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59 暴走する復讐心

「お、やっと街が見えてきたよみんな」


 私は馬車の客車に揺られながらも、その窓から顔を出して言った。

 その日、私達は旅の最中新たな街を訪れていた。


「あっ、見て見て! 海が見える! いやーなんか海見たの久々な気がするよ」

「そうだなぁ、一応去年みんなで遊びに行ったけれど、感覚としては久々って感じだな」

「だねー、こっち来てから色々あったもんねぇ。じゃあついたら海で遊ぶ! ……という訳にはいかないよね。秋だし。寒いし」


 私の言葉に茉莉とユミナが言いながら頷く。


「それにしても確約で馬車に乗せてもらって良かったねお姉ちゃん、旅費が結構浮いてラッキーだ」

「まあね。でも、一応は護衛も兼ねているんだから、最後まで気を抜いちゃダメだよ」


 マリーの言葉に私は念を押す。

 今私達が馬車に乗れているのは、馬車の御者が護衛をしてくれるなら格安で次の海辺の街であるハラオムまで連れて行ってくれるという話を偶然そのときいた街のギルドで聞いたからである。

 ギルドは旅費稼ぎのクエストを受けられると共に、情報収集にも適した場所であるならとりあえずは利用していた。

 そのときに私達は困っていた馬車の御者と出会ったというわけだ。


「ここ最近危ないらしいからって……やっぱり魔軍が関係しているのかな……?」

「多分ね……実際、北に行くほどにモンスターが強くなっているのを感じるよ。着実に奴らの拠点に近づいているんだと思う」


 顎に手を置きながら言う怜子に対して答える私。

 ケインズ・オブ・コスモスは未だ北の方角に光を放っている。

 だが、その光はだんだんと強くなっているように思えた。つまり、杖も魔軍の拠点が近い事を物語っているのだ。

 その事実に、私は気持ちを引き締める。そんなときだった。


「うわあああああああああああああっ!?」


 馬車の御者の悲鳴が聞こえたかと思うと、街を目前として急に馬車が止まったのである。


「はわぁ!? 何事ぉ!?」

「……もしかして! 降りようみんな!」


 慌てて車内で転びそうになっていたユミナの手を引き起こしながら、私達は急いで客車から出る。

 すると、そこにはやはりというか、モンスターの一団が並んでいた。ミノタウロスが三匹に、二体のゴースト、そして――


「――おやおや、無防備な客車がいたから襲ってみれば、これはこれは」

「お前は……ソロー!」


 そこにはかつて私とマリーを襲った亡霊モンスターであり魔軍の幹部であるソローがいた。

 相変わらず漂うモヤのような存在の癖して黒革のコートと中折れ帽を身に着けている。

 存在からキザな雰囲気を漂わせるモンスターだ。


「ソロー!? じゃああいつが……!」

「うん、前に私とマリーをさらったのが、あの真ん中にいるスペクター、ソローだよ」

「ソロー! お前っ!!」

「キュイイイイイ!」


 そんなソローにより強く反応したのはマリーだった。マリーはキトラと共にソローを睨みつけている。


「これは、予定が狂いましたな……お前達、適当に相手をしておきなさい。私はおいとまさせてもらいますよ」


 しかし、ソローはそんなマリーを見た瞬間すぐさま去ろうとする。


「逃がすかっ! パパとママの仇を今日こそ討つんだ! キトラっ!」

「ガアアアアアアアアアア!」


 その瞬間、マリーは叫びキトラを巨大なドラゴンに変える。そしてそのキトラに乗って、そのままソロー目掛けて飛んでいく。


「ちょ、マリー!? 一旦落ち着いて!」


 私はマリーに叫ぶ。だが、マリーは聞こうとせずに素早く空飛び逃げるソローに対し飛んでいく。

 一方で、ソローの引き連れていたモンスター軍団は御者と私達目掛けて襲ってくる。


「くっ! みんな! とりあえず御者さんを守るよ! マリー! マリー!」


 私は変わらずマリーに呼びかける。だが、マリーは聞こうともしない。

 そして、マリーはそのまま一人ソローを追って海の方まで出てしまう。


「あいつ何やってんだ!」

「こっちはちょっとでも助けが欲しいのにー!」

「一人じゃ危ないよ……!」

「く……助けに行きたいけどこのモンスター達なかなかに強い……!」


 私達はマリーのところに行きたい気持ちはあれど、御者を守るので精一杯であった。

 そうしてしばらく戦闘し、私達はなんとか勝利を収める。だが、マリーは言うと。


「……くっ! ソロー、逃しちゃった……! せっかくチャンスだったのに……!」


 戦闘が終わってしばらくした後に、キトラに乗った状態から降りてキトラを元の姿に戻しながら私達のところに帰ってきたのだ。


「おいマリー! どうして一人で先走ったりしたんだ! そりゃ気持ちも分からないでもないが、今は一人突出する場面じゃなかったろ!」

「まあ目の前に親の仇がいて暴走しちゃうのはしかたないけれどさー、相手って結構強いんでしょ? それを一人で追うのはなかなかに危ない選択だったよねー。もう少し冷静になったほうが良かったかもね」

「……何より、私達があそこを離れちゃったら御者さんが危なかった。私達は御者さんを守るという契約もしていたから、それを破るのはよくない」


 三人がそれぞれ戻ってきたマリーに言う。みんなマリーの事を思いながらも、彼女の単独行動の危険性をそれぞれの言葉で説いているようだった。

 だが、マリーは、


「……うるさい、うるさいうるさいうるさい! そんなこと分かってるもん! でも、さっきはあいつを追う絶好のチャンスだったんだもん! しかたないでしょ!? むしろみんなが手伝ってくれたらあいつを捕まえる事ができたのに!」


 マリーは聞いている様子はなかった。それどころか、みんなが悪いと言う始末だった。


「……マリー」

「ねえお姉ちゃん、お姉ちゃんなら分かってくれるでしょ? いや、本当はお姉ちゃんも私を助けたかったんだよね? みんなの前だからリーダーとしての責任を果たしただけで本当は一緒にあいつを追いたかったよね? そうだよね、だって私のお姉ちゃんだもん――」

「――マリー!」


 私は彼女の言葉を遮るように叫ぶ。私の声に、マリーはびくりと体を震わせる。


「……お姉ちゃん?」

「……いいマリー、みんなマリーの気持ちを分かってないわけじゃない。でも、あのときは完全にマリーの暴走だった。そこは反省して欲しい」


 マリーの肩を優しく掴みながら、私は言う。

 その私の言葉にマリーは、


「……はい」

 

 と、とても小さな声で答えた。


「……うん。今日は宿でゆっくり休もう。観光もなし。みんなも、それでいいよね」

「ああ」

「うん」

「おっけー」


 私の言葉にそれぞれ答えてくれるみんな。そうして私達は、助けた馬車と共に再び街へ向って進み、街で宿を取ることになったのであった。



「……ふう、大丈夫かな、マリー」


 宿での夜、私が気にするのはマリーの事であった。

 昼はああ言ったけれど、やっぱりあの状況だとああなってしまうのも仕方がなかった。

 それをもうちょっと分かってあげるべきだったのかもしれない。いや、そうするべきだったのだ。なのに私は、頭ごなしにマリーを叱って……。


「……ダメなお姉ちゃんだな、私」


 自分で自分に言う。そして、思い立って立つ。


「よし、マリーの部屋に行こう。今日はマリーと一緒に寝てあげよう。今の私にできるのは、それぐらいだから」

 

 私はそう決断すると、マリーの部屋へと向かった。マリーの部屋は二階に取ってあった。

 マリーの部屋の前につくと、私は扉をノックする。


「マリー。その、私だよ。あの、せっかくだから一緒に寝ようと思って……」

 

 …………。

 反応が帰ってこない。もう寝たのだろうか? いや、そんなはずはない。まだ時間としては七時くらいだ。まだ寝るような時間じゃないだろう。

 それに、私の声を聞くと寝ていても飛び起きるのがマリーだ。そんな彼女が反応しないなんて、何かがおかしい。


「マリー……?」

 

 私は扉に手をかけてみる。すると、扉はすんなりと開いた。

 そして、目の前の状況に私は驚いた。

 部屋は空っぽだった。しかも、ただ空っぽだったわけではない。窓が開いており、ベッドの足にベッドのシーツで作ったロープが垂れている。

 一人こっそりと宿を出ていった証拠が、そこには残っていた。

 そして、そこには一枚の紙が残されていた。そこには、こう書かれていた。


『お姉ちゃんへ。私はソローを追います。一人でなんとかするから、安心して』


と。


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