表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/80

55 活路の輝き

「ん……よっと」


 私は険しい道を進む。

 さっきまでは言葉もなく、寂しかった山道。


「愛依……大丈夫か?」


 だが、今はそうじゃない。茉莉が時折振り返り私を気にかけてくれる。


「うん、大丈夫……っと」

「あっ、愛依!」


 彼女に笑顔で返したときに、私は砂利で足を滑らせる。

 それを茉莉がすぐさま手を伸ばし、私の手を握って転びそうになったのを防いでくれた。


「ありがとう、茉莉」

「いいんだ、これぐらい」


 そういう彼女の顔は嬉しそうだ。

 私が言いたいことを彼女に言った後は、私達は和気あいあいと山道を登っていた。

 もちろん状況的にそんな状況ではないのは分かっている。

 でも、さっきまでとは心持ちが確かに違うのだ。

 なんというか、心強い。茉莉がそばにいるだけでどんな障害も乗り越えられる。そんな気すらしてくるのだ。


「む……待て、愛依」


 と、そこで茉莉が手をあげ私を止める。

 彼女の視線の先には、オークが数匹徘徊していた。


「モンスターがいるな……幸いこっちの道なら戦わずに済みそうだ。こっちから行こう」

「うん、分かった」


 茉莉は静かな声で私に言い、私はそれについていく。

 先程までの茉莉ならそんなこと考えずに群れに突っ込んでいって戦いを挑んだであろう。

 だが、そんなことせずに冷静な判断を下せるようになったのも、茉莉とちゃんと話した結果のように思える。

 こうして私達は目の前にいたモンスターの群れを回避し、また山道を登っていく。

 私達の進行はこうして順調に進んでいく。

 だが、どうしても戦いが回避できないというときもある。


「見て茉莉、オーガが二匹いるよ」

「ああ、そうだな。他に道は……なさそうだ。いけるか、愛依?」

「うん、大丈夫」


 私は頷く。茉莉は攻撃するときもちゃんと私に聞いてくれるようになった。

 二人で助け合いたい。そんな私の気持ちに彼女が答えてくれたようで、少し嬉しくなる。

 だが、戦いに油断は禁物である。私は浮かれた気持ちをすぐに正し、目の前の敵に注目する。


「それじゃあ、私が魔法で初撃を与えるから、その後お願い」

「ああ、分かった」

「よし……シャインブラスト!」


 私は攻撃魔法でオーガの頭に一撃食らわせる。

 それにより一瞬困惑するオーガ。そこを、茉莉がつく。


「はああああああああああああっ!」


 茉莉は勢いよく突撃し、困惑しているオーガの首を跳ねる。


「ガッ!? ガアアアアア!」


 残ったオーガが怒りながら手に持った棍棒を茉莉に振り下ろそうとする。


「シャインスピアー!」


 私はそうはさせまいと、鋭い光の槍を放つ。


「グガァ!?」


 それは深々とオーガに刺さり、絶命させる。こうして私達は見事な勝利を収めた。


「やったな、愛依」

「うん」


 私達は拳の横を付き合わせ、勝利の喜びを分かち合う。

 少なくとも、今の私達に多少の困難は問題ないという状態だった。

 あとは、あのレイジという巨人をどうするか……その対抗策はまだ見つかっていなかった。



 そうして二人で山を登ることしばらく。そんな私達の目の前に、あるものが現れた。


「ねぇ茉莉……あれって横穴かな?」


 それは大きく開いている穴だった。縦幅、横幅ともに四メートルほどの洞窟のようである。


「ああ、らしいな。ここにきてこんなものもあったんだなこの山」


 茉莉が言う。


「でも、こうした山にはこういう横穴があってもおかしくはないんじゃないか?」


 彼女は特段この横穴が気になっていないようだった。

 だが、私は妙にその横穴が気になっていた。


「ねぇ……ちょっと入ってみない?」

「え? おいおいそんな暇はないだろ」

「でも……なんか気になるんだよね、この横穴」


 私はその横穴にまるで吸い込まれるかのように体が引かれていくのを感じていた。

 何かがある。それは確信に似た感情であった。

 そこで、私はピンと来る。そして、試してみる。

 杖を取り出し、その横穴の前にかざしてみたのだ。すると、


「……見て茉莉! ケインズ・オブ・コスモスの光がこの横穴に強く反応してる……! 何かあるんだよ、ここ!」

「おいおいマジか……まあ、なら行ってみるしかないか」


 茉莉は少し驚きながらも頷き、杖を構え歩き始める私の後についてくる。

 横穴は暗かったが、杖の光で照らされ特に問題なく進むことができた。また、横穴の中は入り口よりもずっと横幅があり、広々としていた。

 そうして進んでいくと、突き当りに杖とは別の光が見えた。松明の光である。

 私達は何かがいる可能性を考慮し慎重に進んでいく。

 すると、そこにあるのは意外なものだった。


「これは……扉?」


 そこには、大きな岩でできた扉のようなものがあったのだ。その扉が松明で照らされている。

 さらにそれだけではなかった。扉の前には、幅十数メートルほどの丸い石床でできた空間があり、そこにはそれぞれ離れた位置に正四角形の立方体の形をしている石が四つほどあったのだ。


「なんだこの空間……それにこの扉……はっ!」


 茉莉は扉を開けようと引っ張ったり、体重をかけてみる。だが、扉は開かない。


「駄目だ開かない。この先に何かありそうだっていうのによ」

「そうだね、杖もこの扉の向こうに強く反応している。何かがあるのは間違いないよ。でもどうやって……」


 と、私はそこで気づく。扉に何か模様が描かれていることを。少し離れよく見てみると、そこには三角、丸、バツ、四角の模様がひし形になって円に囲まれているのが描かれていた。


「もしかして……!」


 私はそこで扉の前に広がっている床、そして散らばっている立方体の石も調べる。

 すると床にはうっすらとだが四角い跡があり、立方体の天面にはそれぞれ三角、丸、バツ、四角の模様が描かれていたのだ。


「茉莉! ちょっと手伝って!」

「お、おう? 何をだ?」

「この石をそれぞれ特定の場所に運ぶの。私一人だと難しそうだから、お願い!」

「力仕事か。任された!」


 そうして私達はそれぞれ石を押して運ぶ。四角い跡がある場所に、扉と同じになるように石を並べる。


「んんんん……!」

「はっ……!」


 私の力ではなかなか石は進まなかったが、茉莉はすいすいと石を運んでいった。ほとんど茉莉一人が運んでいるようなものだった。

 とにかく、そうして石が床の円の中心、四角い跡の上にそれぞれ時計回りにひし形に三角、丸、バツ、四角の順番に置かれた。

 すると、


「っ! 見て茉莉、扉が……!」


 扉が、ゴゴゴゴゴ……という大きな音を立てながら、ゆっくりと開いたのだ。


「おお凄い……何かゲームみたいだな」


 茉莉のそんな言葉を聞きながらも私達は扉の向こうへと行く。

 そこは小さな部屋で、その中心にあるものが飾られていた。それは、


「これは……剣と盾?」


 そう、そこには美しく松明の光に輝く直剣と、大きな丸盾が飾られていたのだ。そして、その剣と盾に、杖が力強く反応している。


「わざわざこんなところに隠されていたなんて……一体どんな剣と盾なんだろう」

「……ああ。しかし、こうして謎を解いた先にあるってことは、貰っていってもいいんだろうか?」

「……多分ね。さすがにトラップってわけではなさそうだし……せっかくだし茉莉、使ってみる?」

「……そうだな。まずはこれを取って何もなければ、だが」


 茉莉は慎重に剣と盾を手に取る。とりあえず、剣と盾を取った段階では何かが起きることもなかった。


「……ん?」


 と、そこで茉莉は気づいたような声を上げる。


「……なあ、これ」


 茉莉が見つけたもの。それは手記だった。ボロボロの羊皮紙でできた手記であった。


「なになに……『この剣と盾、タイタンキラーを見つけた者がどうかあの巨人達に立ち向かう勇者であることを望む……我々は巨人に負け、この山から逃げ世界に散らばることとなった。だが、この剣と盾を扱えるものが現れれば、あの巨人を倒し再び自由を勝ちとってくれるだろう。これを読んでいるものよ、どうかこの力を使い、あの巨人を倒して欲しい。それが、このタイタンキラーを作った我々ドワーフ族の望みである……』」

「ドワーフ……ファンタジーでよく出てくる鍛冶を得意とする種族の事だけど、この世界にもいたんだ……」

「なるほど……なあ愛依、そこに書かれていることが本当なら……」

「……うん、あのレイジって巨人にも対抗できる」


 私達はまじまじと茉莉が手に取った剣と盾を見る。

 タイタンキラーと呼ばれる剣と盾、それは松明の光を反射し、黄金色に輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ