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17 悩み多き生活

 私達の異世界での生活は困難も多いがしっかりと結果も出しつつある。

 怜子はこの世界の本をたくさん読んで知識に変えていっているし。

 茉莉はその体力でクエストを率先して解決してくれるし。

 ユミナは私達が行き詰まったときに意外な観点からのヒントを出してくれる。

 みんながみんなで協力して異世界の生活に臨めている……と思う。

 ただ、私には悩みがある。

 もちろん、クエストで稼いだお金をどう割り当てようとか、元の世界に帰る手段がまだ見つからないとか常日頃から抱えている問題はある。

 だが、私の悩みはそういった大きく一般的な問題ではなく、もっと個人的なものだ。

 それは……


「ねぇ愛依ちゃん、明日は誰の日って決まってなかったよね? だったらわたしと一緒に過ごそうよ。明日は休みに割り当ててるし、愛依ちゃんと二人っきりで過ごしたいな……それとも愛依ちゃんは、わたしと一緒は嫌……?」

「いやいや怜子、抜け駆けはよくないって。だったらアタシも頼むぜ。愛依、明日はアタシと過ごそう。アタシは愛依と二人でいたいんだ……邪魔者はぶん殴ってでも追い払うからさ」

「あー二人ともずるいー。だったらうちだって頼むもんねー。愛依っち、明日はうちと一緒に過ごそうよ。だって愛依っちはうちのものなんだから休みの日にずっと一緒にいてくれるのは当然だよねー?」


 ……そう、私の親友達の愛がとてつもなく重いことである。

 こっちに来てからメンタルに変調をきたし、一時は瓦解しそうになっていた私達の仲だがなんとか持ち直したのはよかった。

 良かったのだが……なんか三人とも悪い方向でメンタルが固定されてしまった。

 今も私のことを見る話す三人の目は昏い。


「あ、あの……たまには一人でゆっくり過ごしたいなーって……」

「うーんみんなの希望が被っちゃったね……そうだ、時間によって愛依ちゃんと一緒にいられる担当を変えるってのはどうかな?」

「おっ、さすが怜子いい案出すじゃないか。そうだなそうすると朝昼夜で分けるのが妥当かなぁ」

「なるほどねー、じゃあうちは昼がいいー! 朝は眠いし夜も眠いからー」

「私の意見は無視かー、そうだよねー……」


 私をシェアする相談をしている三人を見ながら私は呟く。

 いや、別に三人から離れたいってわけじゃないんですよ?

 三人が私のことを好いてくれるのは悪い気はしないし、前みたいに喧嘩しなくなったのは本当に良いことだと思う。

 でもね。

 疲れるんです。

 三人とも昔みたいに健全な感じじゃないというか、どこか怖い部分があるせいで私はいつ彼女達の地雷を踏んで傷つけてしまわないか怖いところがある。

 そしてもし彼女達が私のせいで傷ついてしまえば、そこからまたどんなことになるか想像もつかない。

 私としては昔みたいにみんな仲良く健やかに過ごせればいいのだけれど、この異世界でストレスを溜めた三人はそうもいかないようで、彼女達には定期的なケアが必要である。

 しかしそれにはなかなかの労力がかかる。

 うまくいかないものである。

 でも、


「……しょうがないなぁ」


 私は私をシェアする計画を立てる三人を見ながら苦笑いして言う。

 三人のメンタルケアは大変ではある。でも、嫌ではない。

 一時期に比べたら私達はなんだかんだでまた仲良し四人組になれている、そんな感じはするからだ。

 こちらでの生活はやはり大変だ。未来だってどうなるか分からない。帰れる術があるかどうかさえも不明だ。

 でも、この四人ならやっていける。私は、そう思っている。



  ◇◆◇◆◇



 そんなこんなで迎えた翌日。

 私をシェアする方向で固まった三人は、それぞれ予定を立てて時間になったら私を迎えに来ると言っていた。

 それを私は朝着替えながら宿の自室で待つ。

 

 ――コンコン。


 ちょうど私が着替え終えたタイミングで、扉がノックされる。


「はーい、どうぞ」


 私はそれに答える。

 すると、ゆっくりと扉が開かれた。

 入ってきたのは、怜子だった。


「愛依ちゃん……おはよう」

「うん、怜子。おはよう。朝は怜子なんだ」

「う、うん。朝はわたしで、昼はユミナちゃん、そして夜は茉莉ちゃんって事になって……だいたい五時間ごとの交代って……」


 怜子が私に説明する。

 正直直前になるまで私に説明がないのはちょっとどうかと思うけれど、まあそれは言わないことにする。

 言ったら絶対怜子は大げさにショックを受けちゃうだろうし。


「それでどうするの? 何かプランは?」

「えっと……その、朝は二人で街に出たいなって……」

「街に? いいけどこんな朝早くやってる場所ってあったっけ?」

「一応、あるよ……最初はそこで軽く朝食とか食べながら時間を潰して、そのあと帝都図書館に行きたいなって……」


 私は聞くと、怜子はコクリと頷きながら言う。


「へぇ、図書館か。いいね、私こっちに来てから全然読書とかしてなかったし。じゃあいこっか、エスコートよろしくね」

「う、うん……!」


 そうして怜子は私の前を歩き出す。私はその後ろについていった。

 いったのだが……


「…………」

「……怜子? そんな頻繁にこっち向かれるとちょっと気になるしなかなか進まないんだけど……」

「だ、だって突然愛依ちゃんがいなくならないか心配で……」

「いなくならないって……」


 彼女の過度な心配性はやはり治っていないようだった。私は思わず苦笑する。

 そんな感じで私達はゆっくりとした歩みで街の中を歩き、そしてやっと目当ての店と思しき場所にたどり着く。


「ここ……」

「へぇ……カフェか。こんなところにこんな店あるの知らなかったよ」


 彼女が連れてきてくれたのは朝食も出しているカフェのようだった。

 街の少し人通りの少ない場所に建っており、朝なのもあってとても物静かな雰囲気を漂わせている。


「配達のクエストで街を歩いてたら偶然見つけて……いつか愛依ちゃんと一緒に来てみたいなって、そう思ってたの」

「へぇ、なるほど。じゃあ入ろっか」

「うん」


 私達はその店に入る。店は外観と同じく落ち着いた雰囲気の内装だった。客もまばらだ。私達はそんな店内を見回し窓際の椅子が向かい合っている席につく。


「それじゃあ何頼もうかな」

「うーん、じゃあわたしはトーストとコーヒーで……」

「なるほど。じゃあ私はサラダとジュースで」


 私達は注文を決めるとカウンターでコップを拭いている店員さんに注文を頼む。

 店員さんはそれに静かに頷いて、しばらくすると私達の下に料理と飲み物が運ばれてきた。

 私達はそれをさっそく食べる。うん、味はなかなかだ。


「いい店だね、さすが怜子」

「わたしはただ見つけただけだから……」


 そう言いながらも怜子は照れ笑いをする。


「やっぱり、怜子は笑ってるほうが可愛いよ」


 そんな彼女に私は言う。率直な気持ちだった。


「へ、へ!? も、もう愛依ちゃんたら……そういうところだよ……」

「……?」


 顔を赤くしながら言う彼女の言葉の意味がよく分からなかったが、まあ悪い意味ではないのだろう。とりあえず、褒め言葉として受け取っておこう。


「あ、ごめん。ちょっとお手洗い」


 と、そこで私は軽く催し席を立つ。すると、怜子は急にビクっと体を震わせた。


「め、愛依ちゃん? 大丈夫? いなくならない?」

「大丈夫だよ……心配性だなぁ」

「で、でも実は逃げ出すつもりとか……」

「そんな事しないから! なんでそんな急に不安になってるの!?」

「だって初めての店で一人とか怖いし……嫌な予感が……」

「しなくていいからそんな予感!」


 私は思わずツッコミながらも、やはり過剰に心配性な彼女を安心させるのに苦心するのだった。



 それから私達は朝食を終え、図書館へと行った。図書館に行った怜子は目を輝かせながら二人で様々な本を吟味した。

 最終的に怜子は恋愛小説、私は歴史書を選び時間いっぱいまで図書館で本を読んだ。もちろん読み切れたわけではないので本を借りて、そして私達二人の時間は終わった。

 そうして宿に帰った私達を、今度はユミナが迎える。


「おかえりー二人ともー。さ、愛依っち、次はうちだよー」

「うん分かってるよ。それで、ユミナはどういうプランがあるの?」

「ふふ、それはねー……うちの部屋で時間いっぱい二人でだべるの!」


 ユミナは少し溜めて、そして両手をバっと上げて答えた。

 その言葉に私は少し驚く。


「えっ、それでいいの?」

「うんー、うちは愛依っちと二人っきりでいたいんだー、誰の邪魔もなしでねー。それがうちの幸せって言うかなんていうかー」


 ニコニコしながら言うユミナ。まあ彼女がそれを望んでいるならそれでいいだろう。


「うん、分かった」


 私はそれに頷き、彼女と共に部屋にいく。

 ユミナの部屋は以前と変わっていなかった。以前というのはもちろん私が監禁されかけたときの事だ。

 ――ガチャリ。

 と、私が部屋に入ると、背後から鍵がかかる音がした。振り返ると、ユミナが部屋の鍵をかけている姿がある。


「……前の鍵は茉莉に壊されたよね? もしかして新調したの?」

「うん、そだよー。だってこうして愛依っちと二人っきりになったときに邪魔されたくないじゃん。今度の鍵は前よりももっと堅いんだよー凄いでしょ!」


 自信満々の顔で言うユミナ。そんな彼女に、私はつい引きつった笑みになる。


「……ちなみに、今日一日のユミナとの時間で私は外に出られるの?」

「え? 出る必要ある?」

「……ほ、ほら。お手洗いとかさあ……」

「うちは愛依っちのならどっちもウェルカムだよー」

「ウェルカムじゃないよぉ!?」


 思わず大声を上げてしまう。そんな私に、ユミナはカラカラと笑う。


「もうー大丈夫だよ半分冗談だから。トイレのときにはちゃんと鍵を外すよ?」

「半分は本気なんだ……」


 うーんやっぱり彼女の私に対する独占欲は強いようだ。まあ前よりはマシになっているからいいんだけどさ……。


「それじゃ、お話しよっか! ほら、ここ座って!」


 ユミナはそう言うとベッドに座って横をポンポンと叩く。


「はいはい」


 嬉しそうな彼女に対し私は軽く笑いながら彼女に指示された通りに横に座る。

 そうして私達は他愛のない会話を始めた。

 こっちの世界の天気についてとか、化粧品やおしゃれが限られている大変さとか、最近のクエストについてなどである。

 本当にとりとめなのない会話なのだが、不思議と長続きした。

 お互いが無口になることはあまりなく、お互いしゃべっては聞きしゃべっては聞きというのを繰り返した。


「にしてもさ、やっぱ愛依っちは凄いよー」

「え? 何が?」


 そんな中、急にユミナが私を褒めてきた。


「いやさ、だって愛依っち全然こっちの世界で泣き言いわないじゃん。うちはヘタレそうになったのにさ。やっぱそういうとこ凄いなって」

「そんなことないよ」


 彼女の言葉に、私は答える。


「私が頑張れるのは、ユミナ達が側にいてくれるおかげだよ。私一人なら、きっと潰れてた。三人といられるから……ユミナが笑ってくれるから、私も笑ってられるんだ。ありがとう、ユミナ」


 私はそう言ってユミナに笑いかける。すると、ユミナは急に顔を赤くする。


「……もう、そんな笑顔で言ってさー。そういうところだよ、愛依っち」

「……?」


 また言われてしまった。やっぱりよく分からないけれど、今回も褒め言葉として受け取っておこう。

 結局、私達はその後も時間いっぱい、日が暮れるまで話し続けたのだった。



「よっしゃ、やっとアタシの番だな! 行こうぜ、愛依!」


 日もほぼほぼ沈んだ時間。今度は茉莉との番だ。茉莉は私の手を引き外に出ていく。


「ちょっと茉莉、どこへ行くのさ!?」

「なあに、軽く街の外に出るだけだよ!」

「外に!? この時間に!?」


 私は驚く。基本的に夜に街の外に出ることは少ない。一応街道は松明で照らされているとはいえ、ちょっと道を外れると月明かりだけが頼りになるし、夜になると凶暴になるモンスターだっている。

 だから、特にクエストで用がなければ帝都の外に夜出ることはあまりなかったのだ。


「ああ、どうしても愛依と一緒に行きたい場所があってな。大丈夫だ、何かあってもアタシが守るから!」


 茉莉は空いた片手で力こぶを作りながらそう言う。彼女がそう言うと、私は不思議と安心した。


「……もう、しょうがないなぁ」


 私はそんな彼女に軽く観念したように笑って言う。

 そうして彼女は外に私を連れて行く。そして帝都と他の街を繋ぐ街道から少し外れた脇道を通っていく。

 そうして時間も夜になった頃に、私は連れられた。月がとても綺麗に見える、崖上の花畑へ。


「わぁ……!」


 私は思わず声を上げる。

 白い花々が咲き誇る花畑は、月明かりを反射し幻想的な雰囲気を醸し出している。


月鏡花(げっきょうか)っていう、この世界特有の花らしい。こうして月明かりに反応して輝くから、そう言われてるんだってさ。これを、愛依に見せたくてな」

「凄い……よくこんな場所知ってたね、茉莉」


 私は感動しながら言う。

 すると茉莉は、ニカっと笑いながら応える。


「まあな。偶然花屋に行ったときにこの花の事を聞いてさ。愛依と一緒に見たい。そう思ったんだ」

「なるほどね……」


 私は感心する。


「やっぱり、茉莉って凄く可愛い乙女だよね」


 そして、言う。


「へ?」

「だって、こんな綺麗な花畑を今まで内緒にして、こうして私だけにサプライズで見せてくれるし、それに他の二人よりも花の事とか好きなの、私知ってるんだから。だから、茉莉のそういうところ、やっぱり可愛いなって」

「か、可愛いって……面と向かってそんな……ったく、そういうとこだぞ愛依……」

「……?」


 今日コレを言われたのは三回目だ。やっぱりよく分からないが、まあ今回もきっと褒め言葉なのだろう。

 私は彼女に感謝しながら、花畑を眺め続けた。


「……おや?」


 そんなとき、他に話し声が聞こえてきた。どうやらここを知っているのは私達だけではないらしい。

 恋仲のような男女が何組かこの花畑にやって来た。


「はは、さすがに独占とはいかないみたいだね」

「……クソが、アタシと愛依の二人っきりの時間を邪魔しやがって……シールドバッシュして吹き飛ばしてやろうか……?」

「ちょっと茉莉ぃ!? 一般人にスキルは使用しちゃだめだよぉ!?」


 私は慌てて言う。

 うーん、やっぱり攻撃的なところは治ってないなぁ。私はその後なんとか茉莉の気を鎮め、二人で花畑での時間を過ごすのだった。



「はあ……あっという間だったなぁ」


 私は部屋に戻り、一人ベッドに倒れる。


「さすがに三人の相手はちょっと疲れちゃったな……」


 そんなことを言ったが、私の心は満足感で満たされていた。


「三人が私を休日にシェアしようなんて言い出したときはどうなるかと思ったけど、わりとなんとかなったな……」


 天井を見つめながら私は言う。

 三人は本当に心からの気持ちで私をもてなしてくれた。それは、とても楽しい時間だった。

 だから、今の疲れも心地が良い。


「……このまま、ちょっと大変でもいいから平和に過ごせたら良いなぁ」


 もちろん、最終目標は元の世界に帰ることだが、この時間も悪くはないと、私は思っていた。

「さて、明日からまたクエスト頑張らないと」

 私は浮かれた気分に浸りながらも、そう言って体を起こして伸ばす。

「そのためにも、気持ちよく寝てしっかり疲れを取らないとね。お風呂入ってこよ」

 そして私は荷物を部屋において宿にある浴場へと向かった。


 このときの私は知らなかった。

 まさか、予想外の困難が私の身に降りかかることを……。

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