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25 義妹と守護少女

「さて、今日はアタシとのクエストだな。よろしく、愛依」


 翌日。

 やはりというか、今回は私とマリー、そして茉莉での三人のクエストになった。

 怜子は相変わらず情緒不安定なままで彼女を置いていくのはなかなか気が引けたのだが「大丈夫だから……わたし、愛依ちゃんに迷惑かけたくないから……!」と必死な顔で言われてしまって私としてもそこまで言うのなら……という感じで流された。

 また、何より怜子ばかりを気にかけていると他のメンバーのメンタルがまた大変な事になりそうだとも思ったからでもある。

 ともかく、そういうことで今日は茉莉とのクエスト遂行である。

 そして、肝心のクエスト内容はと言うと――


「護衛クエストか……まあ収入は良いよね」


 私達は今一人の大きなバッグを背負った商人を中心に歩いている。

 商人を近くの軍の野営地まで護衛するというクエストだ。

 基本村々の間では街道が整備され街道上は安全に行き来ができるのだが、街道から外れた場所にある野営地となるとそうもいかない。

 そして商人は普段は野営地の移動は軍に随行して行くのだが、たまに軍の移動がないときを商売時期と睨んで商品を運ぼうとする商人がおり、そういう商人は念のためと冒険者ギルドに依頼をするのである。


「ええもちろん、成功のあかつきにはしっかりと報酬を払いますよ、はい」


 商人の男が揉み手をしながら言う。

 私はそんな商人に愛想笑いをしながらも前を向く。

 先頭には茉莉が位置を取り進んでいた。

 そして、商人の近くにはプリーストである私と、モンスターテイマーであるマリーがいる。


「……なあ、どうしてマリーはクエストのときも愛依とべったりなんだよ?」


 と、そこで進みながら茉莉が振り返ってマリーに突然聞いてきた。


「え?」


 急な質問にマリーは声をあげる。


「いやだってよ、アタシが先頭なのはまあ当然の事だ。なんせアタシはパーティを守るナイトだからな。で、愛依が商人さんと一緒なのも分かる。でもマリー、お前はあの小さな翼竜で十分戦えるんだから後方かせめて私達の間ぐらいに位置取るべきじゃないのか?」


 茉莉はそう言って上を見る。

 彼女が目線を向けた上空には、キトラがくるくると旋回しながら飛んでいた。


「えー私は愛依お姉ちゃんと一緒がいいー」

「そんなワガママ言うんじゃねぇってことだよ。パーティの一員になりたいならしっかり自分の役目を果たさないとだろ」


 いやさも当然の事のように言ってますけど以前あなたもそういうの無視して私のところにくっつこうとしてましたよね?

 と思わず言いたくなったがそこはぐっと我慢した。

 言っても余計な混乱を招くだけだからである。


「えーでもさー、そもそもモンスターテイマーの私自身には戦闘能力はないんだよねー、だから近接不利なお姉ちゃんと同じ位置にいるのは至極当然だと思うんだけどー?」

「いやいや、そうは言ってもなぁ……」


 と、そこで茉莉は言葉に詰まってしまったようだった。

 年下に理屈で言い負かされている……。

 まあ確かにマリーの理屈は間違ってはいない。

 モンスターテイマーの彼女は操る翼竜のキトラ頼みだから、後衛に位置するのは何も間違いじゃない。

 でも、それでマリーが私にべったりくっつくのは納得がいかないのも分かる。

 モンスターを操れば近距離でもそれなりに戦うことはできるから、私よりは前に出ても問題はないのが彼女だからである。

 つまりは本人の意識の問題であって、結局どちらの理屈も間違ってはいないのだ。


「……うーん、マリーももうちょっと前に出てもいいんじゃないかな? ほら、私と茉莉の間ならより対応力が上がるでしょ?」


 そこで考えた結果、私は茉莉に助け舟を出す事にした。

 私だってこのマリーがずっとべったりくっついている状況をヨシと思っている訳ではない。

 故に、少しでもマリーが私離れできるように促すことができるのならしていくべきなのである。


「えーやだー、私はお姉ちゃんとがいい。お姉ちゃんだって本当はそう思ってるでしょ?」


 しかし、マリーはむしろ私が口とは別のことを思っていると言い出す。


「え、いや別に……」

「いいや、お姉ちゃんの考えは分かってるよ。茉莉に遠慮してそういうこと言ってるんだよね? でも大丈夫だよ、お姉ちゃんの本心は分かってるから、フフフ」


 いやフフフじゃないんだよ。

 私は全然そんなこと思ってないよ。

 でもマリーの中ではそうなっちゃってるんだよなぁ、面倒な事に。


「…………そうなのか? 愛依」

「いやそんな事ないから! 大丈夫だから! 信じて茉莉!」


 一方で茉莉はマリーの言葉で不安になったのか、不安そうな、かつ感情が爆発しかねないような顔で私を見てくる。

 そんな顔しないでよ! 不安なのは分かるけれど!

 茉莉にそんな顔されるとこっちまで不安になってしまう!

 と、私達がそんなやり取りをしていたそんなときだった。


「キィー!」

「……みんな、ちょっと待って。キトラが何か見つけたみたい」


 マリーが前に進んでいた私達を止めた。

 しかし、あたりには何も見えない。


「……何もいないぞ? 気のせいじゃないのか?」


 茉莉が言う。だがマリーは首を横に振った。


「ううん、キトラが間違うはずないもの。……あっ、もしかして――」


 と、そこでマリーは何かに気づいたようだった。

 その瞬間であった。


「ゴオオオオオオオオオッ!」


 私達の目の前に、雄叫びと共に骨に布を貼り付けたようなモンスター、ゴーストが三体現れたのである。


「ゴースト!? なんでこんなところに!? ここは出現エリアじゃないよね!?」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇ! 戦うぞ!」


 私達は商人を後ろに下がらせて戦闘態勢に入る。


「オラ、こっちだ!」


 まず茉莉が目の前に現れたゴースト達の注意を引くためにシールドを剣で叩いて大きな音を立て、注意を反らしながら攻撃する。

 だが茉莉の剣はダメージを与えていないわけではないが効果的な威力は出せていないようだった。


「ちっ、やっぱ実体のない相手だと剣だとロクにダメージを与えられないか! 幽鬼のオイルを常備しとくんだったぜ!」


 幽鬼のオイルとは実体のない幽霊系モンスター相手にも剣でダメージが通るようになる魔法のオイルの事である。

 主に錬金術師や専門のモンスタースレイヤーが作れるのだが、今回は幽霊系のモンスターはでないと踏んで持ってきていなかったのだ。


「私がやる! シャイン!」


 私は幽霊系モンスターに効果的な光魔法を放つ。


「グオオオオオオッ!?」


 すると、ゴーストの一体が悲鳴を上げながら消滅していくのが見えた。


「よし、この調子で……!」

「うわあああああああああああっ!?」


 と、そこで後ろに下がっていた商人の悲鳴が聞こえる。振り向くと、別のゴーストが現れ商人を襲っていたのだ。


「まずい!」

「私に任せて! キトラ! エンチャント!」


 と、そこでマリーが言う。

 マリーは胸元の宝石を握ったかと思うと、キトラが青い光で包まれる。


「ギシャアッ!」


 そしてそのキトラがゴーストに体当たりすると、ゴーストは大ダメージを受けバラバラになったのだ。


「なっ!? 今何を……!?」

「キトラに魔法をエンチャントしたの! 魔法エンチャントすればゴーストにもダメージが通るから! そんなことよりも茉莉! まだ来るよ!」

「お、おう!」


 マリーが茉莉に叫び、私達は再び前方より襲ってくるゴーストに相対する。

 そうして主に私の光魔法とマリーのエンチャントしたキトラにより、ゴーストの集団を撃破することができたのだった。



「ふぅ、助かりました! これは報酬です!」


 そうして私達は襲ってきたゴーストを跳ね除け、商人をしっかりと野営地に運ぶことに成功した。

 商人は笑顔で私達に礼金の入った袋を渡してくる。


「あっ。ありがとうございます」


 私はそれを笑顔で受け取る。


「いやぁそれにしても本当に助かりました! 念のためにあなた達を雇ってよかった!」


 そして商人は私の手をぎゅっと握る。

 感謝の印なのだろう。私もそれで笑顔で対応する。


「っ!? おいおめぇ!? 愛依に何馴れ馴れしく触ってるんだ!」


 と、そこで茉莉が突然割って入ってきて商人の首元を掴んだ。


「ひ、ひぃ!?」

「茉莉!?」


 私と商人は共に驚く。

 そしてすぐさま私は二人を引き剥がす。


「ちょっと茉莉何やってるの!? ただ握手しただけでしょ!?」

「……あ、ああ。すまない……で、でもそいつが急に愛依に触れたから愛依が心配で……」


 茉莉は言う。しかし、あまりにも過剰反応だ。

 それは、私に嫌な予感をさせた。


「……愛依はアタシが守るんだ……アタシが愛依を守るんだ……誰も、何も近寄らせねぇ……」


 茉莉はブツブツとそんなことを呟き始める。

 それは、私の嫌な予感が現実だったことを表していた。


「あー……マジか……」


 私は片手で頭を抱える。

 そう、怜子に続き茉莉も戻ってしまったのだ。

 私を守ろうとするあまりに、近づく存在をすべて傷つけようとするような、過保護な彼女の姿に……!

 その要因は、きっとさっきの戦いだろう。


「…………」

「……?」


 私はマリーを見た。きっと、さっきの戦いで一人何もできなかったのが彼女の心をおかしくしてしまったのだろう。年下の娘よりも力になれなかったことが、劣等感と過保護な心を呼び起こしてしまったのだろう。

 でも、まさかこんなに顕著に症状が戻るなんて……。


「アタシが守る……アタシが、アタシが……」

「……どうしてこうなった」


 ぶつぶつと独り言を言う茉莉を前に、私は思わずそうつぶやいてしまうのであった。


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