60 義妹を探して
「マリーがいなくなったぁ!?」
私は手紙を見つけた後、みんなを集めて事情を説明する。
「思い詰めてはいたけれど……まさか一人で相手を探しに行くだなんて……」
「そうだね……ただでさえこの近くにいるかどうかすら怪しいのに」
私は怜子の言葉に頷きながら言う。
マリーは一人でなんとかすると残したけれど、そもそも相手がどこにいるか分かっているのだろうか?
そうでなければ完全な暴走だ。
「にしても、いくら仇に会えたからって急に一人で探しに行くってのは変な話だよねー。……もしかして二人で戦ってるときに変な入れ知恵でもされたかな? 向こうが自分の場所を晒してきたとかさ」
私の疑問に答えるように、ユミナが言った。
ユミナはこういうときに頼れる子だ。私は改めてそう思う。
「おいおい、それじゃあまるっきり罠じゃないか……! このままじゃ間違いなくやべーぞ」
「そうだね……。みんな、お願いがあるんだけど」
私はみんなにマリー捜索の手伝いを頼もうとする。すると、
「分かってるよ。マリーちゃん探しでしょ? 言われなくても手伝うよ」
「ああ。マリーだって大切なアタシ達の仲間なんだ。見捨てられるかっての」
「こういうときにわざわざ頼み込むのが愛依っちらしいよねー、まあそういうところがいいんだけどさ」
三人は微笑みながら私に言ってくれた。
ああ、やはり私の親友は信頼できると、私は思った。
「ありがとう……それじゃあ手分けして探そう!」
私はそう言って宿を飛び出す。その後ろで、
「あっ、ちょっと待って愛依ちゃん!」
「少し落ち着けって!」
と、親友達の私を落ち着かせる声が聞こえてきた。
でも落ち着いてなんていられない。
マリーももう私の大切な仲間の一人……それこそ妹のような存在なんだ。
そんな彼女が一人孤独に敵の罠に嵌まろうとするところを想像しただけで、私は体に抑えが効かないのだ。
私は走る。走っては空を見て彼女が飛んでいないかを確認し、往来する人達にとにかく聞き回る。
「すいません! 小さいドラゴンを引き連れた女の子を見ませんでしたか!? ドラゴンに乗ってた子でもいいんです!」
「いや、見てないなぁ……」
「うーんそんな子がいたら印象に残ると思うんだけどね」
しかし、帰ってくる答えはこちらの期待に合わないものばかり。
マリーを見たという人にはなかなか会わない。
私は探し続ける。時間が経てば経つほど、彼女の身に迫る危険は大きくなっていくのだから。
そうして走り続けて二十分ほど経ったぐらいだろうか。本当はもっとかかったかもしれないし、案外数分だったのかもしれない。
とにかくある程度探し回ったとき、私はやっと掴んだ。
「ああドラゴンなら見たよ。空を飛んでた。こんな街中でドラゴンを見るなんてないからびっくりしたしよく覚えているよ」
露店を営んでいる男性が偶然見かけたと言うのだ。私はその情報に思わずその男性の肩を掴む。
「本当ですか!? どこへ行ったか分かりますか!?」
「おお、教える教えるからちょっとおちついとくれ……」
「あっ……! すいません……!」
私はさすがに冷静さが欠けていたなと思い素早く手を離し、頭を下げる。
「ところで、そのドラゴンの行き先ですが……」
そして改めて聞く。すると男性は街の外を指さしながら言った。
「ちょうどあっちの方向に飛んでいったよ。でも探しに行くのなら注意したほうがいいよ。あの先にはモンスターがねぐらにしてるって言われている洞穴があるんだ。ちょうど海岸近くの崖側にあってね。それ以外は何もないからもしドラゴンがいくとしたらそこだろうから」
「ありがとうございます!」
私は勢いよく頭を下げて礼を言うと、街から見て下にあるという海岸近くにある洞穴を探すことにした。
まずは戻ってみんなに知らせることも考えはした。
でも、そうしている間にもマリーは危険に晒されいているかもしれないし、みんなが捜索をいつ終えて戻ってくるかもわからない。モンスターのねぐらになっている洞窟なら時は一刻を争うのだ。
私は一人で探しに行く事にした。
ハラオムの街を出て、道を外れ海岸へと向かう。
海岸は秋の夜というのもあってなかなかに骨身に染みる海風を吹かせていた。
だがそんなものを気にしている場合ではない。私は夜の砂浜を走った。月明かりの下、海岸近くに切り立っている崖を目指して。
崖に近づくと砂浜から岩礁に地面が変わる。
ゴツゴツとした岩は靴越しに私の足に刺激を与えてきたが、それで歩みを止めるような私ではない。
冷たい海水が時折足を濡らすのも気にせず、私は目先に見えてきた洞窟目掛けて歩みを進めた。
「……ここが、洞窟」
そうして私は話にあった洞窟の前までたどり着く。
洞窟の入り口は縦五メートル横六メートルといった大きさで、ドラゴンの巨体では入るのは難しそうな穴であった。
「ここにマリーが……?」
私は洞窟を見据えながら言う。少なくとも周囲にモンスターの影も形も見えない。街で聞いたようにモンスターのねぐらには一見見えないだろう。だが、あまりに静かすぎるその様相が逆に私の心に不安を掻き立てた。
そんなときだった。
「シャァ……! シャァ……!」
聞き慣れた鳴き声が、私の耳に聞こえてきたのだ。
私はすぐさまその鳴き声が聞こえてきた方向を向く。
「キトラ……!?」
すると、そこにはキトラがいたのだ。マリーが肌身離さず持っていたブローチを咥えて。
「キトラ!? どうしてこんなところに!? そのブローチはマリーのだよね……!? マリーは近くにいるの!?」
「キュイキュイ……!」
キトラは私の問いかけに洞窟の方に首を何度も動かしながら鳴く。
私はそれでキトラの言いたいことを理解した。
「……もしかして、この中にマリーがいて、何かあったって事なの……!? それであなたが、ブローチを持って知らせるために逃げてきた、と……?」
「シャッ!」
キトラのその鳴き声は肯定と見て良いだろう。
マリーはこの中にいて、捕らえられている。それは間違いないようだった。
「そんな……助けないと!」
私は急いで洞窟の方へと走ろうとする。だが、そのとき、
「シャアアアア!」
とキトラが鳴いた。
「……そうだよね。あなたも連れて行かないとね。ごめんねキトラ、気持ちばかりが逸っちゃって」
「キュイイイ……」
私はキトラを拾い上げ、肩に乗せる。そうすると、キトラはその首を私の頬に擦りつけてきた。
「うん、キトラ。分かってる。一緒にマリーを……助け出そう」
「シャッ!」
キトラは勇ましく鳴いて応えてくれる。そうして私は、キトラと共に暗い洞窟へと入っていったのだった。




