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16 愛のカタチ

「聞いたぞ愛依! 凄いじゃないか!」


 後日のことである。

 ギルドで一人みんなを座って待っていた私のところに、カティアさんがやって来た。


「カティアさん!? どうしてここに!?」


 彼女と会うのは久々で、私は驚く。


「どうしてって、帝国の将軍である私が領内を歩くのはおかしなことか?」

「いや、そういうことじゃ……」

「いやいやそういうことなんだ。リッチ……あれは我々軍の精鋭でも手こずる相手だぞ!」


 カティアさんが興奮したように私は言う。


「はは……」


 私はその勢いに苦笑いで応える。


「いいえ、偶然ですよ……。あの遺跡の最深部にあったマジックアイテムのおかげです」

「ん? ああ、人の精神力を力に変えるというやつだったか。今回発見されたのは」

「はい、そうです。私達は、それに助けられたんです」


 私達をリッチに勝利させたあの力。


 それは遺跡の最深部に眠るマジックアイテム『集約する魂』の力によるものだった。


「あの遺跡の奥にあったマジックアイテム『集約する魂』は、人の心が一つになったときに力を発揮するマジックアイテムらしいです。その一つになった心が願ったことを現実にするとかなんとか。とんでもないですが大変使いづらいマジックアイテムで、今後どうするかは現在議論中。なので今はギルドの宝物庫に保管してますよ」

「ああ、それは私も知っている。帝国軍でも話題に上がっていたからな。だが、心を一つにするという大変難しい条件を、よくクリアできたものだな……しかも、存在も知らなかったのに」

「ええ、まあ……」


 私は、今度は普通に顔をほころばせる。

 その条件を満たしたことを考えると、私はとても嬉しい気持ちいなるからだ。


「私、あのとき想ったんです……みんなのために、大切な親友達のために力が欲しいって。そしたら、あのマジックアイテムは発動した。それはつまり、他の三人もそう想ってくれたってこと。みんなの心が、みんなを想う気持ちで一つになったってことなんです」

「……なるほどな」


 私の言葉を聞いて、カティアさんもまた私に微笑んだ。


「どうやら、いいチームになったみたいだな。君達は。最初、冒険者になると聞いたときはどうなることやらと思ったが、杞憂だったようだ」

「いえいえ、それがなかなか大変で……」


 と、そんなときだった。


「あ、愛依っちいたいたー!」

「……と、カティアさん……?」

「おっ、本当だカティアさんだ。久しぶりだなぁ」


 所用があると言って外していた三人がギルドに戻ってきたのだ。

 私は三人を笑顔で迎える。


「おや、君の大切な仲間が帰ってきたな。それでは、私は失礼するよ」

「え? 話していかないんですか?」

「そうしたいのはやまやまだが、私も僅かな時間を見つけてここに来ていてね。それに、大勝利を収めた後だ。ゆっくりと仲間と過ごしたいときもあるだろう。何、またいつでも屋敷に遊びに来てくれ。待っているぞ」


 そうして、カティアさんは三人に軽く挨拶をして帰っていった。

 彼女と入れ違うように、三人が私の側の椅子に腰掛ける。


「カティアさん、すぐいっちゃったね。もっとゆっくりしていけばよかったのに」

「だよね。それよりも、用事は済んだの?」

「ああ、ばっちりとな」

「うん! ちょっと時間かけて愛依っちを一人にしちゃったけど、それはごめんねー」

「いや、いいんだよそんなことは」


 私は彼女らに笑いかける。

 不安定になっていたときはあんな歪みあっていたのに、今ではすっかり元通りの仲良しだ。

 私はそれがたまらなく嬉しかった。

 みんな仲良く。それが一番だ。


「よし、じゃあみんな集まったところで今回の報酬について話そうか。今回かなーりのお金が手に入ったからね。使い道はしっかり決めないと。装備を一新するか、アイテム買い込むか、情報を集めるために使うか……いっそのこと、新しい拠点を手に入れるってのもありだよねぇ。ちょっと値は張るけど、それでもある程度は残るし」

「あ、ちょっと待って」


 と、そこで怜子が私の話の腰を折った。


「うん? どうしたの?」

「その前に、愛依ちゃんに伝えなきゃいけないことがあるの」

「伝えなきゃいけないこと?」

「うん、そう。実はそれを話し合うために三人で集まってたんだ」


 なんだろう、伝えなきゃいけないことって。

 すっかりみんなが元通りになった今、変なことじゃないとは思うんだけど。


「それじゃあ……誰が言う?」

「ああ、じゃあアタシが言うよ。こういうことはアタシが一番得意だしな」


 と、そこで茉莉が一歩前に出た。

 そして、彼女は言った。


「実はな愛依。アタシ達話し合ったんだ。みんな愛依のことが大好きだけど、愛依は一人しかいない。このままだとまた前みたいなことになっちまうってな。だから、どうしようって。これから一緒に冒険してくのにそういうのはまずいよな? だから決めたんだよ。みんなで愛依を共有しようって」

「…………はい?」


 え? え?


 なんか今、変なこと言わなかった?


「……共有?」

「そうさ。みんなで日にちを決めて愛依に相手をしてもらうんだ。それぞれ、一日愛依と好きなことをするっていうね。それを持ち回りで決めて、愛依にも頑張ってもらおうって」

「……一応聞くけど、好きなことって?」


 嫌な予感しかしないんですが……。


「そうだなぁ、怜子だったら一日頭をなで続けてもらうとか、アタシだったら昔やりたくてもできなかったおままごとでママになってもらうとか、ユミナだったらずっと部屋で二人っきりとか……あ、あくまで例だからな? みんなやりたいことはいっぱいあるから、そのつどいろいろ聞いてもらうことになると思うけど」

「……私に拒否権がないように聞こえるんですけど」

「え? だって愛依は私達の事好きなんだろ?」

「そうだけど……?」

「そしてアタシ達も愛依が好き。でもアタシ達の好きってちょっとでかいから、発散しないとダメなんよね。でも、愛依がアタシ達のこと好きなら愛依もきっと幸せになれるよ。みんなで幸せになろう」


 ……あー、だめだこれ。

 私、勘違いしてた。

 みんなは仲良くなったけど、あれだ。

 やばくなってたのは治ってないねこれ。

 だって、三人ともすごい底知れない目で私を見て怖い笑みを浮かべてるんだもん。


「えっと……その……」

「……まさか、嫌って言わないよな? アタシ達の気持ちを、踏みにじったりしないよな?」

「しないよねー言わないよねー愛依っち。だって愛依っちは、うちらのこと好きなんだもん。嘘なんてつかないよね」

「そうだよね! だってみんなの心が一つになったんだから、この気持ちだってきっと一つだよね!」


 怖い。みんな笑顔なのに、むちゃくちゃ怖い。

 笑顔ってこんな怖いことになるの。


「ハハ……ハハハ……」


 私は乾いた笑いを上げる。そして、これからの冒険とか、現代に戻る方法探しとか、お金の使い道とか、そういう考えなきゃいかないこと全部頭の中からどっかいった状態になってしまう。


「どうして……どうして……」


 そして私は、頭を抱え、天井を仰ぎ、言った。


「どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

第一章はここまでですが、次からは第二章が始まります。

投稿日時は変わりません。

お付き合いいただけると幸いです。

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