43 旅は本と共に
私達は旅をしている。人類を支配しようとしている相手に会うための旅に。
それは私達が元いた世界に帰るための旅でもある。
異世界へと飛ばされた私達が、日本に帰るための旅。
そんな私達の前には、きっと様々な困難が待ち受けるだろう。
だが、私達は恐れない。
どんな困難も、一致団結して乗り越えて見せる。
「ああ? だからアタシが愛依と一緒の部屋になるっつってんだろ?」
「もーそうやって強引に話を進めるのが茉莉っちの悪いところだよー。まあ一緒の部屋はうちなんだけどねー」
「あ、わたしにも権利はあると思います……!」
「ま、お姉ちゃんが一番好きなのは私だから一緒の部屋は私って決まってるんだけどねー」
……そう。
一致団結して……。
「あ、マリっちまたそういうこと言うんだー。思い込み激しいのもここまで来ると芸術だよねー」
「え? 思い込み? 私はただ現実を述べただけだけど?」
「まあマリーの妄言は置いておいて……やっぱ愛依と一緒の部屋はアタシだな! うん!」
「ああっ、またそうやって自分勝手に話を進めようとする……! そうはいかないから……!」
団結……。
「よーしいいだろうこうなったら実力で決着をつけようじゃないか」
「すぐ暴力に走るー。でもいいよー、ここで誰が一番強いか教えてあげようじゃん」
「ま、負けないからね……!」
「あ、私はキトラと一緒でいいよねー私モンスターテイマーだし。ねぇキトラー?」
「シャーッ」
「ええいやめんかぁ!!」
私は振り返って大声で叫ぶ。私の言葉で先程までバチバチと火花を散らしていた四人が私の方を一斉に向く。
「ああ愛依、聞いてくれよみんながさぁ」
「あっ、茉莉ちゃんずるい! 愛依ちゃん! 悪いのは茉莉ちゃんだからね! 愛依ちゃんなら分かるよね……?」
「ねぇ愛依っちはうちと一緒の部屋がいいよねー? というかずっと同じ部屋ってことでいいんじゃないかなー?」
「ユミナ、そういうとこだよ。ねえお姉ちゃん、お姉ちゃんは私が一番好きだよね?」
「だからやめぇ言うとるだろうに!」
私は再度怒鳴る。
なぜみんなが私との同室の権利を争っているのかと言うと、立ち寄った街で今日は休もうと話になり部屋を取る事になったのだがそこでは空き部屋が四部屋しかなかったのだ。
それに対して私達は五人。必然的に一人余り誰かと同室という事になる。その事を聞いた瞬間、四人は私との同室の権利を争い始めた、という流れである。
「というかなんでさも当然のように私が誰かと同室って事になってるの……? 別に四人のうち誰かが同室になるって事でも良くない……?」
「え? そりゃあうちが愛依っちと一緒の部屋になりたいからに決まってるじゃん」
「だな」
「うん」
「そうだね」
「こうゆうときだけ意見を一致させるんじゃないよ! はぁ……」
私はやれやれと頭を抱える。
旅を始めてからちょくちょくこういった問題が起こる。
どういう問題かと言うと、私絡みでみんなが喧嘩をする、という問題である。
ふとしたきっかけで誰が私の一番などで口論になるし、細かいことでは食事の席の順番までで争うのだ。まさか旅に出るだけでここまで喧嘩が増えるとは思っていなかった。
それはきっと旅という状況が作り出す環境がそうさせているのだろうと思う。
旅となると五人だけで移動したりいろいろと決めたりしなければいけない事が多い。それが四人に競争心を産ませるのだろうと。
にしても、こういった喧嘩に私はほとほと辟易していた。
だってこういった喧嘩は、最終的に――
「ああ、愛依ちゃん……愛依ちゃんもしかしてわたしの事嫌い……? そんな事ないよね……? 大丈夫だよね……? 信じていいんだよね……?」
「安心しろ愛依、アタシがお前の事ずっと守ってやるから……アタシが横にいることでどんな奴にも手出しはさせないから……」
「愛依っちはさー、やっぱうちとずっと一緒にいるのが一番だと思うんだよねー。少なくともうちにとってはそれが一番だし、きっと愛依っちにとっても一番だよー」
「お姉ちゃんが好きなのは私だから私と一緒になるのは当然だよね? お姉ちゃんも内心それが一番って思ってるでしょ? 私分かってるんだから!」
こうなるのである。こうやってすぐみんなの心の具合がよろしくなくなるのだ。こうなってくると私はみんなのメンタルケアをしなければいけなくなる。
それがなかなかに骨が折れる事があるので私は困っているのである。
「はぁ……」
私は軽くため息をつく。その後、きっとみんなを見て言う。
「決めるにしてもじゃんけんで決めなさい! 後腐れなしの一回勝負で!」
そうして、旅先の宿屋で私達は注目を集めながらも大じゃんけん大会をすることになったのである。
「えへへ、愛依ちゃんと一緒……」
じゃんけん大会の覇者、それは怜子だった。
怜子はニコニコと笑いながら私の横に座っている。
「うん、良かったね……」
私はそんな彼女に苦笑いしながら言う。
「うん、良かった……」
本当に嬉しそうに言う怜子。
私はそんな彼女の頭を撫でる。
「ひゃ!? 愛依ちゃん!?」
「いや、素直に喜んでる怜子、可愛いなーと思ってさ」
「……もう、みんなにそういうことしてるんでしょ」
「ははは……」
ちょっと言葉に詰まる。まあ確かに間違ってはいないのだが……。
「ま、別にいいけど。今はわたしの愛依ちゃんだし」
「私は誰のモノでもないんだけどなぁ……」
再び苦笑い。
まあとりあえずは二人きりで彼女の機嫌がいいからヨシとしよう。他のメンバーの機嫌がちょっと怖いけれど……。
「さて……」
と、そこで怜子が自分のカバンを探り始める。そして、あるものを取り出した。
「あれ怜子、それどうしたの?」
それは本だった。それも一冊ではない。数冊ある。
「これ? 実はここに大きな書店があってね。そこで買ってきちゃったの」
「へぇ……どんな本買ってきたの?」
「えっとね……これは恋愛小説、最近流行りらしいの。それとこれはモンスター図鑑。これからの旅に役に立つかと思って。そしてこれは……」
そうして彼女は喜々として本を紹介していく。
私はそんな彼女が微笑ましく思えてくる。
「怜子は本当に本が好きだよね」
「うん……! 好き……」
怜子に率直な気持ちを口にすると、怜子は笑って答えてくれた。そこからも、本当に好きなのが伝わってくる。
「こっちの世界に来てから漫画やアニメが見れなくなったのは残念だけれど……でも、本は楽しめるから……こっちの世界の小説もなかなかに面白い。わりと俗というかエンタメな感じがして、わたしでも楽しめる……」
「そうなんだ……私にも楽しめるのあるかな?」
「もちろん! ちょっと待ってね……!」
そう言って、怜子は持ち歩いているお気に入りの小説を取り出し並べ始める。
私はそうする彼女を、どこか心地いい気持ちで眺めていたのだった。
このときは、思っても見なかったんだ。
まさか――
「――……愛依ちゃん」
私が怜子に、押し倒される事になるだなんて。
どうしてこんなことになったのか。その発端は、満月の夜だった……。




