り動かないゴブリンの集団がいるのである。

 一匹ならまだしも、四匹ほどおり注意を引くのはなかなか大変そうだった。


「さて、どうするか……」


 ここまで静かに来て戦闘をするというわけにはいかないし、近くに気の引けそうなものもない。

 なかなかに困った状態である。そんなときだった。


「キュイ、キュイ」


 キトラが小さく声をあげながらある方向を指し示したのである。

 そこには、少し離れたところに赤い樽がいくつか置いてあった。それは道中も見かけたものであり、中身には採掘用の火薬が入っているのも知っていた。その火薬樽の中に一つ蓋が開けた状態で置いてあるものもある。


「なるほど、火薬か。確かにあれを爆発させれば一気に注意を引けそうだけれど……」

「キュイ!」

「……もしかして、キトラがやってくれるって言うの?」

「シャァ!」


 私の言葉に頷くキトラ。正直、キトラがどうやってあの火薬樽を爆破するのかは分からない。

 でも、私はここでキトラを信じてみようと思うことにした。


「分かった……お願い、キトラ」

「キュイッ!」


 私が頼むと、キトラはすっと飛び上がる。そして、目にも留まらぬ速さで火薬樽近くの松明を咥えて、それを火薬樽の上に落としたのである。

 松明の火は火薬樽の開いた蓋の上に落ちていき、そして、

 ドォォォォォン!

 と、次々と大爆発を起こした。


「ギャア!?」


 その大きな爆発に、フロア中のモンスターが気を引かれ、集まっていく。それは横穴の前にいたゴブリンの集団も例外ではなかった。


「キィ!」

「よくやったよ、キトラ!」


 私の所に戻ってきたキトラを私は褒める。

 そしてすぐさま、私は横穴の中に入っていった。

 横穴の内部にもモンスターはいたが、幸い数は少なく対処をしてもバレる事はなかった。

 そうやって横穴を奥へと進んでいって、私はついに見つけた。


「マリー!」


 私が探し求めていたマリーが、横穴の深部にある牢獄らしき場所の一つの中にいるのを。


「ギャッ!? ギャアギャア!」


 そこで、看守らしきリザードマンが騒ぎ出す。あまりにも焦ってマリーのところに行こうとしたせいで見つかってしまったのだ。


「うるさい! シャインスピアー!」


 だが、私はそのリザードマンを素早く倒し、騒ぎになるのを防いだ。そしてそのままマリーの囚われている檻の前まで行く。


「マリー! マリー!」

「キュイ! キュイ!」


 彼女は壁に鎖で繋がれ意識を失っているようだった。私とキトラがいくら呼びかけても、マリーは返事をしない。


「くそっ……檻が開かない……そうだ、さっきのリザードマン!」


 私は先程倒したリザードマンの死体を漁る。すると、やはりそのリザードマンは腰に鍵束をつけていた。


「これで……!」


 その鍵束を取り、扉へと再び戻る私。そして鍵束を使い牢屋を開ける。


「マリー……!」


 私はそうして牢屋の中に入ると、彼女を拘束している鎖を同じ先程と同じ鍵束から鍵を見つけ、解き放って抱える。


「大丈夫!? マリー! 返事をして!」

「シャアアアアアア!」


 私とキトラは必死にぐったりとしたマリーに呼びかける。

 彼女の見た目はひどかった。きれいだった服はボロボロになっており、柔らかな肌にも傷が目立つ。

 どうやら肉体的な拷問を受けた後らしかった。


「くっ……ひどい……! ヒール!」


 私はそんなマリーに回復呪文をかける。これで少しはマシになって目を覚ましてくれれば良いのだが。

 そうして呪文をかけた後も、私はマリーに呼びかけ続ける。


「マリー! マリー!」

「……お姉、ちゃん」


 すると、マリーがか細い声を上げながらゆっくりと瞼を開けた。


「マリー……! 良かった……!」


 私はマリーをぎゅっと抱きしめる。

 本当に、本当に良かった……!


「お姉ちゃん……どうしたの……? どうして、ここに……?」

「シャアア!」

「キトラ……? そうか、私、捕まって……それで宝石を取られまいと、キトラを宝石と一緒に逃して……そうか、キトラがお姉ちゃんを連れてきてくれたんだね……」

「キュイ!」


 キトラがマリーの言葉に応えた後、私はそっとマリーを離す。

 そして言う。


「マリー! どうして一人でここに来たの!? どうして相談もしてくれなかったの!? もしかしたら死んでたかもしれないんだよ……!?」

「……ごめんなさい」


 マリーはとても申し訳ないと言った表情で謝ってくる。


「だって、お姉ちゃんマリーの事嫌いになったと思っちゃって……それでソローにここの事を教えられたけれど、相談したら絶対反対されるだろうって、そう思って……だったら、一人で戦うしかないってなったの」


 どうやらマリーはまたいつもの思い込みをして一人で行動したらしい。

 そんな彼女に私は叫ぶ。


「マリーの馬鹿! 私はマリーの味方だよ……! 敵じゃない。それこそ、初めて会ったとき言ったようにね。だから、困ったときはいつでも相談していいの。私達は仲間で……血はつながってないけど姉妹でしょ……?」

「お姉ちゃん……お姉ちゃん……! うわあああああっ……!」


 マリーは私の言葉を受けて、泣きながら私に抱きついてくる。


「…………」

「うわあああ……! あああああっ……!」


 私はそれを静かに抱きとめ、彼女が泣き止むまで優しく抱き続けるのだった。


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