08 キャラクターのモデルとデザイン
原則として、当作のキャラクターに明確なモデルは存在いたしません。
その中で唯一の例外は、ミダ=スンとツヴァイ=スンになります。
ただしもちろん他作品のキャラクターをそのまま踏襲したわけではなく、あくまでイメージ上の部分に留まります。
そのモデルとなったのは、栗本薫先生の著作である「グインサーガ」に登場するユラニアの三公女、長女のエイミアと三女のルビニアです。
エイミアは金の亡者で、ひっつめ頭という部分。
ルビニアは食事にしか興味のない極度の肥満体という部分で、影響を受けました。
なおかつ、ツヴァイ=スンはもっと可愛く仕上げたかったので、ムーミンのリトルミイのイメージも添加された次第でございます。
そしてそれ以前に、スン本家の家人はキリスト教における七つの大罪にあてはめてみようかと思案しておりました。
それらの大罪を元ネタにして、キャラクターの内面を設定しようという試みでございます。
憤怒:ザッツ=スン
怠惰:ズーロ=スン
色欲:ディガ=スン
傲慢:ドッド=スン
暴食:ミダ=スン
強欲:ツヴァイ=スン
ここまではそれなりにイメージが合致しましたが、「嫉妬:ヤミル=スン」だけは上手くいきませんでした。
まあ、これはあくまでキャラクターを設定するための材料でありましたので、ヤミル=スンを無理やり嫉妬深い性格に貶めることなく、現状で落ち着いた次第でございます。
自分としてはこちらのアイディアが先にあり、そこからユラニアの三公女を連想したように記憶しております。
ただしそれも十年以上昔の話でありますため、記憶はおぼろげでございます。
さらなる余談といたしまして、ダルム=ルウのキャラクターデザインについて語らせていただこうかと思います。
ダルム=ルウには、いっさいモデルも存在いたしません。
もちろん自分はさまざまな作品を吸収した上で自作のキャラクターを設定しているのですから、あちこちのキャラクターから影響を受けていることでしょう。それでもダルム=ルウに関して、特定のキャラクターをモデルにしているという意識はありませんでした。
そうして書籍化にあたってキャラクターデザインをしていただく折には、テキストで特徴を伝えることになります。
自分が提出したテキストの内容は、以下の通りとなります。
性別:男
年齢:19歳
身長:178cm
体格:すらりと引き締まっている。
髪の色:黒。
髪型:長くのばして首の後ろでたばねている。
瞳の色:青。
顔立ち:非常に精悍で端整だが、表情は険悪。
性格:寡黙。家族以外の人間には、きわめて傲岸。
特徴:ルウ家の次兄。アイ=ファに思いを寄せているが、態度は攻撃的。
第1巻で初登場するダルム=ルウの資料ですので、なかなかに悪役チックでございます。
それはともかくとして、自分はこれ以上の情報を提出しておりません。
キャラクターのイメージが伝わりにくい際には「既存の作品で参考になるキャラクターはいないか?」というご質問をいただくこともありますが、ダルム=ルウに関してはそういう話もございませんでした。
ちなみにそういったご質問をいただいたキャラクターは、自分の記憶にある限り、ミダ=ルウとカミュア=ヨシュの二人きりでございました。
ミダ=ルウは「千と千尋の神隠し」の「坊」、「映画グーニーズ」の「ロトニー」、「ベルセルク」の「モズクスの弟子の『子供のような顔の大男』」というハチャメチャな例を挙げ、もっともキャッチーな「坊」が参考にされたようです。
カミュア=ヨシュはなかなか例が思い浮かばず、苦しまぎれに「デスノート」の「アイバー」、「西部劇の飄々としたガンマンのようなイメージ」などとお伝えいたしました。
カミュア=ヨシュなどは自分の中で明確なビジュアルのイメージがありましたので、それこそ特定のモデルが存在しそうなところであるのですが、まったく思いつきませんでした。
話を戻して、ダルム=ルウです。
上記の資料のみで、ダルム=ルウは理想通りのキャラクターデザインに仕上げていただくことがかないました。
それから数ヶ月、あるいは数年が経過したのち、自分は何かのはずみで「グインサーガ」のアニメ版を拝見して愕然としました。
そちらに登場した「イシュトヴァーン」というキャラクターが、ダルム=ルウにそっくりであったのです。
もちろん画風が異なっておりますため、客観的に見ればそこまで似ているわけではないのかもしれません。
ただ、自分がダルム=ルウに抱いていたビジュアル的なイメージは、おおよそ備え持っておりました。
なおかつ、これはアニメ版ではなく原作の話になりますが、のちになって顔に大きな傷跡が残るという設定までもが、かぶっていたのです。
自分は「グインサーガ」をこよなく愛する身でございますが、イシュトヴァーンのキャラクターデザインに影響を受けているという自覚はいっさい持ち合わせておりませんでした。
そして現在もなお、ダルム=ルウのデザインがイシュトヴァーンに影響を受けているという認識もありません。
だからきっと、自分は無意識の内に影響を受けていたのでしょう。
『グイン・サーガ』を愛読するあまり、ひとつの美男子像としてイシュトヴァーンのイメージが刷り込まれたのかもしれません。
それが数ヶ月や数年のタイムラグをもって自覚することになるという、自分にとってはなかなかに得難い体験でございました。
余談の余談となりますが、自分がガズラン=ルティムやダリ=サウティのような大柄で穏やかで頼もしい人物を好ましく思うのは、「グインサーガ」の主人公グインや夢枕獏先生の「闇狩り師」シリーズの主人公・九十九乱蔵の影響であるかと思われます。
また、中性的な美貌を持つフェルメスは「グインサーガ」のアルド・ナリスに影響を受けておりますし、《ギャムレイの一座》のアルンとアミンは同作のレムスとリンダにこじつけられなくもありません。
そしてそもそも『星無き民』の設定も、「グインサーガ」を読まずして生まれることはなかったでしょう。
斯様にして、自分は「グインサーガ」から強い影響を受けております。
当作がこれほど長大になったのも、「グインサーガ」をリスペクトした結果であると言えるのかもしれません。




