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4 パーティ結成!

「私、冒険者になろうと思うの」


 翌朝、朝食の後の方針を話す場に集まったみんなの前で私はそう言った。


「え、えぇっ!?」

「はぁ!?」

「うん!?」


 三人とも私の言葉に動揺しているようだった。

 そりゃそうだよね。突然冒険者の道を志すなんて。

 でも、私は本気だ。


「ど、どういうこと愛依っち!?」

「うん、そのことをこれから説明するね。私、思ったんだ。情報を集めるのと仕事でお金を稼ぐのを両立するのに一番向いているのは、冒険者なんじゃないかって」

「確かにそりゃそうだけど、そんな急がなくても……」

「まあ聞いて茉莉。話によるとギルドはいろんな情報が集まる場所らしいし、冒険者として名声を上げていけばそういう情報も自然と知ることができるようになると思うの。それに危険な仕事ゆえに実入りもいいから、いろいろとできることも増えてくる。だから私は、冒険者になろうと思ったの」


 それを思い立った理由が昨日の怜子だということは伏せておく。

 もしそんなこと言ったら、彼女がプレッシャーに潰されてしまうだろうからだ。


「そんな……でも、愛依一人でよ……」


「別に気にしないでいいよ。みんながみんな危険なことに足を踏み入れる必要はない。だってこれは私がやりたいって思った事なんだから。私のワガママってところ」


 私はみんなの不安を少しでも取り除こうと、はにかんで言った。


『…………』


 しかし、あまり効果はなかったのか、私の言葉にみんな難しそうな顔で押し黙る。


「あ、あはは……」


 まぁ突然の報告だったし、驚くのも無理はないか。

 ここはみんなにゆっくりと噛み締めてもらうしかない。そう思った。

 でも――


「……わかった。だったら、わたしも冒険者になる……!」


 次に怜子から飛び出してきた言葉は、驚きの言葉だった。


「え、ええっ!? 怜子!? 別に無理をして私に合わせなくても……!」

「ううん、愛依ちゃん……いいの。だって、わたしだって早く帰りたい。なら、頑張るなら一人より二人のほうがいいに決まってる……!」

「……そうだな。なら、二人より三人のほうがいいな」

「茉莉!?」

「あー、それじゃあうちが仲間外れになっちゃうじゃん! うちもやる! 三人より四人! ワンフォーオールオールフォーワンだー!」

「ユ、ユミナまで! みんな、本当にそれでいいの!?」


 まさか逆に私のほうがうろたえることになるなんて……。

 私はそれぞれの顔を見る。

 怜子も。茉莉も。ユミナも。

 彼女らの表情は、堅く覚悟を決めた表情だった。

 その表情を見て私は悟る。もうこうなったら、いくら止めても無駄だという事を。


「……はぁ、分かったよ。そうだね、一人より四人のほうがいいかもしれない。じゃあ、みんなで冒険者になる。それでいいね」

『うん!』


 三人が声を合わせて答えた。

 つい動揺してしまったが、今回のことに嬉しい気持ちになっている自分がいるのを、私は感じていた。

 単純だな、私。



   ◇◆◇◆◇



「……というわけで、ここが冒険者ギルドだね」


 私は事前に知っていた冒険者ギルドの場所まで行って、前に立ち言った。

 外装からして他の建物よりも物々しい雰囲気が漂っているように思える。

 その威圧感に、私は思わず息を呑むが、みんなにそれがバレないよう、ぎゅっと手を握って、表情を引き締める。


「それじゃ……入るよ」


 私は三人に言う。三人はコクリと頷いてくれる。私は彼女らから勇気を貰った気分になりながら、取っ手に手をかけ扉を開いた。


「うわぁ……」


 冒険者ギルドの中に入った私は、その内装を見ながら思わず声を漏らした。


「すごい内装……あちこちに武器が飾ってあったり張り紙が貼ってあったり……一見乱雑だけどなんというか空気感がすごい……」

「うん……それに見るからに冒険者って人達がいっぱい……凄い……」

「そうだな……しかし、この道を選んだことを伝えたときのカティアさん、すっごい驚いてたなぁ」

「そだねー。まあ異世界から来た人が突然冒険者の道を選んだらああなるのも当然かもねー」

「ん……」


 三人の言葉に頷きながらも、私は周囲を見回す。

 あたりにはローブを来た魔法使いのような人や、重い鎧に身を包んだ騎士のような人など、様々な人がいる。

 他にも、依頼をしに来たと思われる一般客もそこそこな数見受けられる。

 まさしく冒険者達の集う場所だということを私に教えるようだった。

 この道を一つの道として提示してくれたカティアさんには、今一度感謝せねばなるまい。そうでなければ、この場所に立とうとも思わなかっただろうから。

 しかし、同時にカティアさんには若干悪いことをしたかなとも思う。

 色々と世話をしてもらったのに、冒険者になることを急に決めて急に出立したのだから。

 でも、私達を見送るカティアさんは笑顔だったから、決して悪い感情を抱いていないと信じたい。


「さてじゃあ、さっそく冒険者としての登録をしにいこう。あっちでいいっぽいね」


 私は見るからに受付らしい場所を見つけ、そこに歩いていく。

 そんな私達を見つけたのか、白いシャツの上に黒いベストを着込んだ受付嬢さんと思わしき人が笑顔を私達に向けてきた。


「どうも! ご依頼のお持ち寄りですか?」


 どうも何か依頼をしに来たと思ったらしい。私はそれにふるふると首を振った。


「いいえ、冒険者になりたいんですが」

「冒険者にですか? わかりました。では皆様のタレントを見定めさせて貰います。こちらの羊皮紙にお名前をお書きください」


 私達は言われるがままそれぞれ用意された羊皮紙に名前を書いた。

 すると、その羊皮紙にレーダーチャートが浮かび上がってくる。

 おお凄い。これが魔法か。

 どうやらそれがそれぞれに向いた傾向を示しているらしい。


「なるほど……まず日比野愛依さん。あなたは味方を回復させ光属性の魔法を扱うプリーストが向いているようですね。パーティを支える大切な職業ですよ」

「プリースト……回復か……」


 自分に向いている職種を噛みしめる私。

 回復なんてゲームでしか聞いたことがないが、みんなを癒せるのならこれはとても大切な役目だ。


「次に士崎怜子さん。あなたは主に攻撃魔法を得意とする闇魔法使いが向いていますね。パーティの火力担当となる職業です」

「闇魔法使い……」


 怜子がその職業を聞いて僅かに頷く。

 一体彼女はその職業をどう受け止めたのか、私にはそこまで分からなかった。


「お次に御園茉莉さん。あなたは防御力に優れたナイトの職業が向いていますね。パーティを守る縁の下の力持ちです」

「ナイトかぁ。つまり盾でみんなを守る役目ってことか。おもしれーじゃん」


 茉莉は手を頭の後ろに置いて笑いながら言った。

 どうやら個人的に向いていると思ったらしい。

 私も茉莉らしい職業だと思う。力強い彼女のイメージにぴったりだ。


「最後に櫻田ユミナさん。あなたは逆に攻撃の要である剣士ですね。素早い動きで敵を翻弄し倒すことができます」

「剣士かー。のんびりした職のほうがよかったけど、まあ分かりやすくていいかなー」


 ユミナはのん気に言う。普段アニメやゲームに触れない彼女だが一応は剣士という役目を理解はしているようだった。

 しかし、ユミナはこちらでも随分軽いノリである。


「さて、皆様の向いている職業が分かったところで、クラスチェンジしてギルドにご登録なさいますか? あまりオススメしませんが他の職業にすることもできますが」

「いいえ、いいです。その職業でクラスチェンジしてギルドに登録してください」

「はい、わかりました。では……」


 そう言うと、受付嬢さんが目を閉じてすっと手を差し出す。

 すると、私達の体を光が包み込んで、ぱっとまばゆく光る。

 そして次の瞬間、私達のまとっている服装は見事に変わっていた。


「ほええ……これが、クラスチェンジ……」


 思わず声を上げてしまう。

 私の格好は、白いローブになっていた。そして、片手には真っ直ぐな杖が。

 変わったのは当然他の三人もだ。

 怜子は曲がった杖を持った黒ローブ姿に。

 茉莉は大きな盾を持った銀の鎧姿に。

 ユミナは剣を持った緑の軽装姿になっていた。


「おめでとうございます! 皆様は見事にクラスチェンジを果たされました! 新たな冒険者の誕生です!」


 受付嬢が晴れやかな顔と声で言う。

 すると、ギルド中から拍手が飛んでくる。

 私達はその拍手に顔を赤くしながら、自ら手に入れた冒険者としてのクラスの感覚を確かめた。


「さて、冒険者としてのクラスを手に入れた皆様には、さっそく初級クエストをやってもらおうと思います。これは、どの冒険者も最初に通る道です」

「そんなクエストがあるんですか?」

「はい。それもずばり……」

「ずばり……」


 私達は思わずつばを飲み込む。

 そして、彼女は言う。


「薬草集めです」

「や、薬草……」


 私は顔に指を当てて考える。確か、ゲームだと一番ランクの低い回復アイテムとして扱われるものだったような……。


「はい、薬草は回復薬としてもっとも程度が低いものですが、ゆえに常に需要が存在しています。皆様にはそれを集めに行ってもらいます」


 どうやら認識は間違っていなかったらしい。

 私は他のみんなの顔を見る。みんなも内容を理解し、私に頷いてきてくれた。


「分かりました、そのクエスト、受けます」

「はい! 薬草の集まる郊外には下級の魔物が出ますが、皆様ならきっと乗り越えられると信じています。それでは、ご武運を」

「頑張れよ、新人!」

「死なない程度に頑張れよ!」


 そうして受付嬢さん、そして他のギルドメンバーから送り出された私達。

 こうして、私達の冒険者としての始めてのクエストが始まった。

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