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56 巨人狩り

「しかし、これで本当にあの巨人に対抗できるのか?」


 武器を手にし洞窟を出ながら茉莉が言った。


「見たところ普通の盾と剣だけど……」

「さすがにあんなに厳重にしまわれていたし、あんな手記もあったから大丈夫だとは思うんだけど……」


 茉莉の持つ武器を眺めながら言う私達。

 武器は暗い洞窟の中でも薄ぼんやりと輝いている。

 それだけでも普通の武器ではないとなんとなく分かるのだが、いかんせんそれ以外はちょっとした装飾がされている程度で普通の武器と変わらないので、どこまでの力を秘めているのかよく分からないのである。

 故に、本当にあの巨人に対抗できるのか今更になって不安になってきた。


「まあ、やってみるしかないか。今のアタシ達の希望は、このタイタンキラーだけなんだから」


 そんなことを言いながら洞窟の外に出た、そのときだった。

 ドシィン! と突如大きな音と共に地揺れがし、目の前に全長四メートルほどはあるモンスターが現れたのである。

 ゴーレムだ。

 岩の結晶を体とし、岩石でできた手足を振るう、強大なモンスターだと以前怜子に教えてもらったことがある。

 それが、今私達の前に現れていた。


「くっ! こんなところにゴーレムが!? あの巨人の手先!?」


 私は急いで杖を構える。だが、そんな私を茉莉が手を伸ばし静止した。


「茉莉……!?」

「愛依、これはこのタイタンキラーの力を試すチャンスだ。少しはこいつの扱いを知っておいきたい。だから、ここはアタシに任せてくれないか」

「で、でももし巨人にしか効力を発動しない武器だったら……」

「あーそういうのもあるのか……でもまあ、死にはしないだろう。もしものときは、愛依が助けてくれるだろうしな」


 茉莉はそう言って私にウィンクする。

 私はそんな茉莉に、静かに頷く。


「分かった……でも、無茶だけはしないでね」

「おう」


 茉莉は私の言葉に答え、ゴーレムに向って走っていく。


「……!」


 そんな茉莉に目をつけたゴーレムは、その腕を大きく上げ、振り下ろす。


「っ!」


 茉莉はその腕をタイタンキラーの盾で防ぐ。普通なら、盾を粉砕されてもおかしくない一撃。

 しかし、


「……!?」

「おっ!? これは……!」


 茉莉は驚嘆の声を上げた。

 ゴーレムの一撃は、盾に触れることすらできなかった。盾が放つ光の防壁によって完全に防がれたのだ。


「これがこの盾の力か……! いいじゃないか! ならば、次っ!」


 茉莉は光の防壁を生み出している盾を振り払う動きをすることによってゴーレムの腕を弾き飛ばす。

 それによって隙が生まれたゴーレムの胸目掛けて、茉莉はタイタンキラーの剣を突き立てる。


「はぁ!」


 すると、タイタンキラーの剣先から盾と同じく光が伸びる。今度は巨大な光の刃だ。

 それがゴーレムの体を見事貫く。


「……!!」


 ゴーレムはそれにより糸の切れた人形のように崩れ落ちた。茉莉の勝利である。


「これは……なかなかに凄いな」


 残った茉莉がタイタンキラーを見ながら言う。


「茉莉、凄いじゃない!」


 私はそんな茉莉に駆け寄って言った。


「ああ、これがあればきっとあの巨人に対抗できる」

「そうだね。あとはあの巨人を倒すか、先にみんなと合流するかだけど……」

「とにかく上に登ろう。そうすれば、どちらかは果たされるはずだ」

「そうだね」


 私達はタイタンキラーの力を改めて確認した後、再び上を目指して岩道を登っていった。

 頂上は、目前に迫っていた。



   ◇◆◇◆◇



「ふぅ……はぁ……やっと、頂上だね……!」


 私達はついにたどり着く。

 暗雲が立ち込め、赤い稲妻が走るタロム山脈の頂上へと。


「ああ、結局みんなとは合わなかったな……」

「そうだね。大丈夫かな、みんな……」

「……ちょっと心配だが、大丈夫だろう。愛依のいないところで死ぬようなタマじゃないよ、あいつらは」

「うん、そう信じたいね……」


 山の頂上には平たい石床が広がっており、崩れた円柱がいくつか立ち並んでいる。またその奥に古びた祭壇のようなものがあった。

 祭壇もまた石造りであったが、長い間放置されていたのかかなり風化し、また荒らされており、元の様相を想像することしかできなかった。


「それにしてもこの頂上の作り……逃げていったっていうドワーフが作ったのかな」

「ああ、かもな。それをモンスター達に占領されて、捨てていったって感じだろう」


 私達はボロボロになりながらも手が加わっている頂上の様相を見ながら言う。


「よもやここまで来るとは、人間よ、そこまでして死にたいか」


 そのとき、祭壇の奥、崖下から地響きと共に声がした。

 そして現れた。この山脈を訪れたときに私達を襲った巨人、レイジが。


「矮小な人間共よ。尻尾を巻いて逃げればよかったものを。そこまでしてこの俺に殺されたいか」

「悪いけど、その逆よ。あなたを倒してでも、私達はこの山脈を抜ける。そして私達は私達がここに来た理由を確かめるの!」

「ふん、愚かな……。あの忌々しい女神に踊らされているとも知らずに……!」

「女神!? あなたは、あの私が会った女神について……フォルトゥナについて知っているの!?」

「口にするにも忌々しい存在よ。そして、貴様らは今あやつの手先になっている。それをここで見過ごすわけにはいかない。死ぬがよい……!」


 レイジは私の言葉に対しそう言うと、その右の巨腕を私達に向けて振り下ろしてきた。

 そのままいけば、私達は潰されていただろう。

 だが、


「はっ!」


 茉莉が張った光のシールドが、見事にヘイトレッドの手を防いだ。


「……何っ!? それは……! そうかあのドワーフ共の……!」

「愛依、今だっ!」

「うん! マジックアップ! ストレングスアップ!」


 私は強化魔法をそれぞれ自分と茉莉にかける。私には魔力を強化する魔法を。茉莉には身体能力を向上させる魔法を。


「だあっ!」


 それによって力を向上させた茉莉が、レイジの腕を光の盾で弾く。


「ぬっ……!?」


 腕を弾かれたレイジは驚愕しているようだった。そこに、茉莉と私は追撃する。


「だあっ! パワースラッシュ!」

「はっ! エクスプロージョン!」


 茉莉はレイジの右手の指目掛け全力を込めた縦斬りを光の剣で。私は杖を飛ばしレイジの腕に刺し、爆発魔法を。


「ぐっ!? がああああああああっ!?」


 それによりレイジの指が跳ね飛ばされ、また腕の付け根に大きな穴を開けることができた。


「おのれええええ! 人間共めええええ!」


 レイジは激昂する。すると、山頂の私達の周囲に様々なモンスターが現れた。

 ゴーレム、オーガ、オーク、ミノタウロスなど。奴の手勢と思われるモンスターが続々とである。


「ちっ! 厄介な……!」

「茉莉! 雑魚は私に任せて! 茉莉はレイジに集中を!」

「……ああ、分かった!」


 茉莉は一瞬ためらった様子を見せたが、すぐに頷く。だって私達は決めたから。お互いにお互いを助け合おうって。


「はっ! セイントレイン!」


 私は広範囲に広がる光魔法を放ち、モンスター達を近づけさせずに倒していく。


「だっ!」


 そんな中、茉莉は目の前のレイジに向って走っていく。


「ふん!」


 レイジはそんな私達目掛け、今度は左の拳を握って振り下ろしてくる。


「させるかっ!」


 茉莉はそれを再び盾で防ぐ。が、そこにレイジは追撃をしかけてくる。


「死ね!」


 茉莉目掛けて指の落ちた右手を横に振るってきたのだ。頂上にいる自分の部下を巻き込みながら。

 このままでは、茉莉はその腕に弾き飛ばされてしまう。


「させないっ!」


 私はそこでケインズ・オブ・コスモスを二本とも投げる。そして、唱える。


「プロテクト! ライトバインド!」


 敵の攻撃を防ぐ防御呪文、そして拘束呪文である。それを杖を起点とし詠唱したのだ。それにより、レイジの右手は止まる。


「何っ!?」

「茉莉、早く! 長くは保たない!」

「ああ! はあっ!」


 茉莉は私の言葉に答えレイジの左腕を弾き飛ばす。そして、今度はなんとレイジの右腕に飛び乗ったのだ。


「ぬっ!?」


 突然の彼女の行動に驚愕するレイジ。一方で茉莉はレイジの右腕を伝ってどんどんとレイジの体に駆け上がっていく。


「虫けらが……!」


 レイジはそんな茉莉を左手で振り払おうとする。だが、茉莉にそれは通用しなかった。


「だああっ!」


 ちょうどよく茉莉は盾でレイジの左手を弾き、そして隙を突き光の剣でレイジの手首を切断したのだ。


「ぐあああああああああ!?」


 地面が揺れるほどの大声を上げるレイジ。

 だが、茉莉は更なる攻撃をしかける。


「はっ!」


 レイジの肩まで登った彼女は、レイジの頭までジャンプする。身体能力向上の賜である。

 そして、そのままレイジの額に剣を突き刺し、そのままレイジを縦に裂くように剣を突き立てたまま下へと降りていった。


「があああああああああああああっ!?」


 さらなるレイジの悲鳴が響き渡る。鼓膜が破れそうになるほどの悲鳴だ。

 だが、私は耐えた。

 そして茉莉はそのままレイジの腹まで裂き、頂上に降りてくる。


「まさ……か……人間に、倒されるとは……! ああ、怒りが……怒りが湧いてくる……あらゆるものに対する、怒り(レイジ)が……! がああああああああああっ!」


 そうして、レイジはゆっくりと倒れていく。周囲にいたモンスター達も、そんなレイジの姿を見てゆっくりと倒れていく。

 私達は、勝ったのだ。あの巨人であり魔軍が幹部の一人、レイジに。


「……愛依っ!」

「茉莉っ!」


 茉莉が私の下に駆けてくる。私はそんな茉莉を待ち構え、二人で抱きしめ合う。


「やったね、茉莉!」

「ああ、愛依のおかげだ!」

「そんな、私は全然何も……」

「いや、愛依がアタシの事励ましてくれなかったら、きっとこのタイタンキラーも見つけられなかったし、奴を倒すこともできなかった。ありがとう愛依。本当にお前は最高の親友だよ!」

「……茉莉」


 私は満面の笑みの茉莉に笑いかける。

 そんなときだった。


「うおおおおおやっと登りきれた……! あ、愛依っち! 茉莉っち! やっと見つけた!」


 そこに、ユミナ達がやって来たのだ。どうやら、今山を登りきったらしい。


「遅かったな。もうパーティはお開きだよ」

「うへーそうみたいだね。でも凄いね、あの巨人をやっつけちゃうなんてさ」

「本当……どうやったの?」

「ま、それは後でゆっくりとな……」


 驚いた顔のユミナ達に茉莉は言う。私達は事情を後で説明することにして、先を目指してゆっくりと下山することにした。

 こうして私達はまた、一つ障害を乗り切ったのだった。


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